デイ・ライト・ブレイク・イズ・オーバー・サドゥンリー
野菜を使った炒めものを考え始めると、色々浮かんできた。野菜チャーハンとか。
しかし、そんなことを考えている場合ではないのだ。二日後には死地に突入する羽目になる。そこから生きて帰ってくるのは全体の二十パーセント。遠征任務においての適正人数は最大で五十人弱。それ以上は生存率を飛躍的に低くする。
大多数で遠征に出れば安全じゃないか、ホムンクルスを多く倒せるじゃないか、という意見もあるが、それは大いなる間違いというものだ。
大勢での行軍になれば進行速度は遅くなる。その分だけ余分な荷物も増える。何よりも少数ならば情報の伝達は早い。一人だけ聴き逃してるなんてことも起きにくい。大勢では返って情報伝達のミスを増やす要因になりかねない。
これらの要因が怒らないギリギリのセーフナンバーが五十人弱というシビアな数字だ。無論それでも死ぬやつはいる。今回探しに行く正規兵の連中みたいにね。
それを哀れと呼ぶか、馬鹿め、と呼ぶかは別の話だが、探しに行く方の身にもなってくれとは言いたくなる。なんでミスった連中の遺品なんぞ探しに行かなぁならんのか。
理由はわかる。遺族だ。
遺族からすれば、「遠征任務中に行方不明になりました」という簡素な報告では納得がいかない。本当に行方不明になったのか、なんで行方不明になったのか、という嘆きが脳みそ内を闊歩するからっだ。それの説明責任を果たすために、二次遠征を行う。つまりは俺たちだ。
しかし、全滅、という結果はそうそう聞かない。最低でも二人や三人は足の一本、手の二、三本なくして戻ってくるものだ。そうやって戻ってきた連中の話を聞いて、報告書だったりは作成される。
夕立ちゃんの話では今回の遠征任務に投入された人員は、正規軍の特殊部隊に所属している兵士が十五名、ベテラン正規兵が十五名の計三十名が投入されたらしい。
いずれも何十回もホムンクルスと対峙してきた猛者だ。その連中が全滅というのはさすがに笑えたものじゃあない。何せこと特殊部隊に所属している正規兵の実力は多分、灯以上だ。
ベテラン正規兵だって似たようなものだ。
くわばらくわばら。
いつだって、人類の一歩先をホムンクルスが行っているわけか。なんか惨めだなー。惨めついでにベッドに仰向けに横たわる。
「遠征隊を全滅させたのが、あの傘上のホムンクルス。じゃ、なんでここに来ないんだろうな?」
「どゆ意味?」
野菜炒めを食い終わった灯が俺の言葉に反応する。
「ホムンクルスって、人間を喰うだろ?この都市にはたくさんの食料がある。なのになんで来ないんだろ?」
「人が多すぎて逆に怖い、とか?人が多いと外とか出たくないじゃん?」
あーそれわかるなー。なんか例えがリアルだわー。俺も人の多い場所とか行きたくねー。
じゃなくて!
「でもホムンクルスにとってそりゃ逆だろ。連中は人の多いとこに集まる。防壁に群がってる連中みたいにな」
俺にあっさりと返されて、灯は黙ってしまう。角度的に灯の顔が見れないのが残念だ。
話を戻そう。
灯の言っていたことはけっこう的を射ていた。アレは普通のホムンクルスとは別種ということだ。それならば答えはひとつ。
レベル6以外にありえない。
ま、けっこう前から気づいてたけどね。だとしたらあの討伐報酬にも頷ける、というものだ。レベル6のホムンクルスの死体とかは高価だし、政府の研究施設とかに売ればさらに金は増える。
正に一狩りで億万長者!モンスターを狩って、金持ちになる世界は存在するのでした。良かったね、旧時代のB社さん、もう潰れてるけど。
などともう存在していない会社に賛辞を送りつつ、思考を正常に戻す。
明後日が絶対に来るな!、と心の中で太陽が西から登ってくるのが、夜で月が太陽と同時に存在するのが夜レベルに無理なことを祈った。
祈ってから三時間が経過した。窓の外はもう暗く、数光年先の星が一瞥できるほどだった。もしもの過程として人類がこの星を捨てて、別の星に移住するのならあの星がいい。
多分それなりに素晴らしい星のはずだ。
星は大抵白いが、あの星は輪をかけて白い。ひょっとしたら恒星かもしれない。だとしたら一瞬で燃えて尽きるだろうな。
つい一時間前に灯は、飽きたから帰る、と言って帰っていった。
彼女が消えると、途端に部屋が静かに感じる。それだけいつもアレがうるさかったり、煙たかったりする証拠だろう。アレも多少は俺の人生に貢献しているのか。
だからといって、アレの評価は改めない。普段からさんざんな目に合わされてるんだ。逆にここで好意をもつことのほうがおかしい。
よく本当に嫌いなら心にも思わない、と言うが、あれ嘘だろ。少なくとも俺には当てはまらない。恨んで恨んでいつから恨んでたのか、分からないレベルだ。大体心に思わないなら、六条御息所とか成立しないからね。
今俺がもっとも恨んでる人間がいるとすればそれは夕立ちゃんだな。あのちびっこ社長にはいつか地獄以上の苦痛と陵辱を味わってもらうとして、その後はどうしよう。
