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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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魔法

ブックマーク&評価、ありがとうございます。執筆の励みになります。

引き続き頑張って書いていきますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

「エ、エオストレ、続けてもよろしいですか?」何となくぎこちなさは残っているが、ヒルデガルトは白銀の古龍への聞き取りを続けた。

「古龍は人間やその他の生物の姿を取って、こちらの世界で暮らすことがあるのですか?」

「短時間ならそういう姿になることもあるけど、やっぱり小さな姿は窮屈だからずっと人間とか蜥蜴みたいなので居続けることはないと思う。寝る時なんか向こうの世界に帰って伸び伸び寝たいし。」

「私は龍の世界がどのような所かは存じ上げないのですが、そちらの世界のどこかでアデルハイトが眠りについていることはありませんの?」

「うーん、それも考えたんだけど、向こうの世界の中にあれば、『探知』の魔法に大きく反応するはずなのに、それが無くて。」残念そうにエオストレは首を横に振る。


「古龍ほどの力があれば、こちらの世界でも『探知』の魔法で探すことはできないのでしょうか?」

「私自身がまだ継承の儀式を済ませていなくて、力を発揮できないこともあるんだけれど、向こうの世界には古龍と寿命を永らえた一部の亜龍くらいしかいないから、大きな魔力を帯びた存在は探知しやすいのよ。それでも引っ掛かってこないから、こちらの世界にあるはずなの。」


「こちらの世界には古龍ほどの力のある存在はないので、すぐに探せそうですけれど。」

「それが違うの。こちらの世界はたとえば何人もの人間が力を合わせて強力な結界を張っていたり、海や火山のように特定の精霊の力が強い場所があったりして、『探知』の魔法が届く距離がそれほど遠くないの。」

古龍ほどの力の持ち主であればどちらの世界だろうと魔法を自由に使えそうな気がするのだが、どうもそうではないらしい。


「魔法のことには詳しくありませんが、そういう物なのですね。」魔術について本格的な勉強したことがなく、簡単な生活魔法の手ほどきを受けただけのヒルデガルトにはなかなかピンと来ない。


「ヒルデガルト、あなた、魔術の勉強はあまりしていないの?すごく素質はあるのにもったいない。」すこし呆れ気味にエオストレは言った。一滴の血にあれだけの力を秘めているのだ。きちんと訓練すれば、かなりの魔術の使い手になれるだろうに。

「素質、ですか?あまり考えたことがなかったですわ。生活魔法以外は使う機会もなさそうですし。」

「これから私と一緒にアデルハイトの肉体を探しに行くのだから、少し勉強した方が安心かもしれないわ。そうね、私が教えるから身体の中の魔力の操作だけでも練習しましょう。」

「魔力の操作?」ヒルデガルトはまだピンと来ないようだ。


「そうよ。人間や龍の身体を器のような物で、魔力がその中に入っている水だと想像して。」

「器と水、ですか?」

「そう。器と水。器を傾けたら水はどうなる?」

「傾けた方に片寄りますわね。」

「そうね。傾けた方に寄って、水深が深くなるでしょ?」

「はい・・・」

「それで、さらに器を傾けたら?」

「水がこぼれますわ。」

「簡単に言えば、そのこぼれた水が魔法よ。」

「こぼれた水が魔法?」不思議そうにヒルデガルトは繰り返す。


「身体という器の中にある魔力という水を器の外に出して、外の世界に影響を与えるの。水がこぼれたら器の外にある物が濡れるでしょ?」

「確かにそうですわね。」

「で、魔力の操作というのは、身体のどこに魔力を動かすか。つまり、器を右に傾けて、器の右側の水深を深くして、右側から水をこぼすか。あるいは左側に傾けて、左から水をこぼすか。」エオストレはさらに続ける。

「場合によっては、器の外から水を入れて、そもそもの水の深さを深くすることもあるわ。ヒルデガルト、あなたの髪から白銀の光の粒がこぼれ落ちると言っていたけれど、それは私から流れ込む魔力があなたの器に入りきらなくて、外に溢れ出したものよ。」


エオストレの説明が何となく腑に落ちてきたヒルデガルトが質問した。

「自らの内に在る魔力と外から入ってくる魔力に違いはあるのでしょうか?」

「相性が良い魔力や相手のための魔力であれば、自らの力になったり、身体や心への悪い作用や影響を取り除くことができるわ。逆に相性が悪かったり、悪意を持って送り込まれた魔力は悪影響を及ぼすの。その最たるものは呪いね。」

「呪い・・・」


「ヒルデガルトは、簡単な魔法は使えるんでしょ?」

「ええ。明かりを灯したり、蝋燭に火を点けるくらいならできますわ。」

「それだけ?」持っている素質と使える魔法があまりにも不釣り合いなことに、もしかしたら父親のアルテンシュタット辺境伯はわざとヒルデガルトに魔法を使わせないようにしているのではないかとエオストレは訝しんだ。

「まあ、良いわ。ヒルデガルトは『点灯』の魔法を使う時はどうやるの?」

「指先に意識を集中して、光の球を想像しますわ。」

「やってみせてくれる?」

「ええ。」エオストレに促され、ヒルデガルトは己の右手の人差し指に意識を集中した。

「点灯!」ヒルデガルトがそう声に出すと、指先から金色がかった白い光の球が浮かび上がり、周りを照らし出した。

「これでよろしいでしょうか?」

「そうね。次は左手から出せる?」

「左手からですか?今まで右手でしか魔法を使ったことがありませんでしたので、うまくできますかどうか・・・」ヒルデガルトはエオストレの指示に従い、左手の人差し指から光の球を出そうとしたが、指先がわずかに光っただけだった。

「ふうん。本当に必要最小限のことしか教わっていないのね。」何となく納得した雰囲気でエオストレは頷いた。


「見ていて、ヒルデガルト。」そう言ってエオストレは軽く意識を集中した。

まずは鼻先、次に右の角の先、左の角の先、右の前足、左の前足と次々とエオストレの身体から白銀に輝く光の球が浮かび上がった。

「器を傾けて、水を動かすように、身体の中に在る魔力を自分の望むところに流し込むの。」最後に尻尾の先から出した光の球をヒルデガルトの方に押しやりながら、エオストレは説明した。

「今すぐできないのは、当たり前だから、これから練習していくと良いわ。きっと上手くできるようになるわよ。」

「エオストレ・・・少しでもあなたのお役に立てるように頑張りますわ。」ヒルデガルトは漂いながら自分の前に流れてきた光の球を受け取った。




今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

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