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金と鋼の傭兵稼業(旧)  作者: 賀田 希道
アウター・デイ
25/30

ベアラー・オブ・ドナーリ

 恥ずかしながら口が裂けんばかりの笑みを心の中で浮かべるに値するな。本当にそんなことしたらさぞかし引かれるだろうな。


確認して、役割分担を決める。身体能力順で役割分担を決めたので、灯、朝倉が、静海が誘導役。俺は観測役兼新東京との通信役だ。安全なのって、いいなぁー。

 役割分担を決め、ようやく作戦行動に入る。



 『目標見っけ。ノロノロ東に向かっている』


 作戦を開始してから、大体二十分後くらい経って、ようやく灯から無線で連絡が入った。木の上を忍者みたいに移動してるくせに発見すんのが遅いんだよ。

 つか、移動方向東か。真逆だな。


 「そっから気とか引ける?てかまず手とか届く?」

 『ムリムリムリムリムリムリ。二百メートルくらい離れてるしハチ多いし高いし』

 「あっそ。じゃ、残りの二人に任せよう」


 元より灯には期待なんてしてないしね。あいつの装備近接線オンリーだしね。言うて他二人の装備だって中距離タイプ。やっぱ俺が挑発するしかないかな。

 とりま近くの樹木から射つのが手っ取り早いけど、俺じゃあ登れなさそうなんだよなぁ。高所恐怖症だし。


 「なぁ、灯」

 『はいはい?』

 「城型の座標とかわかる?」

 『んー?ちょまってねー』


 何を待つのか知らないけど、電話越しじゃ文句も言えないので待つことにした。ほんと何を待つ必要があるんだろう。んなもん、自分の現在位置と向こうさんの現在位置を地図に当てはめればわかることだろ。


 そっから大体二分くらい経って、ようやく灯から座標を表記したメールが送られてきた。ふむふむそんなとこですか。思ったよりも遠いな。こっから距離としては十五キロか。

 俺のライフルの有効射程距離外だな。うーん、座標さえわかってればなんとかなるかな。


 ライフルを仰角八五度くらいにセットして、なるべく高く持ち上げる。少しでも距離を稼ぐためだ。このライフルの有効射程距離が大体三千メートル。弾丸を届かせるだけなら三千五百メートルは飛んでくれるはずだ、多分。


 ものは試しだ。サイレンサーを付け、破れかぶれに引き金を引く。


 ピュッという水滴を飛ばすような音がライフルからもれた。時速二千キロの高速弾が発射されたにしては拍子抜けな音だ。さてどうなったかな、俺の弾丸は。


 『あー千景?城型が動き止めたんだけど』

 おーマジか!自分でも今灯からかかってきた電話の内容が信じられない。わーい、俺マジ天才。


 『あ、こっち来た』

 「わかった。じゃあ残り二人にも西に退避するよう言っといて」

 『はいはい』


 灯の報告を聞く限り、あの城型は弾丸の存在に気付かなかったみたいだな。気づいたとしてもどうやって避けるのか、て話だけどね。あんなバカでかいものがモノホンのハチみたいに動いたとしたらそれこそ脅威ってもんだよ。


 俺も移動するか。向こうさんが頭上を去って、指定座標に到着したと同時に撃滅すればいいわけだし。



 ?



 はい?



 移動しようと、左足を踏み込んだときだ。音もなく、俺の左足がももに膝小僧辺りまで力がなくなっていた。まるで力を込められず、俺は重力に任せて地面に倒れる。

 すぐにズボンの裾をまくり、左足の状態を確認する。


 俺の左足は茶色く変色していた。しかも少し軽く触れただけで、ボロボロと表皮が崩れ落ちた。そして表皮の下からは新たな皮、それも茶色。


 いくら表皮が溢れようと、血は流れず、痛覚すら感じない。感覚神経がまるで機能していないばかりか、体内組織の殆どがまるで機能していなかった。


 表皮がこぼれていくと、やがて筋肉が顔を覗かせた。これも茶色く変色し、動かすこともできない。ギリシャ神話におけるメデューサの呪いのようだった。


 ああ、これはアレだな。

 レベル6ホムンクルス特有の錆化だ。回避不可能なうえ、その気になれば近くのものをまとめて錆させることができる脅威の能力だ。


 ここはそれなりに離れているから影響もこれくらいで済んだんだろうけど、近くにいる灯とか静海とか朝倉とかはもう全身錆びて、呼吸困難か砕けて死んでることだろうな。

 一応の生存確認のため、発信機で現在位置を確かめる。もし死んでたら発信機自体も錆びて機能していないはずだ。


 表記された発信機の座標は俺を含めて、二つ。奇しくも一番近くで監視していたであろう、灯の発信機だ。この場合は褒めてやるべきなんだろうけど、今あいついても意味ねーんだよなー。

