姉と弟
「姉上、いえ、ノルトキルヒェン子爵。」
公休日でもないのに騎士団の隊舎から城に戻ってきていたレオンハルトが城内で姉弟二人きりになった時、突然膝を突き、頭を垂れた。
「まぁ、どうしたの、レオンハルト?」彼の美しい姉は、突然跪いた弟に驚きの声を掛ける。
「私たちはたった二人の姉弟。なぜそのように他人行儀な・・・」
そのヒルデガルトの言葉を遮り、レオンハルトは言葉を継いだ。
「本夕刻、孤児・・・いえ、お出掛け先からお戻りになられる際に刺客に襲われたと伺いました。」レオンハルトはひどく苦しげだ。
「まぁ、誰がそのようなことを?」弟の言葉にヒルデガルトは驚きを隠せない。自身が襲われた際、周りに人影は無かったはずだ。それでも努めて平静を装って言葉を続ける。
「孤児院からの帰り道、幾人かの方たちとすれ違いましたが、刃を向けられてなどいませんわ。」
「騎士団の詰所に子爵閣下が襲われたとの投げ文があったのです。」
「レオンハルト・・・あなたもその文を見たのですか?」
「はい。そこには、刺客がこのレオンハルトを侯爵家の跡継ぎだと言いながら、子爵閣下に斬りかかったと書かれておりました。」
「なっ!」
頭を垂れたまま、苦しげに話す弟にヒルデガルトは言葉を失った。自身を襲ってきた少年をそのまま解き放ったのは過ちだったか。一瞬ヒルデガルトの心にそんなことが浮かんだが、今さらどうしようもない。しかし、それにしても手際が良すぎる。
「レオンハルト・・・」そう呼びかけながら、ヒルデガルトは自らも膝を突き、頭を垂れる弟の背中に手を添える。
「私は怪我も何もしていませんし、そんなに自分を責めないで。あなたの与り知らないことなのでしょう?」
「しかし、ぼ、僕の名前で姉上を、姉上を危険な目に遭わせてしまって。僕に隙があったから・・・」
レオンハルトがうつむいた床に涙が染みができる。
「レオンハルト、顔を上げて。離間の謀を自分のせいにしてはなりません。もし、領内に隙があったとすれば、この姉にも責任があります。」
「姉上・・・」
「仕掛けてきたのは、長年国境を争っているウプサラ王国でしょう。使者のトール殿に何か言われませんでしたか?」
ヒルデガルトに問われ、レオンハルトはウプサラ王国の使者であるトールが接触してきたこと、家令のキルヒドルフの反対を押し切ってヒルデガルトがウプサラ王国からの支援物資の受け入れを決めたことを知らされたこと、跡継ぎはレオンハルトだろうと煽られたことなどを説明した。
「でも僕はトール殿に告げたのです。僕と姉上が対立させようとしても無意味だと。」
「そう・・・。トール殿は、あなたを抱き込めなかったから、無理矢理にでも私との仲を裂こうと強硬手段に出て、私があなたに疑心暗鬼になるように仕向けようとしたのでしょう。」
「姉上・・・」
「そのような手に出ること自体、あなたが私のことを大切に思ってくれている証左。だから、何も気にすることはありませんわ。」
そう言ってヒルデガルトは弟の手を取って立ち上がらせ、ぎゅっと抱き締めたのだった。
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