ああそうだ。鎖で縛って壁の外にでも投げてやろう。ホムンクルスのエサにするんだ。あのブラック社長にはさぞかし似合いの姿だ。
鎖で縛られているからホムンクルスに襲われても這って逃げることしかできないわけだし、俺はコーヒー片手に笑ってみてられる。ワーイワーイ。
なはずだ……。
つまるところ今俺は怖いんだろうな。こんなどーでもいいことを脳内で考えるんだから。何が怖いのか、問われればそれは死ぬことだ。死ぬのは誰だって怖いというが、この場合はその怖いではない。
どちらかといえば好奇心とかに類似するものだ。好奇心が怖いというのもおかしな話だが、事実だ。衝動として止まることがなく、ただただ自信の死を求める、と言い換えてもいい。
いや、言っても仕方のないことだな。俺詩人とかじゃないから、いい言葉なんて見つかんないし。
そもそももうすぐ死にに行く人間がなんか難しいことを考えたところで、なんだかなーだしね。という逃げ腰のセリフを吐く。
そして二日があっという間に過ぎた。
捜索隊である俺たちが集めらたのは、新東京北部の防壁駐屯所だ。連日バカみたいな騒音鳴らしていることで有名なこの場所が今日に限っては異様に静かだった。
俺と灯を含めて今回傭兵として参加するのは二十名。その他二十名が正規軍で固められている。ほとんどの傭兵は『フィフス・エイトム』の社員だからここにいるのもそうなのだろう。だからか、連中の手にある武装が無茶苦茶高価に見えた。
対して正規兵の面々は予想に反して軽武装の連中が多かった。かく言う俺とか灯も私服(制服姿)なんだけどね。
対ホムンクルス戦闘において重武装は愚策だ。素早さを活かしてチクチク攻撃していった方が効率的だ。とは言っても、筋肉隆々のキン肉マンはバカでかい戦闘ヘリ用の重機関銃を引っさげていくんだけどね。
ま、それは置くとして……。
「会議室一つに四十人を押し込むってのは如何なものだろうか」
現在俺たちがある種押し込められている会議室は3LDKのちっこい部屋だ。予め用意されていた椅子はすべて埋まり、あとから来た俺たちは立たされる羽目にあっていた。それがかれこれ二十分。
会社の社長同士の会談じゃないんだよ。
「なんも情報とか与えられないよねー」
隣にいた灯がスマホを弄くりながらつぶやいた。ものすごくつまらなそうにスマホを操作していたから、多分ポチポチ掲示板見てるだけなんだろうなー。
「失礼する」
会議室のドアが勢いよく開き、高級士官クラスの軍服を着た正規兵が入ってきた。階級章を見る限りは准将。整えられた灰色の髭に、少しだけ白髪が混じった柔和な顔の男だ。軍人というよりかは親戚のお爺さんという印象がある。
「遅れてすまない。正規軍准将の室井伊豆留だ。本作戦の指揮官として着任した」
名前を聞いて驚いた。自分と同性の相手に会うのは初めてだ。多分赤の他人で血縁関係はないだろうけど、妙な偶然っていうのものだな。
「まずは今作戦における作戦班を発表する。
第一班、班長……」
そこから一班分十人の計四班の編成を長々と室井准将閣下は読み上げた。俺は第四班だった。ちなみになんの因果か灯と別々の班になった。
別に班員なんてどーでもいいじゃん。必要かもだけど、基本的に都市外じゃあチームワークなんて意味をなさないんだからさー。
「以上が諸君らの所属する班である。忘れないように。
ではこれより本題に入る」
室井准将閣下がそう占めると、部屋が暗くなり、会議室のスクリーンに映像が映った。映ったのは都市周辺の地図。しかも東部一帯だ。旧日本国の地図に当てはめると、千葉辺りに属している。
地図上に数か所ビーコンがあることから、捜索地点がそこであることはなんとなくわかった。ついでをいえば正体不明のホムンクルスもその辺りにいることになる。
「この地図を見てもわかるとおり、このビーコンが配置されている四つの地点を諸君らに捜索してもらう。範囲は広いが、こちらからもできるだけ支援はするつもりだ。
なお、捜索地域までは大型輸送ヘリを使用する。降下ポイントにつき次第、各自ヘリより降下。自身の班と合流し、捜索を開始する。以上が本作戦の概要だ。質問はあるか?」
質問はあるか、と問われて、ないです、と応えるのが日本人としての対応だ。それで後になって、なんで聞かなかったんだー、とか言われるんだよ。そうならないために誰か質問してー。
誰も質問しなかった。
個人的には誰か質問することを望んでたんだけどね。
「質問はないようだな。では各自に衛星通信可能な携帯端末を渡す。名前を呼ばれたものは前に取りに来るように」
室井准将閣下が口を占めるのと同時、会議室の扉が開き、ワゴン車に大量のスマホを乗せた正規兵が入ってきた。同時に室井准将閣下が各班の班長を筆頭に名前を呼び始めた。
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