書庫 その4
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「お父様、明日も王宮の書庫に伺ってもよろしいですか?」王宮からの帰りの馬車の中でヒルデガルトはヨーゼフにおずおずと尋ねた。
「今日はお目当ての書物は見つからなかったか?よし、では、明日も一緒に王宮に上がろう。」精強な騎士団を率いる辺境伯として貴族社会で一目も二目も置かれるヨーゼフも愛娘の前ではただの甘い父親だ。
「探し物が見付からないようなら、書庫長のミヒャエル殿にどのような書物を探しているか相談するがいい。彼は書庫の主で、生き字引と呼ばれるくらい書物に精通しているから。」なかなか他人を誉めない父が手放しでヴァルトブルク子爵を誉めるのを聞いて、ヒルデガルトはヨーゼフの顔を見返した。
「お父様がそうおっしゃられるくらい、書庫長様は素晴らしい方なのでしょうね。明日は書庫長にもお頼りしながら探してみますわ。」
「そうしなさい。彼には私もずいぶん助けてもらったから。」
父と書庫長とがどんな関係だったかは分からないが、父が書庫長に大きな信頼を寄せていることが感じられ、ヒルデガルトは明日ヴァルトブルク子爵に古龍のことを色々と訊いてみようと思った。
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「おはようございます。書庫長様。今日も蔵書を拝見するため、お邪魔させていただきました。」
「感心、感心。自ら書物を読んで、知識を深めようとする姿勢は尊い。」
翌朝、ヨーゼフに連れられて、ヒルデガルトが王宮の書庫を再訪すると、白い顎髭をしごきながら書庫長ヴァルトブルク子爵は嬉しげに目を細めた。
「書庫長様、実は古龍がどのように生きているのか、どのような力を持っているのかを知りたいのですが、どの書物を拝見すればよろしいのでしょうか?」
「ふむ。昨日ご覧になった書物では物足りませんでしたかの。」そう言うと、ヴァルトブルク子爵は一瞬遠い目をして、すぐにヒルデガルトに向き直った。
「では、昨日の書棚の一番上の段の左側にある古い書物を読んでみるがよかろう。400年ほど前の魔導師が龍の生態について記録した書物だったと記憶しておる。古龍についての記述は少ないが、空想や伝説の焼き直しではない、きちんとした記録のはずじゃ。」
「ありがとうございます。早速探してみます。」ヒルデガルトが膝を折ってお礼を述べると、ヴァルトブルク子爵は司書を呼ぶための鈴を差し出しながら付け加えた。
「今言った書物は古い言葉で書かれておるので、アルテンシュタット嬢には少し難解かも知れぬが、そのときは司書に頼りなされ。皆、古い言葉や異国の言葉にも通じておるのでな。」
「ありがとうございます。もし、読むのが難しいときは司書の皆様にお助けいただきますわ。」ヒルデガルトは鈴を受け取り、書庫の奥へと歩いていった。
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「今日もいらしていたんですね!」鈴の音を聞いた司書のコンラートは『待ってました』とばかりに他の司書に先んじて、ヒルデガルトの元に駆けつけた。
『ごきげんよう、シャウマン様。今日もお邪魔させていただきました。書庫長様に、こちらの書棚の一番上の段に龍の生態について書かれた古い書物があると伺ったのですが、取っていただけますかしら?』にっこりと目尻の少し下がった穏やかな笑顔でヒルデガルトはコンラートに挨拶し、書物を取ってくれるようお願いした。
「お安い御用ですよ・・・龍の生態だからこの書物かな。」コンラートはシュタイン王国の古い言葉で書かれた書物を手に取った。
(あとは・・・これと、これも。)コンラートは隣国の言葉で書かれた書物と難解な異国の古語で書かれた書物も手に取った。
「これがたぶん書庫長がおっしゃっていた書物で、あとの2冊は異国の言葉で書かれた龍についての書物です。」コンラートは書物について説明しながらヒルデガルトに3冊の書物を手渡した。
「どの書物も時代や国が異なる書物なので、難しかったら声を掛けてください。分からない単語など教えてあげられると思うので。」
「ありがとうございます。シャウマン様もお忙しいでしょうから、できるだけ一人で頑張ってみますわ。どうしても分からない所が出てきましたら、そのときはお力をお貸しくださいませ。」心から『ありがたい』という笑顔を見せて、ヒルデガルトは書物を受け取った。
(僕の博識なところを見せられるかな?もっと話ができるといいな。最初から隣で訳しながら説明してあげた方が良いかな・・・いやいや、あまり押しつけがましいと、彼女には読めないと馬鹿にしていると思われるかもしれないし。)コンラート頭の中でぐるぐると考えを巡らしながらも、ヒルデガルトには笑顔を向けて一言、調べ物がんばってくださいね、とだけ言った。
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ヒルデガルトは昨日と同じく窓際の閲覧机で書物に目を通しはじめた。最初は書庫長が薦めてくれた「龍とともに」と題された観察記録だ。古い言葉で書かれているとのことだったが、ヒルデガルトは特に詰まることもなく、そのまま読み進めることができた。
この書物を記した魔導師は魔術も得意だったようで、様々な探知魔法も駆使して、飛龍や水龍、地龍などの亜龍がどのような場所に棲み、どういった物を食べるかなどを詳細に記録していた。
繁殖については、飛龍についてのみ繁殖期に高山の断崖絶壁に雌雄がつがいでいることが確認できた、との記述があるだけで、水龍や地龍については調査が及ばなかったようだ。確かに海中や地の底を調べるのは相当困難だろうとヒルデガルトは納得した。
ヒルデガルトがさらに読み進めるとようやく古龍についての記述が現れた。
(古龍・・・)聖フリューゲルの日の夢とも現実ともつかない不思議な体験を思い出し、ヒルデガルトは鼓動が少し速まるのを感じながら、ページをめくった。
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