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三國のダマスカス  作者: 羽有ル蛇
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序章 ―北軍の進軍 2―

 橋本の配属されている第32普通科連隊は以前、市ヶ谷から宇都宮に移転している。したがって電車の窓から覗く景色も街並みから次第に木や畑に変わっていく…橋本はお気に入りの吉川英治作「三国志」に目を落とす…幾度となく読み返されページの角は丸くなり、所々が日に焼けている…車両の心地好い振動がまるで子守り歌の様に感じられる、重くなった瞼をゆっくりと閉じた。


 意識の片隅で何かが聞こえる…「…や……つの……や……宇都宮……」

とっさに我に返り、ホームの駅名を確認する。


「まずい!」


 ホームに鳴り響く発車のベル…間一髪締まりかけの扉に体をねじ込み下車。


 ホームを見渡すと自分と同様に呼び戻されたであろう、駐屯地内で見掛けたヤツらが多く目につく。


 皆、足早にホームの階段を下っり改札へ抜けて行く…橋本も人波に押し出されるかの様に改札を抜けた。


 駅前のロータリーに目をやると…見慣れたカーキー色の車両が綺麗にならんでいる。

 脇には何やら紙を持って辺りに呼び掛ける自衛官の姿も見える…あらかた隣の営内の輸送小隊だろう。


橋本は馴染みのあるを探し自衛官に声を掛けた。


「丸山!ここで何をしている!」


 丸山と呼ばれる男は振り返ると満面の笑みで応えた。


「ご苦労様です!橋本二曹! 帰隊組がバスでは間に合わないので駆り出されたんですよ。」


 橋本は丸山の手元にある紙に視線を移すと呟いた。


「帰隊組のリストか…」


 丸山はボーズ頭を掻きむしりながら、面倒くさそうに答える。


「年末で長期の休みに入っている者が多くて…本当なら自分も今日から田舎に帰るつもりだったんですが…ははっ…」


 一体何時間居たのだろうか…丸山の渇いた笑い声からも疲労の色が見てとれる。


 橋本は丸山を気の毒に思いながらも駐屯地までの送りを命じる。


「まだ一両も動かさないのか?…すまんが隊に急ぎ戻りたいんだが…」


丸山はハッとして辺りを見渡す。


「隊員の集まり具合がまばらでして…でも平気です!

一両だしますので、少々お待ち下さい!」


 そう言うと丸山は、腕組みをして車両によっかかっている上官に事情を伝えに行った。

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