相談
今回も訪れてくださって、ありがとうございます。
不定期ですが、頑張って書いていきますので、引き続き楽しんでいただけたら幸いです。
「白銀のアデルハイト、つまりエオストレ、あなたの生まれ変わる前の古龍は、北の霊峰に棲み、英雄に力を貸し与えると伝わっています。その言い伝えのように、また誰かの力になるために本来のすみかから外に出ている間に生まれ変わりの時を迎えてしまったのだと考えたのですけれど。」これまでの記憶や書物で得た知識も踏まえながら、ヒルデガルトは自らの考えを口にした。
「そうね。古龍は紅蓮のメテオールのような例外を除いて、他の種族に干渉しないのだけれど、アデルハイトは一度だけ人間を助けたことがあるわ。でも、それはよほど気に入った人間がいたか、全くの気まぐれか、そのどちらかだと思う。私にしても、たまたま、ものすごく相性が良いヒルデガルトが近くにいたから契約を結んだだけよ。」エオストレは床に伏せる姿勢で、首だけをもたげてヒルデガルトを見つめている。
(ほんと、血を少し舐めただけで、あれほど一気に成長すると思わなかったわ・・・)生まれ変わりの際、差し出されたヒルデガルトの指に反射的に噛みついた時のことをエオストレはうっとりと思い出した。
エオストレのそんな思いも知らず、ヒルデガルトは続けた。
「エオストレと私が出会った場所は、今、私たちがいる世界ではなくて、龍の世界でしたわね?アデルハイトが龍の世界とこちらの世界のどちらにいることが多かったか、記憶はありませんか?」
「こちらの世界にいることが多かったようね。向こうの世界は退屈だから。干渉はしないけれど、人間の姿になったり、蜥蜴に化けたりして、物見遊山でこちらの世界をふらついていたと思う。」
人間の姿。そう聞いてヒルデガルトは思わず、エオストレの尻尾から頭までを目でたどった。この白銀の古龍が人の姿を取るのかと不思議な気持ちになる。
(エオストレは人や動物の姿に変われるのかしら?)小首を傾げながら、ヒルデガルトはもう一度エオストレの顔を見た。
「私の顔に何か付いているかしら?」ヒルデガルトの視線に気付いてエオストレは尋ねた。
「いえ、エオストレも人間の姿に変わったりするのかしらと思いまして。」そう素直に答えるヒルデガルトにエオストレは苦笑した。
「そうね。人間の姿でいれば、二人で街に出掛けても誰も気にしないかもね。あるいは蜥蜴になったら使い魔だと思ってもらえるかしら?」
「使い魔・・・」そう呟いて、はっとしたようにヒルデガルトは首を横に振った。
「とんでもありませんわ。白銀の古龍様を『使い魔』だなどと。どんな罰が下るか、考えるだけでも畏れ多いことですわ。」ヒルデガルトは泣きそうになって身震いした。
神や悪魔、古龍などの偉大で畏怖すべき存在がどれほど恐ろしいか、小さい頃から聞かされて育ってきたこの世界の人間にとって、彼らが下す罰や呪いは恐怖の対象でしかない。今さらながら、そのことに思い当たって、ヒルデガルトは声を恐懼した。
「私はヒルデガルトと『血の契り』を結んでいるから大丈夫よ。あなたもさっき『妹みたいなものだ』って言ってたでしょ?」
「妹だなどと、畏れ多いことを申し上げました。古龍様、どうかお許しください。」ヒルデガルトは床に膝をつき、頭を垂れて、かしこまった口調で赦しを請うた。
初めて出会った時には、両手で抱えられるようなごく小さな姿であったし、今も気安く自分の部屋でくつろいでいるが、エオストレはれっきとした古龍なのだ。もっと畏れられ、敬われるべき存在である。
「もう。何をしているのヒルデガルト。」エオストレは少し怒ったような口調で言い、頭を下げたヒルデガルトの顔の下に自らの頭を差し入れた。
「ひっ!」目の前に龍の顔が迫り、驚くヒルデガルト。
白銀にまばゆく輝いているとはいえ、異形のものであり、畏怖すべき古龍の顔が間近にあれば、それも仕方ない。
「あなたは私と対等な関係として強く結び付いているの。相方、つがい、親友、義姉妹どんな言葉でも良いけど、そういう存在なんだから、そんな風にかしこまったり、怖がられたら悲しくなるわ。」そう言ってエオストレはヒルデガルトの胸に顔をすり付けた。
毛皮ではなく、龍鱗に覆われているのでふわふわではなく、つるりとした滑らかな感触であるが、冷たくはなく、ほんのりと温かみを感じる。
「畏れ多いことでございます。古龍様。」一度畏怖を自覚してしまうと、これまでの気安さが逆に恐ろしくなってくる。エオストレにもヒルデガルトの身体の震えが伝わってきた。
「ねえ、ヒルデガルト、そんなに怖がらないで。それに『古龍様』はやめて。私にはあなたが付けてくれたエオストレという名前があるのよ。あなたが付けてくれた名前をきちんと呼んで欲しいわ。」エオストレは鼻先で優しくヒルデガルトの華奢な顎を支え、上を向かせる。
「こ、古龍様がそうおっしゃるのでしたら。」
「『古龍様』じゃなくて、エ・オ・ス・ト・レ!」
「は、はい、エオストレ様。」
「様はいらない。ヒルデガルトはお友だちのことをエレオノーラと呼んでいるでしょう?私も同じよ。」
「はい、エ、エオストレ。」ひきつりそうになりながら、ヒルデガルトは何とか声を絞り出した。
「そう、エオストレだからね。」白銀の古龍は嬉しそうに首を上下に動かした。
「ほんとに、ヒルデガルトったら突然態度が変わるんだから、びっくりしたわ。」
「申し訳ございません、エオストレさ、。」敬称をぐっと飲み込むヒルデガルト。
「やはり、私たち人間にとって、古龍というのは畏怖すべき存在なのです。」
「それは分かるけど、あなたと私は特別な関係だから、そんな人間の偏った考えは持ち出さないでね。」
「かしこまりました。」
「敬語もやめて、もっと気楽にして。何と言っても、ヒルデガルトは私のお姉さんであり、名付け親なんだから。」
「かしこまりました。」
「違うでしょ!」
「ひ!わ、分かりました。」
「まあ、それくらいなら良しとしますか。」
(やれやれ、ほんと難しい子ね。これから古龍の力が流れ込んでいったら、どうなることやら。)エオストレはまだ態度が固いヒルデガルトを眺めながら、分からないように溜め息をついた。
今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。
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