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金と鋼の傭兵稼業(旧)  作者: 賀田 希道
新東京東部防壁防衛戦
18/30

デイ・ライト・ブレイク②

 俺がそう思ってることなんて、ぜぇーたいに知らない灯は嬉しそうにねぎまを頬張っている。その表情はとても幸せそうだが、俺は全然幸せじゃない。


 腹に入れられたものと言えばカロリーゼロの炭酸水のみ。そんなものは腹にはたまらないし、虚しいだけだ。昼飯じゃなくて冷や飯食ってる気分だ。


 「すいませーん。──辛子ごぼう下さい」


 灯がねぎまを頬張るのに夢中になっている間に追加注文をする。辛子ごぼうなら早々と出てくるし、灯は絶対に喜ばない。だって灯は野菜嫌いなのはすきやきした時のアレで知ってるし。

 ごぼうみたいな根菜類は日持ちがするし、保存食としても有用だ。それゆえに生産量も多い。だからこそ安価で市場におろされる。


 程なくして辛子ごぼうが運ばれてきた。煮たごぼうに辛子をまぶしただけの料理だから早く仕上がる。正につまみにはピッタリの一品だ。それに美味しいしね。


 ごぼうを一切れ口に入れる。舌先にごぼうが触れた途端ピリッとした辛子の辛味とごぼう本来のコクのある味が脳髄に駆けた。ついでを言えばようやくまともなものが食えた、という喜びも同時に湧いた。あー生きてるって幸せ。


 「何それ?」


 ねぎまを食い終わったのか、灯が興味のなさそうな声で俺に聞いてきた。俺は一旦食うのを中断して応える。


 「辛子ごぼう」

 「じじくさー」


 かなり心にグサッとくる言葉だった。確かにジジ臭い料理かもしれないけど、美味しけりゃいいじゃん。見た目なんてどうでもいいじゃん。別に見た目なんて味と直結しないんだからさ。


 例えば見た目が無茶苦茶美味しそうでも、中身がゲロマズなんて料理はいくらでもある。いわゆる料理美味しそうに見えて、実は美味しくありませんでした詐欺だ。

 そういう意味ではこの料理は正に対極!どうだ、灯!


 「ま、あたしは食わないからカンケーないけどね」

 「ああそうですか」


 俺はテキトーな返しをして残った辛子ごぼうを食い終わった。食い終わってみると、量が少なかったのであまり腹にたまらないことを知った。食ってる間はあまり気が付かないものなのだな。


 そう感じると、追加注文をしたいな、などと思ってしまうがそれはしないのが正解だ。灯のような高収入傭兵と違って俺はビンボー傭兵だ。いま財布には新造された一万円札である菅原道真が一人と、千円札である重光葵が三人入ってるだけだ。学生証とかカードとかも一応入ってはいるが、この店は店長の威光でカード禁止だ。


 枝豆、炭酸水×2、ねぎまのタレ六本、辛子ごぼう、総計四千六百円。やっぱりねぎまがかなり響いている。財布には優しくはない品だ。本来なら俺も食えたはずなんだよなー。そこのバカのせいで。


 「会計お願いしまーす」


 ため息をつきつつ、店員さんを呼ぶ。ちゃっちゃと会計を済ませてここから出てしまおう。でないと灯が余計な注文をしかねない。


 社内で一番灯の扱いに優れている俺はサッと会計を済ませて居酒屋から出た。

 居酒屋から出た時刻は十二時五七分。あと三分で十三時だ。今日は平日、つまりは学校がやってる日だ。


 俺の会社から市立新東京第三高等学校はそれなりに近い。新東京東部の中心区にあるため、比較的安全な高校だと言える。在籍している生徒の数は千と三百余。高校自体が少ないため、東部にいる学生のほとんどが一緒くたになっている。


 この時刻から学校に行ったとして、昼飯時だ。遅刻とか言うレベルではもうない。昼頃に学校来ました、とか昭和時代の不良かよ。


 これでも中学二年生まではちゃんと学校に通っていたのだ。それがいつの間にやら、不登校児。学校側は俺が傭兵だから、という理由で出席日数とかは免除しくれてはいるけど、さすがに立て続きの不登校は問題だよな、失礼にも当たるし。


 「俺学校いくわ」

 「珍しーじゃん」


 灯はさほど驚いていない様子で平然と応える。ま、そりゃ珍しいでしょうけどね。

 「お前も行くか?久々にクラスメートの顔とかみたいだろ?」

 「何言ってんの会いたいわけ無いじゃんほんと何言ってんの」


 滅茶苦茶反論された。そんなに学校行きたくないのかよ。


 「でも、たしかにそだね。久々に行くか」

 「なんで?」

 「なんとなく?」

 あ、そすか。



 うちの学校の門構えはそれなりに立派である。仮にも市立校。門構えでけでも立派にしたいのだろう。その考えは理解できなくはないけれど、予算の無駄じゃね?


