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金と鋼の傭兵稼業(旧)  作者: 賀田 希道
アウター・デイ
24/30

ベアラー・オブ・ヌークレム

 行動だけは速いな。

 などと考えてる場合ではなく、俺も身を隠す。とりあえずは樹木の影に。そして城型のホムンクルスが飛来するのを待つ。



 程なくして、巨大な影が周囲を暗くした。大きすぎて、俺の隠れている樹木の影からじゃ部分的にしかその姿が捉えられない。それでもなんか上でやってるんだな、てことはわかる。


 数秒後、カチカチと音を立てて、ハチ型ホムンクルスが降下してきた。大きさを見ると、レベル3。それが大体十匹程度だ。あの城がなければ対処できなくはない量だ。


 あの城、邪魔なんだよ!

 心の中で悪態をついた。


 降下してきたホムンクルスは残骸になった味方の死体、ではなく正規兵、傭兵の死体に手を出す。一体ずつ人間だったり、武器だったりをかき集めていく。

 その十匹が飛んでいくと同時に、再び同型のホムンクルスが降りてきた。今度は数が三倍近い。仲間の遺骸をかき集めている。なんであんなことすんだよ。


 ……………

 少し考える。

 ……………

 そういうことか。


 アレは、ハチ型ホムンクルスはその性質上女王蜂に食いもんを与える、という使命がある。ホムンクルスにとっての食いもんとは金属類だ。人間の体内にある鉄分、銃器、そしてホムンクルスの体。

 味方であろうと、死んだのならもう養分ということか。残酷だなー。


 全部の遺骸を回収した後に残ったのは、地面を赤く染めるおびただしい量の血だけだ。その量の血が人間の体に収められている、と考えると人間てすごい量の水分を体内に持ってるよなー。

 もし、水分を養分とする植物みたいな生物が誕生したとしたら、ホムンクルス以上の脅威だよな。まあ、ホムンクルスも十分脅威なんだけどね。


 しかし、これはマズイな。

 あれだけの量の鉄分を女王蜂が吸収するとしたら、潰した三十匹はおろか加算された分の兵隊ハチが生成される。人間が死ねば養分、味方が死んでも養分というわけだ。


 こっちが死ねば死ぬほど向こうの兵隊は増えて、より協力になる。これから死んだ人間とかホムンクルスとかは燃やしてしまおう。ホムンクルスが燃えるかどうかは知らないけど。

 城が消えたのを確認して、樹木の影から出る。


 城が向かったのは第一班が捜索している場所だ。今度は向こうの班を襲撃する気か。規模だってさっきのを学習して、数を増やして攻撃をする。

 相打ちはなく、今度こそ壊滅する。向こうに灯みたいなイレギュラーがいれば話は別だけどね。


 「で、どうする千景?」


 別の場所に身を隠していた灯が姿を表す。さしもの灯も驚きを隠せないのか、声にいつもの余裕がなかった。


 「どうするもこうするも逃げる一択でしょ。ありゃ俺らの手に余る。それに……」

 「あれがレベル6かもしれないから?」

 「十中八九そうだろう。通常の進化でアレはない、アレは」


 右手をヒラヒラさせて無理無理という仕草をする。だって、無理なものは無理だしね。十億円あげる、とか言われても断るよ、アレの撃滅は。

 一千億円なら……あるいは……

 いやいや、そんなことよりも。


 「残り二人はどうした?」

 「ん?あそこ」


 灯が指差したのは俺たちとは逆方向の樹海の中。見ると、樹木の影から二人が姿を表した。あいつら俺よりも先に隠れやがって。あとで憶えてろよ!


 『第四班、応答しろ!……kえす、応答しろ!』

 「なんすか?」

 もう敬語を使うのもしんどかったので、軽口で応える。向こうは切羽詰まってるみたいだけど。

 『……か?y……け。……1h……と……3班……壊滅……。すぐにき……』


 余程電波状況が悪いのか、あとはもうザーザーとしか聞こえなかった。しかし、断片的な情報で推理はできる。他の班は壊滅したのか。そして新東京の連中は即時帰還を求めている、といったところか。

 で、その手段は多分徒歩だな。


 うん。

 無理です。

 だってそうじゃん。俺一人ならともかくとして残り三人を無事に都市まで送り届けるとか、不可能だから。それにここ十年くらい外で暮らしてないから、都市外での生活の知識なんてほとんど忘れてるよ!


