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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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確執

ブックマーク&評価、ありがとうございます。執筆の励みになります。


不定期の更新で恐縮ですが、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

「よし、荷を改めたら、厳重に封をせよ。麦の一粒、薬草の一葉に至るまで損なってはならんぞ!」

トールがウプサラ王国から運び込んだ食料と薬を確認しながら、キルヒドルフが指示を出す。


「おかしな噂が立つ前に急ぎ国王陛下にウプサラ王国から貢ぎ物が届いた旨報告する伝書鷹を出飛ばせ。如何なる名目があろうと、他国からの貢ぎ物は全て国王陛下のもの。一粒の麦であっても私してはならぬ。」

荷馬車20台分にもなる物資がアルテンシュタットの兵糧蔵に積み上げられた様はなかなか壮観だ。


「キルヒドルフ様。隣国から遣わされた使者であるトール様を前に、あのような振る舞いでよろしかったのでしょうか?」

てきぱきと差配するキルヒドルフの隣でその様子を見ていたヒルデガルトがためらいがちに口を開いた。


「父の家令である貴方をあのように軽んじるような物言い、本当に申し訳なくて・・・」

視線を下に落としながら、落ち込んだ口調でヒルデガルトが詫びると、キルヒドルフは少し意地悪そうな笑みを浮かべながら、ヒルデガルトの方へ向き直った。


「いえいえ、狙いどおりにございます。それにしても、子爵閣下もなかなかの役者ですね。最後に『何か不満があるのか』とおっしゃられた時のごくわずかな不快感。その言葉の棘にトール殿も気付いて、侯爵令嬢と家令の諍いとして、本国に報告してくれましょう。」


「そのようにからかわれては嫌ですわ。突然お芝居を打つように言われて、失敗しないか冷や冷やしましたのよ?」

「ふふっ。それにしては堂の入った役者ぶり。」

両頬を手で包むようにして、困った表情をするヒルデガルトを、キルヒドルフは微笑ましく見ていた。

(ここが辺境伯爵領でなければ、普段から奥方様やお嬢様も領地に戻られて、こんな風に我ら家臣とも繋がりが持てたのだろうな。)


「それはさておき、子爵閣下に一つお願いがございます。」

「お願いとは何でしょうか?私にできることであれば、何でもおっしゃってください。」

キルヒドルフの声に真剣さが加わったのを感じ、ヒルデガルトは表情を改めた。


「では、お言葉に甘えまして。このたび閣下のご信頼を得て、小生との間に不和を演出し、ウプサラ王国を謀ることができそうです。しかし、残念ながら領内に不満を持つ者がいることは事実。ぜひ、そうした家臣の不満にも目をお向けください。」

「それは、騎士団の方たちのことでしょうか。」

「騎士団だけではございません。たとえ実績がある古参の者であっても急激な改革を行えば不満は出るもの。ましてや閣下はまだ成人されたばかりで、何の実績もお持ちではありません。そんな中、これまでの慣習を覆すような政策を打ち出されるのは、ぜひ慎重になさってください。」


**********


「キルヒドルフ殿!」

ステンボック伯から支援物資と称して贈られた食糧や薬を兵糧蔵に搬入しているところに、第一騎士団の団長であるヒューデが血相を変えて飛び込んできた。

「ステンボックからの貢ぎ物を子爵が受け取ったというのは本当か?本当なら大問題だぞ!」


「これはヒューデ団長。まずは落ち着かれよ。」

「これが落ち着いていられるか!外交は国王陛下の専権。侯爵閣下は委任を受けておられるから外交交渉を行うことを許されているが、子爵にその権限は無い。にもかかわらず、子爵が貴殿を差し置いて、勝手に受け取ったと聴いたぞ!」

顔を紅潮させて、まくし立てるヒューデに、キルヒドルフは肩をすくめて天を仰いだ。


「あれは、外交使節と呼べる代物ではない。伯爵家の陪臣が我が領の様子を探りに来た、言ってみれば間諜のようなもの。体裁を調えるために大層な荷物を持ってきていたが、正式な支援とは言えぬだろう。」

