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金と鋼の傭兵稼業(旧)  作者: 賀田 希道
新東京東部防壁防衛戦
14/30

ナイト・イベント②

 でもちょっとまずいな。

 今、自称ジャーナリスト三人を正規兵が六人がかりで取り押さえ終わったところだ。そしてその様子はカメラに収められてしまった。正規兵が()()()ジャーナリスト三人を強制的に基地から退去させた、という絵が無数のカメラに収録されたのだ。


 ジャーナリスト側からすれば、別に悪意はない。ただ自分の信念に準じただけだ。政府の軍事組織である正規軍にただ取材を行っただけ。それなのに、強制的に退去された、などとあれば彼ら的には横暴だ、と思うだろう。


 そもそも不法侵入している、などという前提条件が頭から欠落している。都合の悪いことはさっさと忘れる、それが人間だ。だから都合のいいことしか聞かないし、目に映さない。

 で、明日朝刊を開いてみれば、正規兵の横暴をまじまじと語る記事が貼られてるのだろう。それを信じる人間は少ないだろうが、信じてしまう人間はいる。


 塵も積もれば山となる。ちょっとずつ政府の痛いとこを突くことで、いつしか都市統括政府が崩れ去るのだ。


 「なぁ、そこ兵卒」

 「はい?え……あ……はい!なんでしょうか」


 証明書を見せると、俺に指さされた兵卒は敬礼をして、うやうやしい態度になった。そりゃ高校生に生意気な態度とられたらちょっとカチンとくるよね。でもその代わり身の速さすごいと思うなー。


 「そこのジャーナリストの一人と話したんだけど、いい?」

 「え、可能でしょうが……いんですか?」


 兵卒君はちょっとだけ困ったような顔をした。

 確かにジャーナリストとの会話なんて組織の人間からすれば、毒にしかならない。確実に話した内容は公表されるし、組織の内情を少なからず知られてしまう。


 でも、俺にとっちゃ知ったことじゃない。そもそも軍籍を持ってるだけの平凡な傭兵だ。いくらジャーナリストにけなされようが知ったことか。


 「いい。さっさと連れてきて」

 「わかりました」


 そう言って、兵卒君は連れ出されようとしているジャーナリスト三人を呼び止めに行った。

 ほどなくして三人は拘束されたまま、俺の前に引っ立てられた。江戸時代の罪人みたいだった。イタリア人とかだったら、ここでムッソリーニ首相を市中引き回しとかしちゃうんだよねー。


 し・な・い・け・ど。

 とりあえず、ジャーナリスト三人を俺のテントに招き入れることにした。別にその辺の地べたでもいんだけど、余計な情報は与えたくないので、自室だ。


 俺の部屋に手錠付きで連れ込まれたジャーナリスト三人は右から、オールバックにしたヤンキー系ジャーナリスト、メガネジャーナリスト、そして骨ばった顔つきの幽霊みたいなジャーナリストだ。

 けっこう個性的だな、と思った。メガネ以外は。


 「えっと……皆さんの取材を受けることになりました、三等陸尉の室井千景です」


 言葉が思い浮かばなかったので、とりあえず自己紹介をした。続いてジャーナリスト三人組が自己紹介をしたけど、すぐに忘れた。以後、ヤンキージャーナリスト、メガネジャーナリスト、幽霊ジャーナリストと呼称する。そのほうが楽だし。


 「とりあえず、大抵のことはお答えします。でも、軍の機密に関わるような質問はご遠慮いただきたい。あと記事にするなら、俺の名前は伏せて下さい。ああ、それと質問は一人二つです。俺も寝ないと体力が保たないんで」


