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金と鋼の傭兵稼業(旧)  作者: 賀田 希道
アウター・デイ
29/30

アンメモーラブル・モーメント

 病室を去った灯は、そのまま高校の寮に帰る道を歩いていた。時間も時間だったので、大通りでさえ人通りは少なく、数度他人とすれ違う程度だった。

 明かりもだいぶ寂しく感じられ、一人でいることにか細ささえ感じさせていた。普段ならこんな感情は起きないのにな、という思考がよぎるほどだった。



 でもだからといって、あたしの世界になんかあるわけじゃない。別にあのクソマゾヒストが入院しているからといって、寂しく思うなんて馬鹿らしい。

 そんなのはあたしらしくない。


 この大通りを抜けて、路地を数回曲がれば寮だ。あと少しの道のり。

 そういえば、今日のメシ何にしよ。カップラーメンとかでいいかな。だって楽だし美味しいし三分だし待たないし。

 いつもなら千景にでも作らせるんだけどなー。あのバカ今入院してるし、他にアテないし。自分でメシ作るのもたるいしねー。


 そういや、あんとき千景が射ったあのビームみたいなの、あれなんなんだろ。あのバカでかいのがあっという間に爆発するくらいに強いビームだった。

 それとその後なんか火とか燃えはじめたっけ。で、息すんのがつらくなって……。アレってなんだったんだろ。ビームの影響なんだろうけど。


 てか、アレって普通にやばかったんですけど。あたし死にかけたんだけど。それに手とか足だっていつの間にか生えてるしわけわかんないし。

 ほんとムカつくなぁ、もぉ。


 イラつくなんて久しぶりじゃん。まぁ、最近はあのバカがねてるからだけど、ほんと嫌だなぁ。もう嫌すぎてたまらないよ。

 いっそ……


 「いっそ、明日夕立ちゃんに聞いてみよっかな?」


 それが一番楽だしね。絶対にあの人知ってそうだし。千景に聞いてもいいけど、あいつおしえてくれそうにないんだよねー。


 寮に着き、部屋の鍵を開ける。出迎えたのはベッドひとつだけの何もない部屋。歯ブラシとか冷蔵庫とかはあるけど、それ以外はなんもない。キッチンはカビだらけ、風呂は汚れまみれ。いつも千景の部屋のばっか使ってるから当然か。

 なんだかんだであいつの部屋って居心地いいしね。


 「じゃなけりゃ、あいつの部屋になんていかないし」



 湯を沸かし、カップにそそぐ。何年も変わらない携行食料カップラーメンをすすりながら、ふと明かりは思った。

 やっぱり待てないよなー、と。



 早速スマホを取り出し、夕立ちゃんにメールを送る。文面はシンプルに「あの千景の兵器なに?」とかでいいかな。それだけで通じるだろうし。

 ホイ、送信。


 あれ?送信されない。


 ほれほれ。

 なんど押してもメールは送られない。それどころか反応しない。チョー謎なんですけど。


 「ああ、何度やっても無駄ですよ」


 不意に後ろから声がした。とても冷たい声、なんていうか死んでる人の声みたいな。あれ?あたし鍵かけ忘れたっけ?

 くるりと体ごと後ろに向ける。


 声からわかっていたけど相手は女。目立つような藍色まがいの髪、プロポーションはけっこう貧相。出るとこ出てないし、引っ込むとこは……まあまあ引っ込んでるかな?

 制服は新東京西部の第四高校のかな。ちょっと昔の貴族っぽい制服で、黒をベースにしたのにちょいちょい青が混じってるブレザータイプ。うちらの真っ黒制服とは大違い。

 なんていうんだろ、ちょっとだけ不気味な連中だ。


 「誰?」

 「市立第四高校の綾瀬(あやせ)(こよみ)です。自己紹介はこんな感じでいいですよね?」


 なんかこの女ムカつく。言葉使いとかもだけど、なんか性根がヘビみたいだ。夕立ちゃんとか千景とか、なんか色々隠してる連中っぽい。

 それに不法侵入だよね、これ。


 いつでもコインを展開できるようにポッケに手を入れる。いつでも来いって感じ。

 「んー、ひょっとして警戒してますか、やっぱり話しかけずに後ろから奇襲したほうが良かったですよね、昔から悪い癖なんですよね、これからのことを思うと相手の声くらいは聞いておきたいなーとか思っちゃうので、ああでも大丈夫ですよ、すぐに始末しますから」

