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三國のダマスカス  作者: 羽有ル蛇
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太平道の乱 3

 食事時だと言うのに青州城の空に竈の煙は上がっておらず…見えるのは烏の姿ばかり…城門は固く閉じられ、城壁の上では、兵が力無くへたり込んでいる。


劉備は様子を見て呟く。


「兵糧攻めか…」


 鄒靖は無言で頷くと敵陣に目を移す。

敵陣は青州城を囲む様な形で敷かれており、夥しい数の竈の煙が上がっている…兵員はどれだけ居るのだろうか見当がつかない。


 劉備、鄒靖は陣に戻るなり地図を展げ軍義を行う。

劉備は地図上に官軍を示す駒を置き、言う。


「部隊を三つに別け、計略をもって討ちましょう。」


鄒靖は地図と駒の位置を確認した上で


「部隊を三つにですと?!この位置に兵を置いては、我が軍はひとたまりもありませんぞ!」


 劉備は首を横に振ると続ける。


「確に…正面から当たってもまともにひとたまりもありますまい…ですから、この場所に誘い込み左右からの狭撃するのです。」


 そう言うと劉備は地図の一点を指し示し微笑む。





 朝日が昇る頃、劉備、鄒靖は少数の手勢を率いて人の目を避ける様に陣を発つ。

手勢の中には関、張の義弟等の姿はなく、先の戦で戦効を上げた周、張の姿もない。


 劉・鄒の混成部隊は青州城と黄布軍を挟む様な形で布陣する。

砂塵が立ち上り、敵陣の様子は掴めない…ただ、眼前に無数の陣営が微かに見える。


 隣に馬を並べている鄒靖の喉がなる…そして剣を抜き、掲げると叫んだ。


「死地に活を求めよ!

それ以外に我らが生き残る術はない!

全軍突撃っっ!!!」


 大地に馬の蹄の音と兵達の怒声が響き、砂煙を上げてひたすら敵陣に向けて突き進む。



 劉備、鄒靖の部隊の側面を叩くべく、敵陣の左翼から敵兵が迎撃に打て来る。

側面に突撃されようとした瞬間、敵の軍勢から悲鳴があがり尋常でない血飛沫が飛び散る…


 向かい討とうとしていた官軍の兵達も劉備や鄒靖すら事態に困惑した。

上がる血飛沫はまるで竜巻の様に敵陣の左翼を呑み込んでいく…もはや左翼の敵陣には士気はない。


 恐怖の余りに敵兵は我先にと逃げ出している…

混乱は混乱を呼び、恐怖は伝染していく…士気の低下は左翼から扇状に敵陣に拡がっていた。


 圧倒的なまでの暴力…絶対的な力の前に策略など無力だ…敵軍には悪夢の様に感じるだろう。


 血飛沫の正体は、両の手に剣を持った大史慈だった。鍛造された鉄の剣は凄まじく、敵兵の持った剣や矛ごと敵兵を一刀で切り裂いていく。


 大史慈は返り血を浴びており、宛ら真紅の鎧を身に着けてる様にも見える。

手にしてる剣から滴る血が血溜りを作っており、人の脂がテラテラと光っている…




 左陣の様子を見た劉備は、即座に作戦を変える事にし、鄒靖に伝令を走らせ手勢のみで敵陣の討伐を開始する。

相対する敵兵の目に士気はなく、あるのは恐怖と絶望の色だけだ…


 最後まで黄布軍は崩壊した戦列を立て直す事なく、青州の戦は終わりを告げた。




 劉備、鄒靖は軍勢を纏め、整列させると一路、青州城に向けて凱旋する…城門をくぐり、城内に入ると劉備は我が目を疑った。


 青州城内は凄惨な惨状となっていた…兵達や民は痩せ、骨と皮だけの様になり行き倒れている。食べる物がなく、仕方なしに屠殺された牛や豚…果ては軍用の馬までが骨が無造作に捨て置かれている。


 捨て置かれてた屍は腐敗し、流行り病の元を巻き散らしている…城主はいったい何を考えているのだ。


 程無くして大守は劉備達を出迎える。

劉備はこのむやみに着飾り、やけに血色がいい男を見ていると怒りがこみ上げてくる。


 拳を握り固める劉備の気持ちを察すると、鄒靖は静かね首を横に振っている。

今の官軍には、この程度の男など腐るほどいるのだ…一々怒りを抱いていては、体がもたない…劉備の様な潔癖さは誇るべきものではあるが、鄒靖は若すぎる劉備に一抹の不安を感じた。




 劉備達は形ばかりの歓迎を受けた後、劉備は席を中座すると、館の外に出青州の夜空を見上げる。

見上げれば…楼桑村と変わらず美しい月…にも拘らず、青州の地はなんとも血生臭い事か…





 月に雲がかかり夜は更ける中、青州城に人知れず忍び込む影が一つ、張任の部屋に入っていく…


 影は慶橋からの連絡用員だった…男は懐から出した書簡を張任に渡すと、一礼して再び闇に溶けていく。


 張任は書簡に目を通すと、劉備の部屋に急ぎ向かう。

劉備は突然の張任の来訪を心よく受けた、張任から手渡された書簡を目を通し何やら考えている。




 数刻後、夜に紛れて青州城より離れた丘の上に数人の護衛をつけた劉備の姿があった。


息が白い…指先が冷えて痛む。


 闇の中、遠くからかなりの人数の足音涼しげな音色が近寄ってくる。

劉備は腰の剣の柄に手を掛けて身構え、護衛は劉備を守る様に身構えている。



 月明かりの中、微かに姿を見てとれる…その中の一人が頭巾を目深に被り、劉備の方にゆっくりと歩んで来る。


男は深々と拝礼すると口を開いた。


「初めてお目にかかります…仙姑頂の慶と申します。書簡を見て頂けたのですね…故あって書簡には書名出来ませんでしたが了承頂きたい…」


劉備は手で慶橋の話しを制す。


「…して…火急の用とは?

今更、自己紹介する為だけに呼んだ訳ではあるまい…」


慶は再び、拝礼をすると


「これは失礼致しました…では単刀直入に話しましょう。

劉備殿…河南は朱儁将軍の元から援軍の求めてきておりませんか?」


劉備の顔色がはっきりと変わった。


「!…なぜその事を!」


慶橋は話を続ける。


「河南の黄巾の将は地公将軍張宝…今までの戦闘の比ではない位、厳しい戦いとなるでしょう…」


劉備は暫し考え込むと


「構わぬ!

黄魔を滅し、民に…世を太平に導くと私は誓ったのだ!」


慶橋は首を横に振ると


「彼等…張兄弟も民の為に起った…志はあったのです…ただ…やり方を間違えてしまっただけです…」


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