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金と鋼の傭兵稼業(旧)  作者: 賀田 希道
アウター・デイ
27/30

ベアラー・オブ・ベネディクシムス

 生きたい……  ?

 そう最後に思ったのはいつだったけ?多分十年くらい前かな。

 ああ、そうだ。確か新東京にたどり着く前だ。どっかの荒れ地でホムンクルスに会って、体のあちこち持ってかれたんだった。右手とか右足とか左耳とか腎臓とか色々。


 そん時死にたくない、とか思ったけ。そっからどういうわけかいつの間にか新東京の病院にいたんだっけ。無くした体の部位も全部元に戻っていた。

 やっぱ錬金術ってすごいな。なくした腕とか足とかも元に戻せるなんて。言うて部位オンリーの話であって、それ以外は無理なんだけどね。


 この場合におけるそれ以外ってのは、人間とか生物まるごと、のことだ。形は作れてもすぐに煮崩れするとか。

 せっかく時間をかけて作ったてのに、すぐに煮崩れしちゃ可愛そうだよね。錬金術師も浮かばれない。浮かばれる必要もないけど。

 


 目を開く。

 開くと、一瞬白い空間が視界に広がり、すぐに着色されていった。着色されて視界に映ったのは、病室。なんの変哲もないただの病室だ。個室なのか、俺以外の人間がいない。加えてベッド自体もかなり豪勢だ。VIPルームというやつだろうか。


 あいにくと、そんな高待遇を受ける自覚がない。てか、病室にいるってことは俺は死んでなかったのか。ラッキーだな。


 体を動かそうとすれば、少しだけ痛む。ああ、痛覚って懐かしいな。別に俺がMとかじゃなくて、記憶の上ではさっきまで俺は痛覚をなくして、酸欠状態だったわけだったのだ。

 一体どれくらい寝てたんだろう。


 「あ、起きてる……」


 誰かの声がした。さっき見たときは誰もこの部屋にいなかったから、誰か入ってきたんだろうな。視線を入り口に向ける。


 「なんだ、灯か」


 視線の先には包帯はおろか絆創膏も付けていない灯が、少しばかり驚いた様子で突っ立っていた。なくした右手ももう生やしたようで、ちゃんと袖に手が通してあった。


 「は?何それあたしじゃ悪かった?」

 「できれば美人ナースとかがよかったね」

 「あー、それならあんたが寝てる間介抱してたの美人ナースだったけど?」


 マジかよ!うわーなんで俺その時に寝てるんだよ。バカじゃん。フザっけんなよ。けっこうこれはマジな話で。

 苛立って両手をドスンとベッドにた叩きつける。え?


 両手?

 確認すると、錆びて動かなくなっていた俺の左肩が完治していた。あと毛根絶滅した髪とか、しわくちゃになった肌とかも。

 触ってみて本当に肌がスベスベになったことを確かめる。ヤフー。


 「どしたの?今更美容ケア?」

 「何言ってんの、美容ケアしなきゃいけないのはうちの社長だろ?」

 「あーそれそれほんそれ」


 自分たちの愛すべき社長への罵詈雑言を言っているときだけ、痛みを忘れられるんだから皮肉だな。しかし……


 「なぁ、あの後俺らってどうなったんだ?」


 窓の外に視線を向けながら、ポツリとつぶやく。外は暗いが、この病院がどこにあるのかはなんとなくわかる。ここは都市中央の総合病院だ。医療系錬金術と最新の科学医療機器に加えて優秀なドクターが在籍する新東京一の病院だ。

 場違いなことこの上ない場所だ。


 「あーそれね。実はよくわかんない」

 「は?」

 「なんかさー、あの森で半分窒息してたらしくて、回収すんのに苦労したっぽい」


 そんだけ聞けば、なんとなく何があったのかはわかる。多分、対核兵器用の防護服を着た兵士が俺らを回収したんだろう。核を使った影響で他のホムンクルスが動きを封じられていたのも幸いしたんだろうね。

 多分回収とかは楽だったんだろうね。


 「じゃーあのレベル6は撃滅したんだな?」

 「そ。昨日くらいかな?夕立ちゃんが楽しそうに高そうな酒飲んでたけど」


 それって確実に俺が撃滅したレベル6の報奨金だよね。そうなんだよね!

