27.
「えー、本日はお日柄も良くー」
「今日、大安でしたっけ?」
「えー、お足元の悪い中ー」
「別に足元、悪くないッス」
「朔夜君、よくある言い回しじゃないか。茶々を入れないでもらえるかな」
「どう考えても忘年会ののっけにやる挨拶じゃないッスよ。勘弁してくださいッス」
「なんでもいいから、ボス、早く」
「伊織さんに急かされると弱いね。それじゃあ、かんぱーい!」
ビールジョッキをみなでぶつけ合い、忘年会は始まった。後藤のいきなりの思いつきで『実行部隊』から『行動部』に名を変えたわけだが、その『行動部』に属するニンゲン全員の参加と相成った。お調子者のハジメなんかは、もう頭にネクタイを巻いている。
刺身の船盛り、値の張りそうな天ぷら、小鉢の数々、etc……。
どれもまあ、味はいい。日本酒、焼酎の種類も豊富だから舌は退屈しない。いい店だ。そう評価できる。
隣の曜子が熱々のクエ鍋をよそって、「どうぞ」と椀を手渡してくれた。「そんな真似はしなくていい」と言いながら受け取る。
「私は一番の後輩ですから」
「ウチは会社じゃないんだぞ?」
「それでも、なにかやらせていただかないと落ち着かなくて」
「真面目すぎるのはよくない」
「そうでしょうか」
「曜子、なにか悩みはないか?」
「突然ですね。悩み、ですか?」
「ああ。あるならなんでも話してみろ」
「えっと、そうですね……。やっぱり、私はみなさんの足を引っ張っているんじゃないか。そういった不安があります」
「足を引っ張っているだなんてことはない」
「私、軍にいた時は通信兵だったんです」
「それは知っている」
「はい。機械の扱いに多少長けているだけでした」
「体力には自信がなかったのか?」
「そもそも運動音痴なんです」
「運動音痴なんて言葉が存在するのがおかしい。慣れているか不慣れなのか、それだけだ」
「その点は最近、実は実感しているんです。本腰を入れて、一所懸命やってみたら、結構、動けるものなんだなって」
「事実として、おまえはイイ体になってきた。服の上からでもわかる」
「そう言っていただけると、少し照れくさいです」
「いずれは悠もおまえを頼りにするようになるはずだ」
ここで曜子の向こうに座っている悠が、「すでに頼りにしています」と、つぶやくように言った。
「聞いていたのか」
「盗み聞きです。すみません」
「忍足さん、冗談はやめてください。私なんてまだまだ――」
「僕には君みたいな向上心はないから。その精神を有しているってだけで、頼もしく思うよ」
「そ、そうですか……」
少々俯き、また照れたような感じの曜子である。
顔の赤いハジメが長卓を迂回してやってきて、俺と曜子の間に体を捻じ込むようにして座った。
「いやあ、親父殿。やっぱ宴会はいいんだぜ、ベイベ。仲間と飲む酒は格別なんだぜ、ベイベ。なあ。曜子ちゃんもそう思わないかい?」
「あの、ミユキさん、あまり体をくっつけないでください」
「あれ? ダメ? 酔っ払いは嫌いかい?」
「というか、ミユキさんのことがあまり」
「え、え? まま、待ってくれ。俺、なにか嫌われるようなことしたかな?」
「してませんけど」
「え、じゃあ、なんで?」
「率直に言っていいですか?」
「お、おぅ」
「現状、ミユキさんには用がありません」
「えぇー……」
俺は「はっは!」と声を上げて笑った。しょんぼりとしたハジメの顔が面白い。明らかに凹んでいる。肩を抱いて「まあ、仕方ないな」と言ってやると、「どうして仕方ないんだよぉぉ……」と情けない声を発した。
「ハジメはなにか悩みはないか?」
「今の見てわかったろ。女のコにまるで縁がないのが悩みなのさ……」
ますます肩を落としたハジメである。
「いつも言ってることだが、おまえ、見た目はそう悪くない」
「だろだろ?」
「ああ。だが、がっつくようなところは改めたほうがいい」
「やっぱりそこか。だけど、合コンにでも出ないと出会いがなくてよぅ……」
「合コンに出ること自体は否定せんさ。心のありようの問題だ」
「泰然自若と構えてろって感じか?」
「ああ」
「だけどなあ、俺っち、小物感がぷんぷんするもんなあ」
「自虐は良くないぞ」
「だよな、だよな?」
「いつかイイ女が見つかるさ」
「ありがとう! 親父殿!」
「やめろ、抱きつくな」
正面を向く。額まで真っ赤な後藤がいる。伊織と朔夜に挟まれて、老人はご満悦の様子だ。そのうち、スマホを取り出した。三人一緒のところを撮影するらしい。伊織は頬の隣にピースサインを作り、朔夜はめんどくさそうな表情をこしらえる。まったく、微笑ましい。
人間関係は非常に良好であるものの、職業としてはけして楽な環境ではない。激務となる時もある。時にはヒトの命を扱うのだから相応の重責も伴う。
後藤は尊敬できる上役、上司だ。
伊織と曜子は娘のようにかわいい。
悠は悠でかわいいし、ハジメもまあ、かわいい。
この際、朔夜もかわいいとしておこう。
後藤が上座に移動した。どちらから言うでもなく、俺達は二人は顔を近づけ合った。
「若者はいいね。きちんと前だけを向いている」
「その下地を整えているのが後藤さんです」
「嬉しいことを言ってくれるね」
「本当のことですから」
「ライアンさんを迎え入れることができたのは、実に幸運だった。彼らにとってだけじゃない。僕にとっても、君は支えになってくれている」
「元々、そんな柄じゃないと思っているんですがね。しかし、縁の下の力持ちという役割も、案外、悪いものじゃない」
「一言で表すなら、君にとって、ウチのメンバーはどういう存在だい?」
「決まっています。家族であり、誇りです」
「胸を張ってそう言ってくれる君は、我が組織のビッグダディだよ」
後藤はにこりと笑ったのだった。




