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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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魔物の討伐その1

アルテンシュタット第一騎士団は、精強を誇るアルテンシュタット領軍の中でも最精鋭と謳われ、20名の騎士と100名の騎兵に輜重隊、衛生兵を加えた150名で構成されている。


騎士と騎兵の違いは端的にいえば騎士爵に叙任されているか否かであり、そこには厳然たる身分差が存在した。

とはいえ、その身分が固定的かといえばそうではなく、騎士爵は基本的に一代限りのものとされ、騎兵であっても功績によって騎士の身分を得ることもあれば、騎士になっても引退すれば次の代には平民に戻るのである。

貴族の子弟で爵位を継げなかった者が軍務に就けば、特権的に騎士爵を与えられることにはなっているが、それも建前としては世襲ではなく、その子孫は軍務に就かない限り、騎士爵を与えられることはない。


その第一騎士団の中心となる20名の騎士が騎乗することなく、徒歩で森の中を歩いていた。

領都アルテンシュタットの南に広がる森は赤羆などの大型の獣だけでなく、鷲獅子や火蜥蜴なども棲息していることから、領都軍の訓練に使われることも多く、ときには魔物が大量発生して、騎士団や歩兵団が複数派遣されて、討伐が行われることもある。


最近、地竜が目撃されたとの報告が何度もあり、この森を猟場にしていた複数の猟師が行方不明となったことから、討伐隊が組まれることになったのだ。


(何で俺たち騎士爵持ちの精鋭が魔物の討伐に駆り出されるんだ?)

(地竜の一匹や二匹なら、第一騎士団ではなく、歩兵団で十分だろう。)

(やれやれ、お嬢様に手柄を立てさせるために、最精鋭の騎士で周りを固めるってか?)

(御令嬢は御令嬢らしく、お屋敷の奥でおとなしくしていれば良いものを。)

(内政だけでなく、軍事にも口を出すつもりなのか?)

そんな不満を心の中で呟きながら、騎士たちは地竜の痕跡が無いか探索しながら、森の奥へと進んでいく。


途中、赤羆に遭遇したが、若手の騎士2名で簡単に斬り伏せてしまったことからも騎士団の実力が分かる。魔物狩りも含めて、訓練と実績を積み上げてきた者が第一騎士団に配属されることから当然といえば当然だろう。それだけに第一騎士団の騎士たちにしてみれば、「今さら地竜狩りか」、「森の魔物狩りは卒業したはず」との思いがある。


森の最深部も近くなった頃、低木が広い範囲で倒されているのが見つかった。重い物で低木を押し潰すようにしながら森の奥へと進んでいったように道ができており、所々で高木がへし折られている。

「この木の様子からすると2日ほど前にここを大きな魔物が通ったようだ。」

「この幅からすると、かなりの大物だな。」

「あんな高い場所の枝が折れている。」

「大物なら大歓迎だ。多少は歯応えのある奴じゃないと、我々第一騎士団がわざわざ出てきた意味がない。」

騎士たちは口々にそんなことを言いながら、魔物の痕跡を調べていく。やはり戦いが近くなると心が高揚するのか、軽口を叩く者もいた。


「よし。地竜かどうかは不明だが、かなり大きな魔物がいることが分かった。ここより近づくといつ戦いになるか分からないので、ここで食事にする。準備せよ。」

ヒューデがそう告げると、騎士たちは緊張を解き、少しリラックスした表情になる。


若手の騎士が石を拾ってきて、竈を作り出すとヒルデガルトもそれを手伝い始めた。騎士たちは領主の娘がこんな下働きを手伝うのに戸惑っていると、ヒルデガルトはにっこりと微笑んで、避難者への炊き出しで慣れているからと言って、騎士たちが集めてきた石を次々と積み上げていった。


アルテンシュタットでは、伝統的に大きな戦いの前には保存食ではなく、きちんと温かい食事を取る。戦死した兵士の腹を裂かれた際にこちらの兵糧事情を悟られないようにすることから始まったとも言われるが、大きな戦いで命を落とす可能性もあり、最後の食事となるかもしれず、それを簡素な保存食で済ませるのはあまりにも味気無いということもあって、何代にもわたる伝統として大切に守られてきたのだ。

今回のような森の討伐でもその伝統は守られ、食事の準備が進められるが、如何せん普段は輜重隊にいる調理担当の兵士に任せきりのため、騎士たちの手際は決して良くない。

そんな中、ヒルデガルトがてきぱきと肉や野菜を切って大鍋で煮込みながら、その横でスープを作り、パンを切り分けていく手際の良さに、騎士たちは驚きを隠せない。


(箱入りのお嬢様がこんな風に料理をするなんて!全部召使いにやらせてるんじゃないのか?)

