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金と鋼の傭兵稼業(旧)  作者: 賀田 希道
アウター・デイ
23/30

ベアラー・オブ・モールス

 その巣を見たことがある。写真で見ただけだけど。夕立ちゃんが見せた写真のホムンクルスだ。あの傘状のホムンクルス。それが今上空を飛んでいた。


 全高推定三百メートル。羽の大きさは全長四十メートル。それが十二枚。そして傘の先端、直径二十メートルくらいの穴が空いていた。

 驚くべきことはそれだけではない。


 次に特筆すべきことそれこそがこれを巣と断定できた証拠だ。

 巣の周辺にはさっきのハチ型のホムンクルスが無数に飛んでいた。しかもレベル3なんてもんじゃあない。レベル2から初めてレベル5までの雨あられ、数は……百や二百なんてもんじゃない。三百、四百、はははははは。


 確認できたホムンクルスの個数は推定八百。そのどれもが飛行型のホムンクルスだ。

 「マズすぎるだろ……」

 心の中で思ったことが口に出されるくらいマズイ現状だ。あんなバカでかい巣に加えてアレだけの量のホムンクルス。もし、新東京を襲ったとしたら絶対に新東京は崩壊する。


 無意識にスマホに手が伸びる。


 「こちら第四班所属、室井千景。現在指定ビーコン座標周辺にいる。遠征隊を壊滅させたと思しきホムンクルスを肉眼で捉えた。衛生で捉えることはできるか?」


 程なくして向こうから声が聞こえてきた。


 『こちら新東京正規軍本部。……捉えた。反撃は……無理だな』

 声の主は諦めたようなオペレーター。向こうでも衛生から撮影した写真が映ったのだろう。それを見たらさすがに諦めたくもなる。


 過去類を見ない大量のホムンクルスの集団。いや、ベースがハチである以上軍隊に近い。レベル2は雑兵や働きアリ、レベル3は隊長、レベル4は現場指揮官、レベル5は将軍とかだったりするんだろうな。そしてあの巣、あれは女王蜂であり、あのホムンクルスたちの城だ。


 ハチというぐんたい(群体/生物)生物である以上女王蜂を倒せば、群れとしての統率を失い、討ち取りやすくなる。さっきのレベル3みたいにね。


 つっても、今の俺らであのバカでかい城を落とせるか、って言うと無理があるよな。あの城に侵入して内部からマーズ2で爆破すれば可能かもしれないけど、それをするにしたってあそこまで飛んでくだけの張力もなければ羽もない。


 「あの……都市から巡航ミサイルでアレを狙い撃つことはできなんですか?」

 『不可能……。こちらk……像……は対k……砲も確認している』

 「対空砲……?ふざけないでくださいよ。何取り込んでんですか、あの城は」


 人類の旧時代の兵器を取り込んでいるホムンクルスは多くいる。でも、目の当たりにするのは初めてだよ、バーカ。

 アレを巡航ミサイルで撃ち落とすことは不可能。だとすれば……。


 「とりあえず他班と合流します」

 『了解した』


 そこで通信が途切れた。


 「全員、他班と合流する。迅速にな」

 「ああ、それはいいとしてアレどうすんだよ」


 朝倉は戦意を喪失した人間の声をしていた。ここで合流したとしてどうなるんだ、という目をしている。

 「ここはもう撤退するしかないんじゃない?」

 静海も諦めモード。というか現実が見えていない。そもそもアレが近くにいるのに救援に来るヘリがどこにいる。

 パイロットだって来たくもないだろうな。


 「人間の足で都市まで行けないね。サバイバルスキルがあるなら別だけどね」

 「その言い方オネーさんちょっとイラってくるなー」

 「同い年って。あんた俺よりも年下だろ」

 「君何歳よ」

 「十七」

 「チッ、一歳分上か」


 てことは静海は十六歳か。いやぁ、貴重なことを知れたなー。

 じゃなくて!


 「とりあえずは合流して、救助を求めるなり、アレを撃ち落とすなりする」

 「それはいいとして、どっか近くに班とかいんの?」

 「それは今調べる」


 言うて一番近いビーコンはこっから南に三キロ先。位置的には第二班、たしか灯のいる班だ。灯のことだから班員を盾にして逃げることはするだろうが、他の班員が生きていなければ意味はない。

 他西に十二キロ先に第一班、東に九キロ先に第三班か。

 やっぱ合流するなら第二班だな。


 「こっから南に三キロ先に行くと、第二班がいる可能性がある。とりまそいつらに合流する」

 「了解した」

 朝倉の同意を受けて、ゆっくりと行動を開始した。



 行動を開始してから数十分後、時節振り返って城の位置を確認していたが、ずっと動く気配がない。幸いというべきか、こっち向かっているハチ型ホムンクルスもいなかった。無論その他のホムンクルスも。


