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三國のダマスカス  作者: 羽有ル蛇
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乱世の始まり 2

「散々待たせた挙げ句、安喜県の県尉だと!

あれだけ働いてて田舎の県尉が勲功か!」


 張飛の怒声に流石に帝の使者もたじろいでいる。


 関羽は察して張飛を止めはするが、関羽とて怒りが納まるはずもない。

劉備は俯いたまま何事かを思案考している。


劉備は静かに口を開き、使者に拝礼する。


「劉玄徳…安喜県、県尉…確かに拝命致しました。


…関羽、張飛今は堪えるのだ。」


 劉備とて納得した訳ではない…だが、ついて来た兵達や義弟を思えば、今は甘んじて受けねば兵達は飢えてしまう。


 劉備は野営地に戻り、陣幕を畳み兵達を呼び集める。


「我等はこれより安喜県に向かい県尉の役目に就く!


我が義勇軍はここで一先ず解散するが、皆には付いてきてくれた事を感謝する。」


劉備は懐から袋を出すと兵の一人に託す。


「これを…残り少なくなってしまったが、軍資金です。

皆の道中の路銀にあてるとよい。

くれぐれも気を付けて帰るのです、楼桑里の皆にはよろしく伝えてほしい…」





 兵達は皆、見えなくなるまで手を振り続けた、劉備も見えなくなるまで見守った。



 劉備は振りかえり、慶橋より預けられた三人に目を向ける。


「連れてきた兵達は去った、後は…張任、周倉、大史慈…貴公等たけだ…貴公等はどうする?


戦は終わったのだ…兵達を率いて仙姑頂に戻るか?」


張任は劉備に拝礼する。


「はい…一先ずは仙姑頂に戻り、主に報告は入れようかと存じます。」


 劉備はうむと頷くき、張任達の手を固く握る。


「貴殿等のお陰でここまで来れたのだ…改めて礼を言おう。

慶橋殿にはよろしくお伝え下さい。」



 張任等は劉備の出発を見届けると、兵を率いて東方に足を進める。


 途中に幾度か山賊や黄巾の残党を伐ち、部隊に呑み込んでいく…気が付けば仙姑頂に着く頃には兵員の数は倍にまでなっていた。


 仙姑頂は張任等の出発している間に、随分と様変わりした様だ。

仙姑頂から連なる巨大な壁が築かれ、城壁の上には功城弩が等間隔で据えられている。


 湾には大小様々な船舶が列び、慶の身印を掲げている。



 張任等は千人長に帰隊を指示し、慶橋の邸宅に入る、自身の鍛冶場で鎚を振るう慶橋に部隊の帰還と道中の報告をする。

 慶橋の邸宅は半ば、仙姑頂の中腹に埋る様な構造になっている。邸内はそのまま岩をくり貫き、塹壕の様に複雑化されている。

そんな、邸内には慶橋の作業場として、鍛冶場や工作室などがあり、慶橋は精力的に活動している。


 張任は戦闘の経過、各人の勲功、そして、劉備の報告を事細かに伝えた。

 劉備が安喜県の県尉に就いた事、戦場における劉備の采配等…


 慶橋は一通りを聞き終えると大きく頷き、指示を出す。

まず安喜県に密偵を、続いて幽州は公孫家に使者、冀使州の袁家にも密偵に人を出した。


 少しづつ、そして着実に…歴史通りに物事が進む。慶橋は其所に手を加え、望む未来を夢見る。


 程無くして慶橋の耳に安喜県の県尉の一件が入る。

劉備の義第が督融に手をあげ、挙げ句に逃げ出したらしい…


 慶橋は直ぐ様、幽州公孫家に繋ぎを付け、劉備に接触する様に手筈を整える。

 幽州、現大守の公孫攅は劉備と共に盧植から教えを受けた兄弟弟子…上手くやってくれるだろう。


慶橋は呟く


「公孫攅殿頼みましたぞ…かの地には、劉備殿には会ってもらわなければならぬ人物もいるのですから…」



 慶橋は手配を終えると再び鍛冶場に篭り、鎚を手に鋼を鍛えていく。




 洛陽からの密偵の書簡が届き、それを受けた荀彧は拝礼して恭しく慶橋に伝える

慶橋は書簡に目を通すと満面の笑みを浮かべる。


「さぁ…次は十常侍討伐…先日は討ち損なったが今度は逃がさん…河進将軍の動きはどうか?」


荀彧は密偵からの書簡に目を通すと答える。


「毎夜、何やら配下の武官、文官共と企んでいる様に御座います。」


 慶橋は配下の武官、文官を召集すると軍議室に入る。

慶橋はこれから起りうる事を配下に話した。



可進将軍から出されるだろう檄(書簡)…


十常侍による可進将軍の暗殺…


袁家を旗印にした十常侍討伐…


そして…悪逆の限りを尽す董卓…



 初めは推測として聞いていた家臣の表情が、次第に変わるのが慶橋に見てとれた…


 程無くして帝が日頃の放蕩三昧が災いし、体をこわし余命幾ばくもない状況になっていた。


中常侍の蹇碩は、病の床につく帝に囁く。


「陛下…協皇子をお世継ぎにと考えでしたら、何進を亡き者にし、禍根を絶っておかねばなりますまい…」


帝の表情が陰る。


「何っ!何進をだと!?

何故、可進を殺めねばならぬ…ごふっ…か…可進は、良く職務に励んでいるではないか…」


蹇碩は静かな口調で続ける。


「可進は、所詮は一介の肉屋に過ぎません。

それがいまや大将軍に出世…自らの妹、何太后様がお生みになった弁皇子を王位にと、その身に合わぬ事を画策しております。」


帝は目を瞑り、黙っている。


 蹇碩は再び拝礼すると、ニヤリとやらしい笑みを浮かべる。


「陛下、ご心配には及びません…万事、この蹇碩にお任させを下さりませ…」


蹇碩は十常侍と結託し、何進の暗殺を図る。




 程無くして何進の元に宮中の密偵から報告が届く。


「何っ!十常侍供に協皇子を退ける企てがバレただと?!

うぬぬっ…このままでは、儂の命をも狙われかねん!」


配下は密偵からの書簡を何進に渡す。


「はっ!将軍を宮中で暗殺せんとの謀略ありと密偵からの報告です。」


何進は拳を固め


「うぬぬっ!十常侍め!

かくなる上は…各州牧、太守に激を出せ!


内容は任せる、兵を率いて来させろ大至急だ!」


配下はクモの子を散らす様に各地に走る。


 かくして何進の檄は各地の州牧、太守に届き、将軍の命により諸公は兵を率いて洛陽を一路目指す。

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