乱世の始まり
洛陽…言わずと知れた後漢の都が五彩旗を飾りたて、爆竹を鳴らし歓喜の声で賑わっている。
黄巾平定がなされ、皇甫嵩、朱儁、董卓そして曹操ら黄巾討伐に功のあった将軍が次々に凱旋し洛陽入りを果す。
時の霊帝 劉宏は腹心の十常侍に従い将軍等に勲功を与える。
しかし、そんな中劉備等、義勇軍には何の沙汰もなかった…
そして戦勝に賑わう洛陽に慶橋の姿があった…
「くそっ!いつまで待たせる気なんだ!」
張飛は煽る様に酒杯を空けると勢いよく卓に叩き付け、周囲に当たり散らしている。
関羽は張飛を諭す様に言う。
「我慢するのだ…我等は正規の官軍ではないのだ。
今は報せを待つほかあるまい…」
「でもよ…兄者…」
張飛は何かを言おうとして思い止まる。
そんな、劉備の野営地の近くを都に向け走る馬車の姿があった。
馬車の主は前を行く男を見付けると男の側に止める。
「もし…貴殿は帝より領地を賜った、仙姑頂の慶橋殿ではありませんか?」
男は振り返り、被っていた頭巾を下ろす。
「おぉ…貴殿は盧植将軍の参謀、張鈞殿ではありませんか!
どちらへ向かうのですかな?」
「これから帝に謁見の予定がありましてな…急いでいた次第です。」
「奇遇ですな!
某も帝に謁見の為、向かう途中なのですよ。」
「それは誠に奇遇。
一層の事、私の馬車にて一緒に行かれますかな?」
「それは願ってもない…よろしくお願いします。
…その方等は馬車の警護を行うのだ。」
慶橋は張鈞に拝礼すると、従者に命じた。
張鈞の馬車が程無く行くと、劉備の野営地が見えた。
張鈞は馬車を停めると、甲冑姿で陣内を見て回っていた男に声を掛ける。
「もしや劉備殿では御座いませんか?」
張鈞は慶橋と共に馬車を下りると、劉備達の話しを聞いた。
「なんと!
あれほど黄巾討伐で活躍した、劉備殿に何の沙汰もないとは…この度の功によって皇甫嵩将軍は車騎将軍に昇進し、朱儁将軍は河南の大守に、曹操も済南の相に任じられたと言うのに…」
話しを聞いた張飛は
「何だとぉ!
それじゃ兄者だけが…くそっ!!!」
張鈞は続ける
「功をあげた者をないがしろにしては、国の乱れる元となりましょう…よろしい…私は丁度、帝に謁見する予定…折を見て話してみましょう。」
馬車の中から
「話は聞かせて頂きました、よろしい…そう言う訳なら、私も一役買うとしましょう。」
そう言って慶橋が姿を表した。
劉備は深々と二人に拝礼をして、張鈞の馬車を見送った。
場所は謁見の間、今ここには張鈞と時を同じくして、謁見に訪れた慶橋の三人だけだ。
「何っ!
余に真実を知ってもらいたいとは?
どうことじゃ張鈞!」
張鈞は恭しくも答える。
「はっ!
先に大平道が謀反を起こしましたのも、元々と言えば政治の乱れ、官の腐敗に端はあるのです。
それを排除し、民衆の不満を取り除かない限りは、第二第三の反乱が起こるのは必至でございましょう。」
帝は狼狽えながら
「おまえは何を言いたいのじゃ…まさか慶橋、お主も同じ意見か?」
慶橋は黙して頷くのみ…
張鈞は意を決し
「陛下…十常侍を始末すべきかと…」
帝の顔に焦りの色が滲み出ている。
「何っ!
十常侍を廃せよと申すか!」
※十常侍とは当時の政治を司っていた十人の高官の事、当時は宦官が専横を極め皇帝は彼らの操るままとなっていた。
わずか十二才にて即位した霊帝もその例にもれず、長じても政治は宦官である十常侍に一切を任せ…自らは酒色の日々をおくるばかり…
十常侍を誅滅せんすれば極刑に…
賄賂を贈らねば昇進は望めない…そのツケは人民に回り、人民の生活は苦難を極めていた。
張鈞は身を乗り出し、帝に進言する。
「この度の黄巾平定において最も勲功のあった義軍を未だ城外に留めておく始末…それは義軍が賄賂の慣行を知らず。
彼らに武勲を与えたところで十常侍にとって何の利ならないからです。
陛下…天下の大乱は全て十常侍が元となった悪政の結果なのでございます。」
帝は目を閉じ、張鈞の話しに耳を傾けている。
張鈞はなおも続ける。
「十常侍を斬って功のあった者に厚く恩賞を賜れば…四海はおのずと安らかになるでございましょう。
陛下…御決断を!
このまま十常侍を放置されるなら、近い将来愚帝の謗りを受けますぞ!」
帝はややうんざりした様に
「わかった…考えておこう。
しかし、張鈞…今の言葉…それだけの言葉を吐いて、何もないとは思っておらぬだろうな?
慶橋にはすまぬ事をした…久しぶり話をするのを楽しみにしていたが、気分が優れん…日を改めさせてくれ。」
宮殿の回廊をいく張鈞と慶橋は、声を潜め話し合う。
「今回の件で帝がお目をお覚まし下さればよいのだが…正直、厳しいでしょうな。」
「やはり十常侍を…打つしかないのでしょうか?」
部屋の戸が開かれ、通路の前後を挟む様に抜剣した兵達が、慶橋と張鈞を取囲み、更に本命が姿を表す。
「何やら楽しそうですな…ですが、企てても我らの影響下の宮中では無意味…」
「十常侍!!貴様ら…」
「口数が多いと早死にすることになりますぞ張鈞…そして、慶橋…貴殿は少々、目障りです…ご退場願いましょう。」
十常侍が言い終るや否や、兵達が斬りかかってくる。
宮中に入るに当たり、武器の類は預ける都合上、無手と侮るか!
「…させぬよ!」
リーン…鈴の音と共に、慶橋は帯飾りに仕込んだ鈴付きの細剣を二本抜き打ちする。
二本の細剣は、一閃で数人の兵の剣を持つ手首毎切り飛ばす。
「貴様…何故、剣を持ち込める?!」
「お前らこそ勘違いしてないか?
私は帝から鍛冶名を賜った《漢七刀》…そして、帝と唯一、対等である為に小領とは言え賜った王だぞ…」
慶橋は細剣を十常侍に突き付け、兵達を威圧する。
「どうする?
私は殺り合っても構わないぞ…遅かれ早かれ、対立するんだからな…尻尾を巻いて逃げるか…
それとも…」
後退りする十常侍と兵達。
「くっ…張鈞!
この度は見逃してくれよう!だが…次はないと思え!」
慶橋は細剣を腰帯納め、服装を正す。
「後は帝のご采配次第ですな…」
張鈞は無言で頷く。