 校門を過ぎると、守衛のおっさんが怪訝そうな視線を俺と灯に向ける。昼間になってようやく、しかもバッグも何も持たずに来る不良生徒になら当然のような視線だ。

 別段それを気にすることなく、俺と灯はそれぞれの教室に入る。


 教室の中は昼間ということも相まって、思いの外閑散としていた。数人の生徒が机をつなげて昼食を食っているだけだ。


 最初そいつらは俺が教室に入ってきたのを見て、驚いたような顔をした。理由はなんとなくわかるが、どうでもいい。どうせ大した理由じゃないし。

 俺は自分の席に座り、顔を机に埋めて狸寝入りを始める。学校に来たらそれ以外することはないだろう。ここで俺が話しかけても、煙たがられるだけだしね。


 別に寝ることとかなら寮でもできるけど、寮に帰ったら管理人さんになんかグチグチ言われる気がするので廃案。会社は……これ以上面倒を増やしたくないので廃案。


 結論からしてここで寝るしかないのだ。昼休みが終わるまでの残り十分間の間にできるだけ寝よう。で、昼休み終了と同時に帰宅するのだ。

 正にパーフェクトプラーン!

 

 ……のはずだった。

 狸寝入りをしてすぐのことだ。なんか見覚えのある男子高校生四人に囲まれた。


 「おい、室井よぉ。なんで遅れて来てやがるんだよ」

 「しかもバッグも持たずとはいい度胸だな」

 「やる気がねーなら、帰っちまえよ」


 声にも聞き覚えがある。でもなぁんか思い出せないんだよなぁ。


 「あんたら誰?」

 ストレートな質問は実にシンプルに相手の耳に届く。こうやって丁寧に名前を聞けば、快く彼らだって答えてくれるはずだ。


 「お前、それ本気で言ってんのか?」

 「自分をボコったやつの顔忘れんなよ」


 俺をボコった?

 ああ、そうでしたそうでした。思い出しましたよ、明確に。

 「ああ、あんたら似非(えせ)反政府主義者か」

 なんの悪意もなく、そう言ってやった。それが引き金になったのか、それとも忘れられていたのが心外だったのか、連中はそれこそ鬼のような形相になった。


 「おい、室井よぉ、喧嘩売ってんの?」

 「ぜーんぜん。そもそも四対一で勝てるわけないじゃん」

 「だったらボコられても文句ねーよなぁ」

 「そうそう、勝てないならおとなしくなぶられろよ」


 言動それ自体がまるで不良。むしろ俺よりもこいつらの方が不良なんじゃね?俺は確かに不登校児だけど、別に暴力とかはふらないしね。エネルギーの無駄だから。


 「おい、聞いてんのか!」

 リーダ格っぽい男がつばを飛ばさんとする勢いで怒鳴り散らす。ものすごくうっさい。


 こりゃ、殴られるしかないか。これから俺は人気がない校舎裏とかに連れ込まれて顔の皮が剥がれるくらい殴られるんだろうなぁ。


 てか、なんで俺殴られなきゃいけないの?そもそもなんで俺に絡んできたの。こいつら俺のこと好きなの?

 なぁんてことを妄想している間に連中は俺を椅子から立たせて、教室から連れ出そうとしていた。ガタイはそれほど良くないまでも、男四人に殴られるのだから痛いのだろう。実際にこの前も痛かった。しかも今回は胃に食いもんが入った状態だから、腹パンは回避しないとな。逆流したらたまったもんじゃない。


 教室を出て、廊下を歩かされる。男四人にまとわりつかれて廊下を歩くとか、ホモと間違われるじゃん。あ、ひょっとして昔のドラマとかで見る偉い人のまわりを男の人が囲んでるのって、全部アレホモなの?うわー知りたくねー真実だなー。


 「なぁ、室井。お前の電話番号よこしな」

 「なんで?」

 「んなもん、気に入らねーときにお前を呼び出してサンドバッグにするためだよ」


 そんな電話誰が出るんだよ。誰も出ねーよ、絶対に。出るとしたらメガネをかけた0点あやとり小僧くらいなもんだよ、リアルジャイアン。


 「あ……」

 「ん?」


 縁とはえとして奇なるもので、偶然の一言で片付けられるものだ。とどのつまり、俺の眼前に灯が帰ろうとしている途中だった。なんでそれがわかるのかと言えば、授業開始一分前で廊下をほっつき歩いているバカは不良か、帰宅生くらいしかいないからだ。


 「何やってんの、千景」

 見てわかるとは思うが、灯は状況の説明を求めてきた。

 「あー、イジメられてる?」

 「ふーん、そ。じゃ」


 じゃ、じゃねーよ!そこは助けろよ。そこは助けてくれるのがベタな展開アンド強い女ってもんでしょ!強い女は俺みたいな弱者を助けてくれるのが常識ってもんでしょ!

 「ま、こんくらいくれるなら助けてあげてもいいけどね」

 そう言って、灯は指をピースの形にしてみせた。


 「二千円?」

 「桁がプラスひとつ」


 てことは二万か。カードから下ろせば払えなくはないな。しかし、生活費を考えると、さすがに考えるべきところだ。高校生に二万は高いよ、二万は。


 「反応がないってことは無理ってこと?じゃ」

 「わかったよ、払いますよ」


 過ぎ去ろうとする灯の二の腕を捕まえて、俺はボソリと応える。灯はその返答をいたく気に入ったようで、純真そうな笑みを浮かべた。


 「まいどー。ちなみに報酬は先払いねー」

 「今の俺が財布から金が出せると思うか?」


 あいにくと、両手が塞がっている。俺はカエルとかじゃないので、舌を伸ばしてポケットの財布をとるのも不可能だ。


 「そだねー。じゃあ一回そいつらから出して上げる」


 そう言って、灯は俺の胸ぐらを掴んで、無理やり俺を引っ張り出した。急のことだったので、連中の力が緩んでいたのも幸いした。案外あっさりと引っ張り出された。

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