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三國のダマスカス  作者: 羽有ル蛇
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太平道の乱 2

 冬の雨が体から体温を奪っていく…森の中からも陣営からの灯が溢れているのが判る。


 雨音しか聞こえない夜更けに劉備の幕営に気配を殺した人影が近付く…


「夜分失礼致します…劉玄徳殿は居られるか?」


劉備は床から起き上がり、剣を手に身構える。


「…何者か?」


雨音の中、返事が微かに聞こえる…


「…さる方より書簡をお届けに上がりました…」


 劉備は首を傾げながらも幕営に通す。

手には抜き身の剣が光っており、一分の油断も感じられない。


 使者は異様な姿をしていた…ずぶ濡れで深々と頭巾を被り、辛うじて口元だけを覗かせている。


 使者は拝礼し、書簡を懐から出し恭しく劉備に手渡す。



劉備は書簡に目を通すと訝しげな表情になる。


「署名がないが誰からの使者か!


剣三本を貸し出すとは一体なんだ!」


使者は再び拝礼すると答える。


「主の名は今は申せませんが…何れ…お伝えは出来るかと…、三本の剣とは我等三名にございます。

我ら三名は、此より劉玄徳殿の手足となりましょう。」


三名は頭巾を外し名を名乗る。


「私は周倉と申します。」


「我は大史慈と申しますが…以下様にも劉備様のお好きな様にお呼び頂いて結構です。」


「私は張任ど申します…我等をどうか…劉玄徳殿のお側に就かせ下さい。」



 劉備は考えると兵に関羽と張飛を幕営に来る様伝える。


 程無くして関羽と張飛が幕営に駆け入ってきた…

関羽は厭月刀を三名に向け、睨みを利かせる。


劉備は静かに口を開くと


「弟よ…この者等をどうみる?」


関羽は


「主の名も言えぬ様な者などとっとと斬り捨てるべきです!」


張飛は事態が理解出来ずにただうろたえているばかりだ。


劉備は


「私は…この者等を信じてみようと思う。

今は言えなくても…何れは教えてくれよう…この者等を側に置いて様子を見ようと思う…」


関羽は赤い顔が、怒りで赤黒く染まる。


「兄者は優しすぎる!

この様な輩は、今すぐ厭月刀の錆びにしてくれるわ!」


 関羽の厭月刀が今まさに、使者である三人を凪ぎ払うべく唸りを上げた。



「関雲長!」


関羽の体がビクッとして手の動きが止まる…


「私が様子を見ようと決めたのだ…」


関羽は厭月刀を下げると三名に吐き捨てる。


「…兄者の命だ…怪しい動きをすれば、直ぐ様斬り捨てると肝に命じておけ!」


 その夜から劉備率いる義勇軍に新たに三名が加わった。


 劉備義勇軍は雨の中、幽州は大興山に軍を進める。手勢はわずか500余名の民兵ばかり、敵はおよそ50000…劉備は関、張を呼ぶと短期決戦、すなわち突撃をする旨を伝える。


 地の利があり、数で勝っている敵に勝つには出合い頭に全てが掛っている。

好都合な事に敵将の鄧茂、程遠志は雑兵と侮っている…付け入る隙があるとしたらそれだ。


 真っ先にどちらか一方を討ち取れば勝期はある!




 そして、劉備は大興山を前に陣をひく…案の定大興山の砦から門を開け、打って出てきた。

兵と兵が激突し、剣と剣がぶつかり激しい金属音と怒声が飛び交う。


 劉備の傍らに立っていた張任が腰から剣を抜き、身構えると人混みに飛込む様に踊り掛る。


 張任の剣が一閃すると、まるで紙でも裂くかの様に敵兵は甲冑ごと真っ二つとなり屍を曝す。張任が剣を振るう毎に敵兵の首は飛び、次第に人混みは割れていく…


 劉備は混乱する兵の中に敵将の鄧茂を見付けると張飛に向かわせる。

鄧茂は突進してくる張飛に気付かない…鄧茂が振り返り張飛に気付いた頃には張飛は蛇矛を突き出している。


「遅せいよ!」


 鄧茂は出合い頭に張飛の蛇矛に貫かれて敢えなく絶命する。


 張飛に背後から斬り掛った程遠志は、振りかぶった瞬間に首と胴が離れ、辺りに鮮血を巻き散らす。崩れ落ちた程遠志の後ろには返り血を浴びた周倉が矛を握り締め佇んでいる。


 頭を潰された大興山の黄魔(太平道)は統率はなくなり散りじりに逃げまどっている。



 劉備は部隊に混乱する黄魔の掃討戦を指示すると、自らも剣を抜き馬を走らせる。



 大興山の砦は呆気なく陥落し…戦闘の終わった戦場には黄布を纏った屍が埋め尽している。中には逃げ惑う人混みに踏み砕かれ、見るも無惨な姿になった者も見受けられる。




 大興山を平定し幽州城に戻った劉備達を太守劉篶は盛大に出迎え、一時の休息を劉備達は貪った。



 日が夕闇を照らす頃、幽州城に鄒靖が救援を求めて駆けこんで来る。



 聞けば青州城が黄布軍に包囲され、陥落も時間の問題に陥っているらしい…


大守の劉篶は援軍を出し渋っている。


 無理もない…援軍を出したくとも大興山での度重なる戦闘で、当の幽州軍には動かせる兵はわずかだ…



 劉備は劉篶の気持ちを察し、自ら援軍を買って出る。

敵は青州城を陥落させる程の勢い…苦しい戦になるだろう。


 見かねた鄒靖は劉篶に、自ら手勢を率いて劉備軍に加勢する旨を伝える。


 わずかな兵員とは言え、ここに劉・鄒の精鋭部隊が誕生した。




 青州城の空に烏が飛び交っている…戦て死んでいった者達を食む為に集まっているのだろうか…

青州に向けて進軍する劉備の目にも、次第に青州の異様な空模様が見てとれた。



 劉備は青州城からやや離れた所に陣営を敷くと、鄒靖を伴って敵陣を偵察に向かう。

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