 うわーふざけるなよ。一体いくらなんだよ、あれの報奨金。絶対に一千万とか二千万以上だろ。一億、十億は軽くするだろ。


 「で、その社長様は?」

 「正規軍のおえらいさんとこ」


 舐め腐ったような笑みを浮かべながら、灯が笑った。しかしあまりイラつきはしなかった。むしろ今は人の金で暴飲、暴食をしているであろう夕立ちゃんに腹が立っていた。

 やっぱりあのロリ社長処刑してやろうか。


 「夕立ちゃんて、クズだよなー」

 「あんたに言われなくてもわかってるし。つーかクズさ加減でいうならあんただって負けてないでしょ」


 それを言われては立つ瀬がない。核兵器を平気で使っちゃうような人なんだから、そりゃクズでしょうけどね。でももうちょっと言葉を選んでよ。俺の心が傷ついちゃう。


 なあんちゃって、別に俺の心が傷つこうが、そこの劣化版夕立ちゃんは気にもとめないだろうけどね。

 「さぁて、また一眠りしますか。あ、灯は出ていってねー」

 そう言って、灯が出ていく前に照明を消した。



 ブースカ文句を言う灯を部屋から追い出して、一人心地る。

 今回の件で死んだ正規兵、傭兵の数は五十人弱だろう。そのどれもが優秀、と銘打つ連中だったはずだ。そのことから都市の防衛力が削がれるか、と言われれば答えはノーだ。


 防壁という壁があるのと、数でどうとでも防衛力は対処できる。

 問題は拡散した放射線とかだ。都市にけっこう近い場所で使ったから、少なからず影響はあるだろう。いくら錬金術という力があるとはいえ、放射線物資を防げる透明なバリアーなど作れはしない、はずだ。あれば問題ないのだが。


 夕立ちゃんは俺の責任にはならない、と言った。ならばそうなのだろう、と安心すべきではない。間の悪い時にその話をほじくり返されても厄介だ。

 ていうか絶対にあのブラック社長はほじくり返してくる。

 


 しかし、こうしてみるとラッキーだった。放射線物資に体を侵されながらも、無事危機を脱し、あまつさえこんな高待遇を受けている。うん、夕立ちゃんの暴飲暴食を見過ごしてもいいかもな。例え報酬が一部だとしても、百パーセントが一億とかなら百万円もらえる。十億なら一千万だ。


 高校生が持つには高すぎる金額ではあるかもしれないけど、何を言ってらっしゃる、俺は傭兵だ。傭兵に高校生とかカンケーないし、中東じゃ少年兵なんてザラだ。

 誰にも文句は言わせないぞー!オー!

 

 ガラ……


 ガッツポーズを決め、一人でテンション上げまくっていると、再び病室の入り口が開いた。看護師さんかな?この時間帯に面会に来る人間なんて灯くらいしかいないはずだし。

 しかし、入ってきた人物はそのどちらでもなかった。それでも俺のよく知っている人物ではあった。


 「目を覚ました、とそちらの社長から聞いてね。顔を見に来たよ、室井千景三尉」

 「お久しぶりですね、室井伊豆留准将」



 来訪したのは今回の作戦における指揮官だった室井准将閣下。相変わらず見目麗しゅう、などと世辞を言える立場の人間ではなかった。


 「さて、三尉。今回、私は君に二つニュースを持ってきた。まず一つは、一尉への二階級特進おめでとう。もっともこれはお飾りのものではあるがね」


 それはそれは。別に全然嬉しくないことだな。そもそも階級なんて今も昔も大して意味をなさない。せいぜいがちっちゃな集団で威張り散らすためだけの手形みたいなものだ。俺はこんなに偉いんだぞー的な。


 「そうですか、ありがとうございます」


 しかし、形だけでもありがたがっているように見せた。室井准将閣下もそれを察したのか、苦笑していた。

 「二つめは君の今回の論考をたたえて、報奨金一億円が君の会社に振り込まれた。レベル6を単機で撃滅するとはすばらしい」


 なにが、すばらしい、だ。あんたは俺が核兵器を使うことを知ってたんだろ。その強大な敵を倒すためなら核兵器も使うぜ精神嫌いなんだよなー。


 それよりも報奨金が一億か。まあ、それくらいがいい塩梅だよな。さすがに十億とかはないだろうし。でも、会社に振り込むかー。


 夕立ちゃんが使うわけだ。

 あの金の亡者め。本社の金のみならず、社員の報奨金にも手を出すか。やっぱあの時になんとかとかいう査察官に渡しちまったほうが良かったかなー。


 「以上だ。それじゃあお大事に」


 簡素な言葉を残して、室井准将閣下はその場を去ろうとした。いや、ほんとそんだけかよ。マジでなんなのあの人。


 人の(わたくし)時間を奪っといてそれですか?

 文句の一つでも言ってやりたかったが、何分向こうは社会的にも物理的にも圧倒的優位にある。ここはガマンするのが得策だろうな。


 灯とかだったら、飛びかかってるだろうけど。野蛮人てやーねー。

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