 あー、しくった。マジでしくった。

 もう死にたーい。


 「どーしたの、頭なんか落として」

 「いやー、自らの無力感にさいなまれてます」

 「何それ、バカ?動かないとみんな死ぬよ」

 「言ってることはまともだけどさー。ホムンクルスの楽園からどうやって逃げるって言うの?あの城のせいでヘリは飛ばせない。徒歩じゃ新東京まで最低一日はかかる」


 それどころか、俺たちをここまで運んできたヘリはもうホムンクルスに撃墜されているかもしれない。徒歩だと道中のホムンクルスをさばききれない。灯はともかくとして、他の二人は確実に死ぬ。んなことを強要できるほど俺の肝はすわってはいない。



 『あーテステス。おーいちかげー聞こえてるー?』


 何もかもを諦めたときだ。深刻な空気ぶち壊しの和やかな声がスマホから流れてきた。なんでこんな時に。遺言でも聞きたいのかよ。


 「なに、夕立ちゃん?」

 『聞こえてんなら返事くらいしてよー。まーその辺はどうでもいいとして。それよりもさーちかげー。社長命令、あのバカでかいホムンクルス殺してー』


 えー、なんでさー。


 「いや、無理でしょ。俺の今持ってる武器じゃかすり傷程度でしょ」

 ほんと何言っちゃってんの、このブラック社長は。大体これってどうやって通信してんの。衛生とかハッキングしちゃってます?


 『んなこと言っちゃてー。あるでしょ、アレを一瞬で消滅させられるだけの兵器が』

 「いや、あるけどさ。アレって後々まずくない?色々と面倒あるよ?」


 スマホを持つ俺の手の力が少し強まる。俺程度が握ったくらいじゃヒビも入らないが、カタカタと防水用のケースが震えた。

 『その辺の面倒はもうどうでもいいかな。さっき本社からもオッケーもらったし』


 こうまで言われては断ることはできない。使用許可が降りてるなら別にどんな戦略兵器も使っていんだよね。核兵器しかり、巡航型水爆魚雷しかりだ。


 「あーわかりました。言っときますけど俺は一切責任もちませんからね?」

 「わかってるってー。もしなんか文句言われたら、録音したテープ向こうさんに聞かせてあげるから』


 安心できるセリフを吐いて、夕立ちゃんからの電話が切れた。言質はとれた。あとは実行するだけだ。自然と口元が緩んだ。



 対抗手段を確保したところで、作戦会議に入る。

 が、俺と夕立ちゃん以外の人間は現状を知らない。知らないほうがいいのだが、アレを使うとなったらさすがにシラを切ることは難しくなる。

 シラを切り通す自信はあるけど。


 「えっとね、さっき新東京の本部から電話があってね。とある錬金術由来の戦略兵器を使用することになった。詳細は説明できないけど、そいつを使えばあの城型ホムンクルスを撃滅できるらしい」

 「そんなものがあったのか。だったらなんで新東京の司令部はそれを使わないんだ?」


 納得がいかないのか、朝倉がもっともなことを聞いてきた。


 「衛生の観測だと座標がズレるそうです。ので、自分たちはあの城型を指定地点まで誘導するように言われています」

 「誘導、か。撃破しろよりは楽な仕事だな」


 諦めたように朝倉が嘆息した。ご理解いただきまことに嬉しい限りだ。

 「それじゃあ、誘導地点の座標をそれぞれの端末に送る」

 ここで疑問なのが、なんでさっきからずっと俺のところにばっかり通信が入ってくるんだろ。年齢の基準で言えば、朝倉が適任のはずだ。


 そも俺の経歴は向こう側も知ってることだろう。戦果だってそんなに大したものではない。あと所属している傭兵会社もね。

 やっぱり、あの准将と夕立ちゃんかな?あの二人なんかあんのかな?

 さっき軍の回線に割り込んできたこととか。


 「えっと、ここってちょっと……」


 送信した座標を確認した静海が少しだけ言いよどむ。その座標地点はここから西に五キロ離れた樹海の外れ。開けた場所で、狙撃をするにはうってつけの場所だ。


 しかし、逆を言えば開けた場所では身を隠すことができない。誘導してすぐに新東京から戦略兵器を射たれでもしたら、たまったものではない。

 そんなことはしないというのは理解はしてるんだけどね。


 「ま、兎にも角にも作戦はこんな感じだ。司令部を信じましょうよ」


 自分でもびっくりするくらいの人任せのセリフだと思った。人に頼りきった、正に自己判断をしなくなった軍人(いくさびと)。お似合いだよね、社畜には。

 つっても……いや別にいいか。知らなくていいことは知らなくていい。

 触らぬ神に祟りなし、だ。


 「それじゃあ行動開始。今、城型はここより北に五キロの地点を飛行している。マーズ2でもなんでもいいから投げつけて注意を引く。よこされた情報じゃ城型に対地用の機能はない。好きなだけやってくれ」


 簡易的な気休めを交えつつ、改めて現状の装備を確認するべきだな。オトリの優先目標は敵に討たれては行けない、の一点に限るからな。

 俺の装備は対ホムンクルス用のスナイパーライフル(携帯型)、サバイバルナイフ、そして逃げる用の閃光弾。灯は日本刀(携帯型)オンリー。


 他二人はそれぞれ対ホムンクルス用のアサルトライフル、マーズ2八個、サバイバルナイフ、予備の弾丸無限生産マガジンが二つだ。この四人の中で一番オトリに適している。アサルトライフルの有効射程よりは八百メートルくらい。威力だって確かなものだ。


 是非是非、オトリという大役を引き受けてもらおうじゃないか?

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