序章 ―北軍の進軍 9―
あれから数日、これと言った戦闘はないまま行軍を行えた…
林を抜け眼下に新潟の市街を見渡す…
街のあちらこちらから煙が上がり、何処からともなく銃声が響き聞こえる…
民間人は?
新潟の連隊はどうなっている?
橋本は元より班員は現状を理解出来ない…
無線機を通して情報を引き出そうにも小隊本部ですら、事態を把握出来てない有り様。
橋本は我に還り、思い出した…先発した飯田三曹は?予定なら等の昔に新潟に着いているはず…
聞けば一班は2日前に市内に偵察に入ったまま音信不通だと言う…
当初、善戦していた新潟2戸連隊も日本海側の制海圏を微妙な状態になると、徐徐に後退…現時点では小規模の戦闘を繰り返しているのだとか…
市街地から数㎞…山間部に入る手前に新潟連隊の宿営地が広がっていた。
宿営地手前からすでに物々しい雰囲気が伝わって来る…橋本は連隊本部に情報収集と弾薬の補給に姿を表していた。
宿営地には赤十字のマークを施されたテントがあり、そこへ次々と負傷兵が運び込まれてくる…無論、運び込まれた兵に十二分には治療は施せない…どれだけの兵が出入りしてるのだろうか…満足に治療のされず、気休の鎮痛材だけが兵達に配られている。
テントの隅には既に物言わぬ袋にドグタグの片割れが誰なのかを示していた。
宿営地の衛門から今も補給を終えた小隊が、市内に散っていく…すれ違う者は皆、口数も少なく疲労の色が見える。
橋本は再び彼等と会う事はないのを感じとっていた…彼等の多くは愛する者達の為、人柱となっていくのだ…橋本の瞳にうっすらと涙がこぼれた…
今はただ…小さくなっていく彼等の背中に敬礼する事しか出来ない自分が歯がゆかった…
橋本達は連隊からなけなしの弾薬の補給と暫しの休息を受けた後、連隊からの任務を受けた…
情報小隊の特性を生かし、敵弾薬の備蓄場所を特定し、これを連隊と連係し叩く。
一歩間違えれば全滅する任務に、橋本は誰を随行せるか悩んでいた…
極力陸士達は行かせたくない…もう二度と飯島の時の様な思いはしたくないのだ…橋本は後藤三曹を呼ぶ。
「後藤…すまない…俺に命を預けてくれ…」
後藤は暫く思案した後、仕方ないと言った顔で笑った。
「他の陸士は巻き込まないで下さい…奴らはまだ若いですからね。
それから…隊に戻ったら、歌舞伎町に久しぶりに連れてって下さい…無論、橋本二曹の奢りで。」
橋本は頷いて後藤の肩に手をおいた。
「わかたった…帰ったらパーっとやろう…」
まだ朝も霞む早朝、連隊長と数人の見送る中、橋本と後藤の二名は敵弾薬庫を発見、叩くべく出っ発つして行った…