席
「コーヒー、淹れましょうか?」
いつもの喫茶店の特等席で。
私は、目前の壁に掛けられた木製の枠組を眺めていた。
天窓から差した光が額内を照らしている。
額縁に刻まれた文字は……達筆過ぎて読めない。ぼんやりと見れば解るかも、と試してみたが読めない。お手上げだ。
そんな私に、いつもの無表情で声をかけてくる給仕。顏にコーヒーポッドを近づけるのはやめてほしい。
少し顏を離しつつ、ちょうどコーヒーも切れているので淹れてもらう。
「教えてくれても良いんだぜ?」
「面白くないでしょう?」
「……。」
「レシート。」
コーヒーの横にレシートを置き、給仕は一礼もせずカウンター内に戻っていった。いつもの給仕、カウンター内の額縁、そしてお題。
お題は暇つぶしだ。暇なら、と給仕が提案したことだが。2日ほど考えても分からん。
コーヒーを一口飲み、カップを置いた。
私のため息と、給仕がポッドを置く音しか聞こえない。落ち着いた雰囲気の穴場。
側のレシートを見る。まだ2杯目なのにレシートを置いて行った。
給仕の『レシートを置いて行くタイミング』は日によって違う。
「……確か昨日は3杯目だったか。」
「はい。」
「……こういう事には反応するんだな。」
「はい。お代は10枚です。帰りますね?」
「その独特な言い回しは何なんだ。」
ご丁寧にも入口のドアを開け、暗に目で『帰れ』と。はいはい、帰りますよ。
店の外へ出た私を給仕が呼び止める。
「あなた、あと1日ね。楽しみ。」
澄んだ紅の瞳が私を見据えていた。
読んで頂きありがとうございます。
違和感のある文章、を書いてみました。
『違和感を感じた』のであれば、思惑通りです。