 長ったらしくウザいな、この女。よし、殺そう。不法侵入者だし、問題ないよね。


 あたしがコインを展開しようとすると、暦とかいうのはいつの間にか構えていた拳銃を射った。装置でも付けていたのか、あまり音はならない。

 つってもそんくらいの弾丸差が一ミリでもかわせるっつーの。弾丸を避けて、相手の喉笛を狙う。ちゃっちゃと日本刀を展開して、首をすっ飛ばしてしまおう。


 高熱の刃が嫌な女の薄い皮膚を焼き切った。思いの外あっさりと切られたそれは、ポトリという優しい音を立てて床に落ちる。

 首をなくしたせいであたしの部屋中に血が飛ぶ。汚いなー、もう。汚れて困るもんとかないけどさ、もうちょっと配慮して死んでよ。


 日本刀をコインに戻して、まだ血を撒き散らしている女の死体を見る。何だったんだろ、この女。メールの送信妨害してたっぽいけど。なんかマズイメールだったのかな?別にマズイメールだったからって気にすることじゃないけど。

 ま、女死んだんだし、別にいっか。さっさとメール送ろ……ん?



 その時に灯が見たものは形容するなら、ヘビなどが行う脱皮のようなものだった。首のなくなった暦の体にヒビが入ったかと思えば、勢い良く殻を破るが如く、裸体の女体がこぼれ出た。

 その似姿はさっきまでの暦と瓜二つ。寸分違わぬ精巧なものだった。肌の色、身長、体型ただの一つも狂いはない。クローンと言っても差し支えないだろう。


 驚きの登場の仕方に灯は驚きはしたが、即座に対応しようとした。が、いきなりの登場に面食らっていたのか、動きに多少のムダがあった。それが数瞬のスキを生み、新しく登場した灯は拳銃の引き金を引いた。

 弾丸は灯の脳髄にまで届き、完全に灯を沈黙させた。

 


 私が射った弾丸は灯さんの脳髄にまで走ったことでしょう。事実として彼女は刀を手からこぼし、床に倒れ伏しました。

 本気ではなかったとはいえ、私を一回殺すなんてすごい人です。まさに人類が産んだ奇跡の子ですね。やっぱり「パラスィトゥス事件」の重要参考人は厄介ですね。


 とはいえ、もう済んだことです。あとは私の遺体とかを吸ってしまえばいいんです。

 私は昔の自分の遺体に触れると、肉体組織をすべて取り込みました。自分の体積とほぼ同等の肉体を吸収したにも関わらず、体重が増えたとは感じません。

 とても不思議です、この体になってからもう八年は経過するのに、ほんと変ですよね、いつもこんな感じですし、死ぬのも慣れませんし、成功体のはずなのに。

 

 さて、これであとは灯さんが千景くんの核ライフルについての記憶を忘れてくれれば、私の仕事は終わり。気楽に休めるというものです。

 任意の記憶を完全になくす弾丸。人体に接触すると同時に実態をなくして、脳の記憶系を支配する。すごく高価なのに、こんなに任務に使うものなんですかね。まぁ、本部の決定ですから私の気にするものではないんですけどね。


 これでしばらくは任務もありません。何をしましょうか。学校はちょっと面倒ですし、本部の機嫌取りは面倒ですし、暴食は太りますし、ショッピングは正直だるいですし。

 あ、いっそ御見舞でも行きますか。久しぶりに千景くんに会いたいですし、ボロ雑巾みたいな彼も見てみたいですし、からかい甲斐がありそうですし。


 そうと決まれば善は急げ、早速病院に行きましょう。時間は朝六時ですか。彼なら叩き起こしても問題ないですよね。



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