「実態がどうであれ、他国からの使者に変わりはない。しかもあの小娘は侯爵閣下の威を借りて、諫言する貴殿を黙らせたと言うではないか!」


「ともかく、一度大きく息を吸って頭を冷やされよ。」

そう一喝すると、キルヒドルフは斜め後ろに立っているヒルデガルトを振り返った。

「子爵閣下、『敵を騙すにはまず味方から』と申しますが、見事なまでに引っ掛かったようです。」

苦笑混じりのキルヒドルフの言葉でヒルデガルトは我に返り、二度三度、瞬きを繰り返した。


「ヒューデ団長、混乱させてしまったようで申し訳ありません。今回の一件は私とキルヒドルフ様が示し合わせて行ったこと。決してキルヒドルフ様を蔑ろにした訳ではありませんわ。」

「困った」が7割、「申し訳ない」が3割といった何とも言えない表情で謝るヒルデガルトに、ヒューデは目を見開いた。

「こ、これは子爵閣下。こちらにいらっしゃいましたか。」仮にも主君の令嬢を目の前にして「小娘」呼ばわりしてしまい、ヒューデは一瞬顔を青くしたが、すぐに気を取り直した。


「外交使節の接受は国王陛下とその代理人たる侯爵閣下の専権事項。それを軽々に受け入れ、あまつさえその貢ぎ物を自領のものにしようとは。子爵閣下は侯爵家を潰すおつもりか!」

揺らめくような怒気をその身にまとわせながら、ヒューデはヒルデガルトを一喝した。


「だから、落ち着けと言っている。ステンボック家からの使者が訪れたこと、貢ぎ物を持ってきたことは既に伝書鷹を飛ばして王都への報告の手筈を取った。貢ぎ物は厳重に封印して、今後王都に運び込む。ヒューデ殿も第一騎士団の団長であれば、もっと冷静になられよ。それとも子爵閣下や小生が信じられぬか?」

落ち着いた、と言うよりも冷ややかな、と言った方が相応しい声でキルヒドルフがヒューデをたしなめる。


「元よりキルヒドルフ殿のことは信頼している。」ぶすっとした表情でヒューデが応えると、キルヒドルフはそこに畳み掛けた。

「であれば、子爵閣下のことももっと信頼されよ。閣下は小生の策に忠実に乗ってくださったのだ。」

そのキルヒドルフの言葉にヒューデは困った表情のヒルデガルトを見返した。


「策に乗る?」

「そうだ。侯爵閣下が御不在の折り、先触れから時間を置かずにステンボック家からの使者が訪れたのは、残念なことに領内に不和が生じているとの噂の真偽を確かめに来たためだろう。だからそれを逆手に取って、油断を誘う手を打ったのだ。だが、それも真に我ら家臣の結束があってこそ。」

「我らは侯爵閣下の下、これまでも結束してきたし、これからもそのつもりだ。」

「であれば、侯爵閣下の御息女であられるノルトキルヒェン子爵閣下のことも信頼されよ。」


侯爵家の家臣の筆頭である家令と軍事面でのトップである第一騎士団長の激しいやり取りに、ヒルデガルトは堪らず口を開いた。

「キルヒドルフ様。ヒューデ団長が私のことを頼りない小娘だとお思いになるのは無理からぬことですわ。ついこの間まで王都のお屋敷で何も知らずに過ごしていたのですから。ですが、ヒューデ団長、私もアルテンシュタット侯ヨーゼフの娘。この領地の発展と平安を願う心は家臣団の皆様にも負けないつもりです。私を信頼するに足りないとお思いなら、私ではなく父とキルヒドルフ様をお信じください。領主と家臣の結束と信頼は何よりも大切なものです。」


決して激しくはなく、抑えられた口調であったが、そこに籠められた気迫は、第一騎士団長のヒューデをたじろがせるに十分だった。

「その気迫。さすがは侯爵閣下の御息女ということか。」ヒルデガルトの迫力に気圧され、呻くようにヒューデが呟く。


(子爵がこれほどの力をお持ちとは。ヒューデだけではない、私も認識を改めなければなるまいよ。)自分に向けられた訳ではないにもかかわらず、押さえ込まれるような圧を感じたキルヒドルフもまた瞠目した。



今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。


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