序章 ―北軍の進軍 7―
橋本や班員の体を冷たい雨が打つ…出会い頭に腹部を撃たれた飯島士長の体から体温を根刮ぎ奪っていく…
敵と接触してからかれこれ一時間は経っただろうか…星照に据えられている敵に動きはない…飯島の状態も芳しくない。
まずいな…橋本の顔に焦りの色が見えだした…
橋本は左右に展開している班員に射撃後の突入を手信号で伝える…鼓動だけが耳に入り、雨粒がゆっくりと鉄パチから落ちていく…右手で安全装置を外し、照門から照星を見据える…
左右の隊員の準備は出来ている…
橋本は深呼吸をすると撃鉄を引いた…
辺りには小銃の単連射の音が木霊し、硝煙の臭いが漂う…
左右から隊員が中腰で突入する、ザザッと言った草木を掻き分ける音と荒い息遣い…
突入した先に銃を突き付け、隊員は撃鉄を引いた…短い発砲音が二度ほど辺りに響き戦闘は幕切れとなった…
突入した隊員は立ち尽くしている…構えたままの銃は動かなくなった北の兵を睨みつけている…
橋本は隊員の肩にそっと手を掛け、銃を下げる様に促す…
北の兵は唯の独りだった…見ればあどけなさも残っている…十五六と言ったところか…痩せ干そり、手にはAKが確りと握られていた…
見開かれた目は虚空を見据えたままだ…
殺らなければ…殺られていた…
しかし…何と戦っているんだ…
そんな隊員達の声にもならない思いが伝わって来る…
橋本は少年兵の見開かれた目をそっと閉じると、腰を落とし…無言のまま手を合わせた…
皆、手を合わせている…誰かが泣いている…
やり場のない思いだけが心に残った…