そのバスに乗れない
超短編ホラーです。
書いたことがないので、文章におかしなところがあるかもしれません。ご了承ください。
少しでも多くの方に読んでいただけると幸いです。
(2019年2月19日 日間ホラージャンルにて3位になりました。ありがとうございます)
僕は気づかなかった。
そのバスには乗れないことに。
「じゃあ、また明日!」
「じゃあな。」
そう言って友達と解散した。
僕はこの後、バスに乗って駅前まで行くことになっていた。
駅前の塾でアルバイトをやっているからだ。最初は週2で行っていたけれど、生徒とお喋りするのが楽しくて、今は週4で行っている。
今日もいつも通り、バスに揺られていた。
みんな、今日は宿題やってきたのだろうか。そんなことを考えながら、ふと窓の外を見る。
クリスマスシーズンだけあって、電飾が派手に輝いていた。
そのままぼんやり外を眺めていると、隣に一台のバスが止まった。
何気なく隣のバスの中を見てみた。
え...?
そのバスには母さんと瓜二つの女性が乗っていた。
その女性は、母さんがお気に入りだと言っていつも身につけていたスカーフと同じデザインのものを身につけていた。
思わず窓ガラスに張り付く。
あれは…
よく見るとスカーフには母の名前の刺繍が入っていた。
あの刺繍は僕が家庭科の授業で縫ったものだ。
母さん…?
なぜ、こんなところに…
まさか、そんなはずはない
母さんは3年前に死んだんだ。
もしかして、死んだというのは嘘で、実は生きていたのか?
いや、でも、僕は母さんの穏やかに眠る顔を確かにこの目で見たんだ。
あ…待って…!
信号が青に変わり、母さんの乗ったバスは走り去ってしまった。
「南公園前…」
バスの後ろの電光掲示板にはそう書かれていた。
3年前 8月20日 午前8時20分
僕は、どうでもいいことで母さんと喧嘩した。
いつも通り学校へ行き、帰ったら謝ろうと思っていた。
しかし、僕は謝ることができなくなった。
この日、母さんは交通事故で死んだ。
交通事故で家族を失くすのは2度目だった。
警察の話によると、母さんは道路の真ん中に飛び出して車に轢かれてしまったらしい。
何故、道路に飛び出したのかは分からない。そして、未だに母さんを轢いた車は見つかっていない。
母さんの棺の前で僕は泣き崩れた。
父さんがいない僕にとって、唯一の家族を亡くしてしまった悲しみは深かった。
この3年間、僕は罪悪感で呼吸するのも辛かった。
母さんに会いたい
会って、謝りたかった。
あのバスの後ろには南公園前と書かれていた、ということはあのバスは南公園前を通るということだ。
願いが叶うかもしれない。
母さんにもう一度会えるのかもしれない。
僕は次の日、南公園前でそのバスを待つことにした。
朝、僕はおにぎりとお茶を持って家を出た。
南公園前に着くと、近くにあったベンチであのバスが来るのを待った。
何本かバスが通るが、どのバスにも母さんは乗っていなかった。
いつの間にか夜になってしまった。
ここを通る最終のバスも行ってしまった。
「はぁ、気のせいだったのかな…。」
諦めかけた時だった。
目の前を一台のバスが通りかかった。
はっ...!
そのバスに母さんは乗っていた。
「待って…待って……!!」
バスに向かって全速力で走る。
母さん、置いてかないでよ!
「母さん、、はぁ、待って、はぁはぁ....」
僕は膝に両手をついて息切れした。
ダメだ追いつけない。
でも、このバス停を通ることは分かったぞ。
明日も来よう、今度こそは...
次の日の夜、僕は再びおにぎりとお茶を持って南公園に向かった。
昨日と同じく、バス停の近くのベンチに座って例のバスが来るのを待った。
22時を過ぎた。
最終のバスが目の前を通過する。
次だ。
次、南公園前と書かれたバスが来たら、それに母さんは乗っている…。
それから数分後、一台のバスが来た。
電光掲示板には南公園前と書かれている。
あれだ…!
何とかして止めないと、何とかして…
次の瞬間僕は道路に飛び出した。
バスの前で両手を目一杯広げる。
運転手さんに気づいてもらえるように手を大きく振った。
だが、バスの勢いは止まらない。
むしろ速くなってる気がした
ライトが眩しい
このままじゃ僕は……
はっ…
バスの中の母さんと目があった。
僕に向かって優しく微笑んでいる。
「母さん…。」
嬉しくて、僕も自然と笑みがこぼれた。
「母さんに会える...」
僕はいつの間にかバスに乗っていた。
バスに乗ってる人は僕以外に誰もいなかった。
降車ボタンは付いていない。
バスはずっと、どこまでも止まることなく走り続ける。
僕は気づいた。
このバスには乗ってはいけないことに。
読んでいただきありがとうございました。
また機会があれば新しい作品を書きたいと思います。
感想やお気づきのことがあれば、書いていただけると幸いです。