(これくらいの役には立ってもらわないと。戦いになれば後は全部俺たちがやるんだから。)

(平民相手の炊き出し料理か?ちゃんと食える物なら良いが・・・)

そんな様々な思いで騎士たちがヒルデガルトの調理を眺めているうちに、料理ができあがった。


料理がそれぞれの皿に取り分けられると騎士たちは軽く目を瞑り、食事への感謝と来るべき戦いへの勝利を祈り、料理を食べ始めた。


「!」

「これは、旨い!」

塩分の補給もあって、しっかりとした塩味だが、肉と野菜の旨味が引き出され、香辛料の味と香りが食欲を掻き立てる。


「お口に合ったようで何よりですわ。」

おかわりのために差し出された皿に料理をよそいながらヒルデガルトがそう微笑むと、騎士たちはバツが悪そうに頭を掻いた。


「さあ、お口直しにお茶とお菓子も召し上がってください。」

食事が落ち着いた頃に、ヒルデガルトが焼き菓子を添えてお茶を配って回ると、騎士たちは口々に礼を述べながらそれを受け取った。


食事が終わり、ヒルデガルトが全員分の食器に『清浄』の魔法をかけ、まとめて自らの背負い鞄の中に片付けるに至って、その冒険者のような手際の良さに、騎士たちにもヒルデガルトが単なる深窓のお嬢様ではないことが分かってきたようだ。


「では、いざ地竜退治に!」

「「おう!」」

ヒューデの掛け声に騎士たちが応じ、地竜のものと思われる移動跡を追って、注意深く進み始めた。


**********


どれくらい歩いただろうか。第一騎士団の一行は森の中心部近くの不自然に開けた広場のような場所に出た。


「木が薙ぎ倒されているな。」

「まだ、それほど時間は経っていないようだ。折れた部分がまだ生木のままだ。」

「気を付けろ、こんな風に木をへし折るなら、かなりの大物だ。」


騎士たちは折れた樹木の様子などを確認し、口々に警戒を呼び掛けると、広場の外に向かって円陣を組み、剣や槍を構えて警戒しながら、外周へ向かってじりじりと歩を進めた。


それは突然だった。ミシミシと音を立てて、樹木が広場の方に倒れてきた。それも一本ではなく10本近くだ。


「か、囲まれた?」


倒れた木々の向こうに姿を見せたのは、人間の大人の3倍の背丈で、ごつごつとした茶褐色の体表に、大きな頭と立派な顎、さらに太い尾を持った恐竜のような生物だった。


「ち、地竜が8頭も!」


太く立派な2本の脚で立つ地竜たちは、少し前屈みの体勢で騎士たちを取り囲み、鋭い爪が生えた3本の指を持つ腕をゆらゆらとさせながら、少しずつ近づいてくる。


「何てでかさだ! 地竜は普通人間の倍くらいの大きさじゃなかったのか?」

「それより何より、地竜が群で狩りを行うなんて聞いてないぞ!」

騎士たちは威嚇するように怒鳴りながらも互いに目配せをして、誰がどの地竜の相手をするかを決めていった。

ベテランが二人一組で1頭に、経験の浅い騎士は三人一組で1頭に当たり、ヒルデガルトは自然援護に回ることになった。


「子爵閣下。閣下は魔法が使えると伺いました。何とか援護をお願いします。」

藁にも縋る想いというのは、こういうことかとヒューデは考えながら、実力も未知数なヒルデガルトに援護を頼んだ。


「かしこまりました。掩護射撃と回復でよろしいですわね?」


「回復を重点的にお願いします。魔物を倒すのは我ら騎士団の役目!」

そう言うと、ヒューデは8頭の中で一番大きな地竜に向かって走り出した。

「団長に続け!」

「「おう!」」

残りの騎士たちも得物を振りかざし、それぞれの地竜に向かって走り出す。

巨大な地竜との戦いの幕が切って落とされた。





今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。


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