 その時だった。周囲の樹木が突然枯れ始めた。同時に俺の左足の錆化もいきなり進行を始めた。城型が近づいてきているな。


 自分の左足をライフルで弾き飛ばし、進行を一旦停止させる。俺の体を離れたと同時に左足は空気に消えた。

 ライフルを杖代わりにして、急ぎ足で場を離脱する。片足で効果範囲外まで逃げられるわけもないけど。逃げている間に右耳、右の腎臓周辺、左横腹、左目が錆化した。痛覚がないのがたちが悪い。気づいたときにはそれ以外にも左肩とかが錆びて、全く機能しなくなっていた。


 それでもそれなりの距離を逃げれた分、良しとしよう。錆化が止まったので、足を止めれば城型ははるか西の空だ。

 視認はできる距離だけど。



 「随分やられたじゃん」


 ああ、ここでこいつと合流するのかよ。でも、一応誘導には成功したわけだし、別にいいか。今あの城型がいるのは俺が先に死んだ(俺予想)二人に知らせておいた誘導位置。


 邪魔だったハチ型ホムンクルスも城型の錆化に巻き込まれたのか、周辺に見当たらない。視界を閉ざす邪魔者もいない。

 正に千載一遇の好機、という奴だろう。これを見逃すバカはいない。


 俺はライフルを構えて、ホムンクルスに向ける。推定で距離は二千メートルくらい。有効射程距離内だ。見通しは世辞にもいい、とは言えないまでも見えてるだけマシというものだ。

 監視の目があるのは残念だけど。


 ライフルのマガジンを抜き、別のマガジンと交換する。交換したのは正規軍から支給される対ホムンクルス用の特殊弾が無限生成されるマガジン。新しく、セットしたマガジンは……かつての兵器の破壊力を収めたものだ。これは装填弾数六発。


 弾速は三十万キロ毎秒。言うてビームなんていうちゃちなものじゃない。大体ビーム程度じゃレベル6は殺せねーしな。


 ま、御託はこれくらいにして、そろそろ射ちますか。

 あんなでけー的、外しようがないしね。

 カチリ、という乾いた音が小さく響く。


 直後、人間の脳では反応できない速度の高エネルギーが俺のライフルから放射された。高熱のエネルギーであったため、銃身が少しずつ溶解しだした。


 「前時代の遺産はどうだい?」

 


 高エネルギーはただ一つの目標、城型ホムンクルスに向けて、烈火のごとく迫った。城型はその接近に気づいてはただろう。少なくとも人間とは脳の回転が違う。

 だとしても、不可能なんだよ、防ぐのは。


 あの高エネルギーは金属物質ではなく、かつての前時代でさえ人類が好まずに使用した兵器の一端だ。一般的には「ABC兵器」と呼ばれている。


 嘘か誠か、最高熱量一億度の超高熱兵器であるそんなものを喰らえば、さしものレベル6といえど、溶解せざるを得ない。そも金属成分を含んでいないので、錆化させて回避することもできない。どうだ、これが人類様だ!


 とはいえ、こっちにダメージがないとは言えない。放射と同時に周囲一体に有害物質が大量に散布された。新東京に戻れば、高度医療でどうにかなるだろうが、そこに至るまでに死んでしまっては意味がない。

 熱放射で死ぬとかふざけんなよ。


 核エネルギーの直撃を食らった城型を超高熱が包む。またたく間に体が解けていき、液体になった金属はすぐさま蒸発した。どれだけ硬い外装を有してようが、核の前では無力だ。


 多分、あの城型の中には何百体というハチ型が住んできたはずだ。それもまとめておじゃんというわけだ。ひょっとしたら蒸し焼きになってたりしてね、虫だけに。


 「これで任務終了……」


 はは、やべ唇の感覚がねー。そんなに散布状況悪いのかよ。

 すでに熱放射の影響で樹海が燃え始めている。遠からず二酸化炭素がここらへんに充満して、酸欠になるだろう。で、めでたく自らを犠牲にして新東京の平和を守った英雄の出来上がり……


 冗談じゃーねよ。

 核兵器使う人間のどこが英雄よ。そもそも日本人が核兵器使ってんじゃねーよ。使ったけどさ、使ったけどそれで死んだら意味ねーだろ。


 俺の隣で灯が苦しそうに悶ている。さっきは気づかなかったけど、彼女の右手がなかった。あと左手の小指もないな。錆びて消えたわけか。

 加えて今は酸欠ですか。ははは、哀れだねー、俺もだけど。


 灯の眼球が充血するとばかりに見開かれ、透明な液体が目の隙間と口内からこぼれ落ちる。熱で眼球が沸騰して溶け出しているのだ。口から出てきた方は鼻水かな?

 鼻から溶け出していないくせに鼻水って呼称するのどうかと思うけどね。しかし、思ったよりも冷静だな、俺も。


 熱放射の影響で毛根だってもう絶滅しちゃってるし、顔はしぼんでいる。一気に八十年分くらい年をとった気分だよ。もう目も閉じられない。

 ここで死ぬのか。死ぬのは嫌だなー。



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