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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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古龍その3

今回もお読みくださり、ありがとうございます。

これからも頑張りますので、読んでいただけたら幸いです。

(やっぱり、深窓のご令嬢、根っからの箱入り娘のヒルダを城壁の外のお祭りに連れていくのは無茶だったのかしら。)そんなことを考えながら、エレオノーラはヒルデガルトの手を引き、王宮の中庭を抜けて馬車だまりに向かう。

貴族の令嬢がしずしずと歩を進めると言うよりも、ずんずんと闊歩すると言った方が良い力強いエレオノーラの歩みに、すれ違う人々は思わず道を開け、あるいはすれ違いながら振り返った。

豪奢な金髪の美少女と清楚な白金の髪の美少女が二人、足早に王宮の中を進む姿は思いの外、人目を引く。特にまだお披露目を済ませておらず、王宮で知る人もほとんどいないヒルデガルトについては、明日には色々と詮索好きな宮廷雀の噂の種になっているかもしれない。


「ミュールハイム侯爵様~」エレオノーラが近づいてくるのを見つけた馬車だまりの呼び出し係の男が高らかな声で馬車を呼ぶと、ミュールハイム家の馬車が正面に移動してきた。


「ありがとう。」エレオノーラは、馬車の扉を開けてくれた呼び出し係の男ににっこりと微笑みかけながら礼を述べ、馬車に乗り込むと手を差し出してヒルデガルトを馬車の中に招き入れた。

「ありがとうございます。」ヒルデガルトが呼び出し係の男に礼を述べてから、エレオノーラが差し出した手を取って、馬車に乗り込んだのを確認して、呼び出し係は丁寧に扉を閉めた。

「ミュールハイム侯爵様、お立~ち~」呼び出し係は他家の馬車の御者たちに聞こえるように、再び高らかな声を上げた。他家の馬車が不意に動いて道を塞いだり、正面で向き合って立ち往生したりしないための交通整理である。


コトン、コトンと軽やかな音を響かせながらエレオノーラとヒルデガルトを乗せた馬車が進み始めた。

「ごめんなさいね、エレオノーラ。勉強の途中でしたのに、わざわざ送ってくださって。」恐縮した面持ちでヒルデガルトが切り出した。

「ううん。違うの。私が無理にヒルダを城壁の外に連れ出して、それで怖い目に遭わせてしまったから。むしろ謝らないといけないのは私の方だわ。」エレオノーラは前に座っているヒルデガルトの方に身を乗り出して、膝の上に乗せられたヒルデガルトの手の上に自らの手を重ねる。

「城壁の外について行ったのは、私の意思ですし、大事なかったのですから、エレオノーラが謝ることはありませんわ。」そう言ってヒルデガルトがふるふると首を横に振ると、揺れた髪からキラキラときらめく小さな光の粒が舞った。

「ありがとう、ヒルダ。そう言ってもらえると少しは気が楽になるわ。」エレオノーラはヒルデガルトの瞳を見つめて微笑んだ。


「ところで、ヒルダ。あなた、髪に髪粉か何かつけているのかしら?」

「いいえ、何も。どうかなさいました?」唐突な質問にヒルデガルトは不思議そうな目をした。

「いえ、あなたの髪が揺れると小さな光の粒が舞うように見えたので、何かつけているのかと思ったの。」

「髪が?」ヒルデガルトは白金の長い髪を持って、軽く揺すってみた。すると髪が陽光を反射してきらめくのとは別に細かな光の粒が舞うのがヒルデガルトにも見えた。

「まぁ、全然気が付きませんでしたわ。書庫で何かついてしまったのかしら?お屋敷に戻ったらよく髪をとかさないと。」ヒルデガルトは少し眉を曇らせて、自分の髪を見つめた。


「もしかしたら、この前の祝祭の日に林の中で妖精にいたずらされたのかも。」しばらくして唐突にエレオノーラが呟いた。

「きっとそうよ。挫いてあんなに腫れていた足も治っていたし、ヒルダがあんまり可愛いから、妖精が怪我を治すついでに髪に光の砂を撒いたのよ。」自らの思いつきに一人で納得して、エレオノーラの声が少し大きくなる。

「眠りの妖精は、眠りの砂を撒いて人を眠らせるって言うじゃない?きっとそんな風にヒルダも砂を撒かれたのよ。だから林の中で眠ってしまったのよ。」


「妖精・・・」白銀の小さな龍の形をしていたエオストレは実は妖精だったのだろうか?

軽く頬に手を当てて、首をかしげたヒルデガルトの耳許にまたクスクスという笑い声が聞こえてきた。

「ヒルデガルトのお友だちはとっても愉快ね。」楽しげなエオストレの声がヒルデガルトに囁きかけた。その声はエレオノーラには聞こえていないようで、エレオノーラは自分の思いつきに一人でうんうんと頷いている。


「私が、『妖精です』って顔を出したら、ヒルデガルトのお友だちは喜んでくれるかしら?」からかうようなエオストレの口調にヒルデガルトは思わず左右を見回した。その途端、また髪から光の粒が零れ落ちる。幸い、まだエオストレは姿を見せてはいなかった。

(からかうのはよして、エオストレ。エレオノーラを驚かせないで。)通じるかどうか分からないが、ヒルデガルトは心の中でエオストレに呼びかけた。

「しかたないなぁ。ヒルデガルトがそう言うのなら、しばらく私は妖精でいるわね。」心の声が通じたのか、エオストレは残念そうに囁いた。


二人を乗せた馬車がアルテンシュタット家の門をくぐり、ゆっくりと屋敷の入口に停車した。

「ヒルダ、もしかしたら本当に妖精のいたずらが悪さをしているのかも知れないから、もし変なことが続くようなら聖堂の神官様にお祓いをしてもらうのよ。」エレオノーラはヒルデガルトの手を握り、じっと瞳を見つめて、念を押した。

「エレオノーラ、お心遣いありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから、どうぞ心配なさらないで。」ヒルデガルトはにっこりと微笑んで応えた。

「今日は送ってくださって、ありがとうございました。それでは、ごきげんよう。」屋敷の使用人が馬車の扉を開けてくれたので、ヒルデガルトは丁寧に挨拶し、馬車を降りた。

「ヒルダこそごきげんよう。また、我が家にもいらしてね。」馬車の窓から顔を出し、エレオノーラが手を振ったので、ヒルデガルトも手を振りながらエレオノーラの馬車を見送った。


屋敷に入ると執事のオットーが心配そうにヒルデガルトを迎え入れた。

「お嬢様、こんなに早くお帰りになるとは何かございましたか?」

「大丈夫です、オットー。王宮の書庫で少し気分が悪くなりましたの。それでミュールハイム家のエレオノーラ様に送っていただいたのです。もう元気になりましたから、心配いりませんわ。」ヒルデガルトは努めて明るい声で応えながら、心配そうなオットーに微笑みかけた。

「そうでございましたか。どうぞご無理なさいませぬよう。後ほどお部屋にお茶をお待ちしましょうか?」

「ええ、ありがたく頂きますわ。それからお父様にお伝えせずに帰ってきてしまいましたので、誰かお使いに出して、私が王宮から下がったことをお父様にお伝えくださいな。」

「かしこまりました。」オットーは丁寧に頭を下げて、自室に戻るヒルデガルトを見送った。



今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

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