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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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帰還

地竜の討伐を終え、領都に帰還したアルテンシュタット第一騎士団とヒルデガルトは、家令のキルヒドルフとヒルデガルトの弟であるレオンハルトに出迎えられた。


「地竜の討伐、御苦労様にございました。まずは一度休息を取られ、その後に討伐の成果などお聞かせ願えれば。」右の拳を左肩に当てながら頭を垂れて、キルヒドルフがヒューデ騎士団長とヒルデガルトに労いの言葉を掛ける。


「姉上、ヒューデ団長、このたびは見事に地竜を討伐されたとの由、おめでとうございます。可能であれば、僕も同行して地竜と戦ってみたかったです。」第三騎士団に騎士見習いとして属しているレオンハルトは、姉とヒューデを労いながらも、自身が討伐隊に加われなかったことに悔しさを滲ませる。


「キルヒドルフ様、留守をお守りくださり、ありがとうございました。ヒューデ団長をはじめとする騎士団の皆さんの活躍で地竜を討伐することができました。」ヒルデガルトは右脚を左斜め後ろに引いて、腰を軽く落とす略式の礼をしながら、キルヒドルフに対してまず礼を述べると、弟に向き直り、諭すように口を開く。

「レオンハルト、今回は大怪我をされた方もいらっしゃいます。一層の鍛練に励んで騎士団の諸先輩方が大丈夫と判断なさったら、討伐隊に加えていただけるでしょう。」

「分かりました、姉上。鍛練に励みます。」


(でも、なんで何の鍛練もしていなかった姉上が討伐隊に加われて、騎士団で訓練している僕が選ばれなかったんだろう? それに、大怪我をした人って? みんな全然怪我なんてしてなさそうだけど・・・)


「若君、姉君は優れた魔法で地竜と渡り合い、怪我をした団員たちの傷を癒してくださいました。若君も将来騎士団を従え、戦場に立つ身。尚一層の鍛練にお励みください。」

不満が顔に出ていたのだろう。ヒューデがレオンハルトを諭す。


「ヒューデ団長・・・」

騎士団の面々こそ、突然アルテンシュタットに下向し、領主である父の代行を務め始めたヒルデガルトを面白く思っていなかったのではなかったか。それがこのように豹変するとは、地竜討伐で一体何があったのか?

「ヒューデ団長、お時間があれば、今回の地竜討伐のお話をお聞かせください。」

何かを察したレオンハルトはヒューデに教えを乞うように頭を下げたのだった。


**********


「ヘクスター学院長。ノルトキルヒェン子爵に、侯爵閣下の御息女に魔術を教授されたのは貴殿だと聞いた。」

「これはヒューデ騎士団長。藪から棒に何です?」

これまで魔導学院に足を向けたことがなかった第一騎士団のトップが突然使いを寄越したかと思うと、半刻もしないうちに供も連れずに来訪したことを訝しく思いながらも、ローレンツはヒューデを魔導学院の学院長室に迎え入れた。


「我ら領都を任された者は、これまで侯爵閣下の奥方様や御息女にお目にかかる栄に浴することはなく、風の噂を聞くのみであった。そのような中、学院長は王都でノルトキルヒェン子爵を指導されたと。」

「いかにも。しかし、たった一月のこと。」

「その時から子爵は素晴らしい使い手であられたのか?」

「とんでもない。子爵はそれまで正式に魔術を学ばれたこともなく、ごく簡単な生活魔法を使えるに過ぎませんでしたよ。」

前のめりになって質問してくるヒューデに少し引きながらも、ローレンツは淡々と応じた。


「何と! では、子爵は魔法を使い始めて、まだ一年というのか? それであれだけの魔法を使いこなされるとは!」

驚きを隠せないヒューデの声が一段高くなる。


「あれだけの魔法とは?」興味津々といった面持ちで、ローレンツが促すとヒューデは昨日の地竜討伐の模様を興奮気味に話し出した。


**********


「大した成長ぶりです。私が習練に付き合った時は、まだよちよち歩きの赤ん坊みたいなものでしたが、霊峰シュピッツェでよほどの経験を積んだのかもしれませんね。」

ヒューデの熱弁を聞きながら、ローレンツは感心したように声を上げた。


「メルツィヒ砦で翼竜の群を屠ったというのも嘘ではなかったんですね。それにしても光の槍を降らせるとは、光の術を操る歴代の王家の血筋でも抜きん出た使い手と言えるでしょう。」