 「なぁ、室井。このあたりだよな、第二班の活動地点って……」


 心配そうな朝倉の声が響いた。その声はとてもか細く、憔悴がにじみ出ていた。三キロ程度を歩いたくらいで疲れるような鍛え方をしてるわけでもないだろ。その筋肉は飾りかよ。

 なぁんて、冗談だよ。ストレスとかが+アルファで疲労として蓄積されてるんでしょ?これだから抗体のないトーシロは。


 「そうですね、大体このあたりです。つっても誰もいませんけど」

 それ以前にちょっとだけ火薬臭い。あと……誰かSMプレイでもやってんのか?パンパンケツ叩くみたいな音するんだけど。


 んー絶対に誰かいるよな。見えないだけで。

 「ま、とりあえず探してみますか」

 さっさと捜索して合流してしまったほうがいいしね。もとい俺が楽したいだけなんだけどね。


 ヒュッ……

 という音が俺が軽口を言った瞬間に俺の前を通り過ぎた。その直後、近くの幹にドスリという音を立てて、それなりに大きなものがぶつかった。


 それはコロコロと転がり、俺の足元に転がってきた。

 転がってきたのは巨大なハチ型ホムンクルスの頭部。大きさだけなら成人男性の胴体ぐらいだ。多分レベル4。さっきの城のホムンクルスと考えて差し支えないだろう。

 なんでそんなものがここにあんだよ。てか、どっから飛んできたんだよ、これ。


 「あれ、千景じゃん。なんでこんなとこいんの?」


 声のした方に視線を送る。声だけで予想はできるが、こりゃ思わない大吉を引いたかもな。

 「ちょっと野暮用だよ」

 視線の先にいたのは、制服や素肌に血がべっとりと染み込んだ灯だ。すでに日本刀を展開し、完全なる戦闘モードだ。しかし、体に傷がついてはいらず、返り血だけを浴びているようだった。

 後ろ茂みから歩いてきたらしい。


 「随分と濡れたな。どうしたんだよ、それ」

 「んー?ちょっとねー」


 ま、なんとなく予想はできる。普通に戦っていてこんだけ血を浴びることはない。ホムンクルスの血は銀色であって、赤ではない。つまり、この女は自分の班員を盾に使ったわけだ。良策とはいっても、普通はしないよなー。


 「で、そっちはなんで三人?」

 「班長他七名は殉職しましたー」


 にっぱり笑顔でそう告げたが、灯は興味なさそうにスルーした。そんなに興味ない?


 「あんたらも災難だったねー。とりま報告しとくと第二班はあたし以外全滅だから。みぃんな弱すぎ」

 「盾に使ったんだろ……」


 そしらぬ口調で味方をバカにする灯に、俺はボソリと批判するようにつぶやく。灯はそれを無視して、残った第四班の班員に名前を聞き始めた。

 勝手な女だよ。


 「そういや、お前の班って何に攻撃されたんだよ」


 俺は転がっているレベル4の頭部をつまみ上げながら確認をとる。よもやこれ一匹にやられたわけではないだろ。それなら灯が他の班員を盾に使うわけないしね。


 「そこに転がってんのと似たのが三十匹くらいかな、襲ってきてあたし以外全滅」

 「さいですか」


 ほんとかな、と思って灯の後ろの茂みを覗いてみる。茂みをかき分け抜けて、視界の先の光景を見てみれば、

 樹海の中にぽっかりと空いた空間があった。その場所は、


 見渡す限り死体の山だ。主な死体はホムンクルスのもの。形もおぼつかなず、ひと目で死んでいると判断できる。しかし、残る人間の死体は……酷い有様だった。

 

 まずきれいに五体満足でいる死体が一体もいない。どれも首から上がちょん切れてたり、体中の関節がおかしな方向向いていたりと、人と戦った傷ではなかった。

 中には鼻の溝に沿って真っ二つにされてるものや、ご丁寧に車裂きにされて筋肉とスジがボロ雑巾みたいになっているのもいた。言えることは多いが、人の死に方じゃないよな。


 そうそう、体の殆どを取り込まれて、引き離すために体を切断されたんだろう、ていうのもあったな。顔が終わってたよ。


 「随分派手な戦闘してたんだな」

 「二、三分くらい前までね」


 茂みを抜けてきた灯が補足説明を加えた。だとすりゃ俺が聞いたSMプレイのパンパンはやっぱ銃声か。いやぁーもうちょっと気づくのが早ければ助けられたんだけどなー、もう二人くらい。


 『……おい!聞こえるか!第四班!』


 何の前兆もなく、スマホからさっきのオペレーターさんの興奮した声が漏れ出てきた。つか、声でけーよ。これ以上ホムンクルスが来たら死ぬよ、絶対。


 「はいなんですか?」

 『現在貴君らの座標位置に向かって、城型のホムンクルスが移動している!早く離脱しろ!』


 マジかよ。

 「聞いたとおりだ。とりあえず、身ぃ隠してくれ」

 という前に俺以外の全員の姿が消えていた。

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