洛陽燃ゆる
反董卓連合軍本陣に伝令が駆け込む。
「何!袁隗叔父上が!」
「賊軍に加担した罰として、洛陽の袁家一族は尽くを死罪に…」
「うぬぬぬっ…叔父上っ…必ずや董卓の素っ首を袁家先祖の墓前に供えてくれる!!!
出陣だ!董卓を完膚なきまでに叩き潰せ、!!」
反董卓連合は二手に分かれ進軍を開始する、南と北に分離し各々が汜水関を目指す。
集まった諸公は各々の思惑によって、袁紹、公孫瓚、韓馥、孔伷、劉岱、王匡、孔融、陶謙等は汜水関北を目指す。
曹操、張邈、袁遺、鮑信、張超、張楊、丁原、孫堅、袁術等は汜水関南に軍を進める。
賊軍の動きを察知した董卓は、胡軫、華雄等に5万の兵を与え北に進ませる。又、徐栄、李蒙等に同じく5万の兵を与えて、南に展開させ、樊稠、牛輔等に5万騎を以て遊撃とさせた。
北で対峙した連合は、先の戦いで猛威を奮った華雄の旗を見ると、二の足を踏んでしまう。
南では徐栄、李蒙等は街道を挟んで軍を伏せ、連合の来るのを今か今かと待ち構えていた。先陣は鮑信、曹操と軍列が続く中、徐栄等は挟撃にて奇襲する。瞬く間に兵馬は混乱に至り、張邈旗下の衛茲、鮑信が弟の鮑韜が混乱の最中、相次いで討死してしまう。
崩れ始めた隊列から我先にと、兵達は逃げ始める。倒れている仲間を踏み砕き、止め様とする者に剣を向けるまで居る始末だ。
曹操等は、軍を一時的に後退させると陣地を築き、隊を整えていると本陣に伝令が駆け入る。
「申し上げます!
後方の補給路にて、敵軍の奇襲を受け、袁術将軍旗下の部隊が至急の救援を求めております!」
「なっ!?
不味い…補給路は我軍の生命線!急ぎ救援の部隊を向かわせろ!」
袁遺の救援の部隊が到着した時には、既に食料は荷車毎、火を掛けられもうもうと煙が上がっている。袁遺は部隊に消火を指示するが、既に大半の食料は焼失しており、それを見た袁遺は、肩を落とし陣地に戻っていく。
「そうか、御苦労であった…して焼け残った食料は、いか程か?」
「良くて一月…悪ければ半月も陣を維持出来ないかと…」
「うむ…諸公を集めて軍議を行い、進退を決しよう…」
「…今話した通りだ!
北に向かった連合が、汜水関を落とせれば良いが…我らは、陣地を維持出来ぬ!この上は、袁術、孫堅殿の後詰めの陣まで軍を下げ、戦況を見ようと思うがどうか?」
「うむ…このまま、ここに留まっても、何れ進退は窮まる…それなら一度、軍を下げるのも良かろう。」
「待たれよ!
それでは此処まで軍を進めてきた意味がないではないかっ!!このまま、何の手柄なく郷里に帰って恥を曝せと言うのか!」
「一先ずは諸公に対しての義理は果たしたのだ…このまま、陣を下げ…袁紹殿等が勝てば良し。負ければ自らの所領に戻るしかあるまい…」
「何!曹操等は董卓軍に敗退しただと!」
「はい…南を目指した軍は、董卓軍の徐栄、李蒙の軍に挟撃を受け、現在は後詰めの袁術将軍、孫堅将軍と合流すべく軍勢を後退させております。」
「なんと不甲斐ない事か…ええいっ!誰かあの不快な音を止めよ!」
袁紹等の陣地では、華雄に対する恐怖から陣に籠り、亀の様に守りに徹していた。それに業を煮やした華雄等は、兵を敵陣前まで行かせると太鼓や笛を鳴らし、挑発を続けていた。
公孫瓚の陣地では、同行した劉備、関羽、張飛が挑発を繰り返す華雄の軍を忸怩たる思いで見ていた。
「兄ぃ!俺達はいつまで亀みたいに引っ込んで居れば良いんだ?」
「もう間も無くだ…今、袁紹殿の天幕には、南に向かった連合が敗退した報せが届いている。
このまま座していても、袁紹殿の面子が立たん…そろそろ、攻勢に打って出よう。」
「兄者…やはり力は温存するので?」
「いや…慶橋殿は、力を使うなとは仰らなかった。次に華雄が一騎討ちを掛けてくるなら…打って出ようと思う。」
「兄者がよろしければ…私が応じようかと…」
「わかった…その積もりで居よう。」
それから間も無くして、本陣天幕にて軍議が催された。
翌日、いつもの様に董卓軍の陣地から馬でやって来る者がいる。董卓旗下の華雄だ。
華雄は馬上で矛を掲げると、連合陣地に向かって叫ぶ。
「我こそは董卓将軍旗下にこの人在りと言われた、華雄なり!
賊軍に我に挑むはいないのかぁー!」
そして、華雄はいつもの様に、兵に挑発をさせようとして制した。賊軍の陣門から一騎、華雄の元に向かってくる。
「我は公孫瓚将軍幕下、劉備玄徳が義弟…関羽雲長、参る!」
華雄が関羽の元に馬を進め、矛を上段に構えて振り降ろす!関羽は、それを片手に持つ青龍偃月刀で難なく捌く。
「猪口才なぁー!」
華雄の矛が激しく関羽を打ち付け、その全てを片手一本で捌いてみせる。
「此で終いか?口ほどにもない…」
関羽はそう優や否や、青龍偃月刀を横薙ぎに一閃すると華雄の首が落ちた。
関羽は華雄の首を拾うと、陣に悠々と引き返していく。
この後、華雄将軍を失った董卓軍は、連合の攻勢に大いに足並みを乱し、副将の牛輔が命からがら敗軍を纏め、汜水関にとって返した。
「いや~っ…実に痛快だ!
その方、関羽と言ったな?我袁家に仕えぬか?その方程の者なら勇将として取立るぞ?!」
「有り難い申し出ですが、私の身は…長兄と共にありますので…御辞退させて頂きます。」
「ふん!つまらん男だ…」
「しかし、敵将華雄を討ち取った功績は大きい!先ずは、祝う!」
汜水関に戻った牛輔は、董卓に敗戦の報告をする。
「馬鹿者がぁ!少々、攻め立てられた程度で、おめおめと逃げ戻るとは!」
「申し訳ありません…」
「どいつもこいつも使えん!」
「将軍…私めに考えがあります。」
「李儒か…申してみよ…」
「華雄将軍を失った事で、汜水関の士気は落ち、陥落も必至…かくなる上は、軍を退き帝を洛陽から長安にお移しなるのが上策かと…」
董卓は李儒の献策を受け、速やかに洛陽へ帰還すると、文武百官を集め長安への遷都を宣言する。
これに反対する者は、一族全て獄中にて首を討った。さらに軍資金の不足を補う為、裕福な家々を襲い、賊軍に与したとして皆殺しに処し、金品を奪い家屋に火を放つ。
李傕、郭汜等は、皇族等の墳墓を暴き、副葬の金品を盗掘した。
天子と后妃を無理矢理引っ立て、一路長安へと向かった。数百万と言う民の列は途切れる事なく、道中は辛酸を極める…婦女は犯され、食料を奪われ…抵抗すれば斬り殺される。
洛陽の都は、兵によって火を放たれ、焦土と化す…民の怨嗟の声は、長安に至るまで途切れる事はなかった…
時に後漢200年の間、栄華を誇った洛陽は灰塵を帰した。