「王家の血筋・・・王家とはあれほどの力を持っているということか・・・」

ローレンツの言葉にヒューデは嘆息する。

武門の主家に仕え、その家臣の中でも武勇第一と謳われた第一騎士団長の自身と精鋭揃いの配下が苦戦した地竜の群を一撃で屠る力が王家に由来するというのであれば、その主筋である王家には敵わないということにほかならない。武に生きる者として二番手に甘んじるのは、やはり口惜しい。


「光の術は王家の流れを汲むものと思いますが、その血がアルテンシュタット家に入ったと思えば僥倖ではないですか?」

「しかし、若君は魔術に長けておられる訳ではない。子爵閣下は女性。いずれ他家へ嫁がれることになれば・・・」

気楽なローレンツへの苛立ちを抑えながら、ヒューデは続ける。

「他家に嫁がれてしまえば、その力はその家に移ることになる。」


「はは。貴族とは難しいものですね。しがない魔導学院長としては、素晴らしい魔法が現出したことの方がはるかに大きな問題で、また喜ばしいことなんですけどね。」

「ヘクスター学院長! 笑い事ではない。貴殿も侯爵閣下に取り立てられた身なれば、主家の浮沈は他人事では済まぬのだぞ?」

ヒューデは苛立ちを隠しきれず、声が荒くなる。


ローレンツにしてみれば、自身は平民のままであり、今の地位にあるのも魔術に関する研究を自由にできるから留まっているに過ぎず、いざとなれば他領あるいは他国に行けば、その能力からも軽んじられることはないという自信もある。

ローレンツから見れば、ヒューデもその腕一本で世の中を渡っていけるだけの実力があるのに、騎士爵に叙せられたばかりに視野が狭くなっているのは勿体無い限りだ。


「まあまあ。そう熱くならず。あの王太后さまがそう易々と貴族家に力を得させるとは思えません。女だてらに子爵に叙したのも何らかの意図があるのでは?」

「男爵や騎士爵でなく、子爵に叙したのは、一代限りではなく、女性が始祖の貴族家を立てるためと?」

ローレンツの言葉に、ヒューデは考えを飛躍させる。


「さて、卑賤の身にはその辺り考えの及ばぬことですが・・・」

「いやいや確かに王太后陛下の深慮は我らには分からぬところだが、王家への忠義厚い侯爵閣下と御自身の御令孫であられる子爵閣下を大切になさるのは道理。」

アルテンシュタット家とその分家であるノルトキルヒェン家が王家の盾と剣として並び立つ未来を想像すると、ヒューデの怒気は霧散し、逆に明るく顔を綻ばせた。


**********

「やれやれ。単純というか、自分の都合で物を考えるというか・・・」

嵐のようなヒューデが帰った後、ローレンツは呆れたように独り言ちた。


(御令嬢が子爵に叙される直前、侯爵閣下が王宮で軟禁されたことをもう忘れたのか? 王太后は血の繋がらない他人を信用してはいまい。御令嬢が子爵になったからといって、それが侯爵自身にとって僥倖とは限るまいよ。御令嬢を子爵にしたのも王家の血が色濃く出ているから、それを手駒に残したいだけかも。)

そんなことを考えながら、ぼーっと窓の外を眺めるローレンツの脳裏に、王都で指導していた頃ののんびりふわふわしたヒルデガルトや北の山脈に調査に赴いた時の貴族らしく成長したヒルデガルトの姿がよぎるのだった。



今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。


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