 三人はこくりと頷いた。

 「では、質問をどうぞ」

 「それじゃあ、自分から……」


 最初に手を上げたのはメガネジャーナリストだった。


 「えっと……失礼かもしれないですが、三尉殿はおいくつですか?」

 「今年で十七ですね。訓練と士官過程さえ受ければ未成年でも軍籍を取得できるんですよ?」

 「それは知っています。見るのが初めてだったもので……」


 失礼しました、とメガネジャーナリストは付け加えた。失礼だなぁ、もう。


 「本題に移らせてもらいます。単刀直入にお聞きします、現状の東防壁はどれくらい保ちますか?」


 確信をついた質問だった。ここで答えなかったら、軍は状況の判断ができていない、と捉えられてしまう。ていうかさっきの失礼な話は前置きかよ。ほんと失礼な奴だなぁ。


 「そうですね、現行戦力では五分五分といったところです。まさに一進一退。

 とはいえ、まだ壁上には登られていません。ですので、市民の皆さんは安心して夜を過ごしてくださいね」


 俺は笑顔で応える。三等陸尉ほどの人間が笑顔で安全ですよ、などと口にすれば少しは安心感、というものがわく。前線を知らない政府秘書官が安心ですよ、と口にするのではわけが違う。

 今日ほど軍籍を持っておいてよかった、と思ったことはなかった。


 「それは素晴らしいですね。それは三尉殿の戦況判断ですか?」

 「いえ、この東防壁の司令部一同の見解です。現場を知らない会議室のオジサンの安全、よりもこっちの安全、の方が安心感があるでしょう?」

 「それは確かに……」


 メガネジャーナリストが押し黙ったところで、今度は誰が質問するのかなー、と残り二人に視線を向ける。先に質問を提示したのはヤンキージャーナリストだった。


 「次は自分が質問させていただきます。三尉殿、先程傭兵の方々が喧嘩をしていたように見えましたが、あれに関してはどうお考えですか?」


 質問としては間違ってはいない。さっきの傭兵同士の喧嘩は全国放送されちゃったわけだし、そのことに対して何らかの釈明とか説明とかは傭兵団の方からされると思う。

 この場合は傭兵団の釈明、説明に先んじて軍関係者からコメントをもらいたい、というところだろう。


 「そのことに関しては現状、コメントすることはできません。軽率な発言をして、バッシングされたらたまらないので」

 「そうですか……では別の質問をさせていただきます。えー、三尉殿は傭兵制度についてどのようにお考えになっていますか?」


 あー、そうきたか。傭兵同士の喧嘩どうこうではなく、制度そのものはどうこう、と。これは答えないと、何書かれるかわからないな。何も、とかコメントしたら、「正規軍は傭兵制度に対してなんら考えがない」とかいう記事を書かれかねない。


 「そもそも傭兵制度とは、正規軍が設立して間もないひよっこ組織のときに作られた制度です。一から戦闘訓練を積ませる必要のある正規兵と違って、傭兵はそういったものを必要としません。


 突撃兵、と聞こえるかもしれませんが、戦闘経験とか身体能力に優れている人間を組織で飼い殺しにするのは得策ではない、という政府の考えです。組織というのはかなり居心地が悪いものだからです。


 傭兵には元犯罪者や精神異常者が多い、と世間では見られがちですが、それは大きな間違いで、そういった人も中にはいますが、七十パーセントくらいは一般人です。

 結論を言わせて貰えば、俺個人は傭兵制度に対して廃止すべきだ、とは思いません」


 ふむ、と吐息を漏らしてヤンキージャーナリストは今俺が口にしたことのメモを取る。最後に幽霊ジャーナリストは一体何を質問するのかな、と視線を向けた。


 「私からは一つ質問させていただきます。三尉殿は傭兵制度に賛成、という立場をとっていますが、一般人はどうでしょう。先程の喧嘩をとっても傭兵に秩序がないのでは?やはり傭兵も正規軍の枠組みに入れるべきではないでしょうか?」


 幽霊ジャーナリストはその見た目に反して饒舌だった。それについても驚いたが、何よりこの男が反政府主義者っぽい質問をしたことが驚いた。えとしてジャーナリストは反政府主義者に依るものがあるけれど、身近にいるのといないのでは印象が違う。

 つか、質問2つしてんじゃん、結局。


 「さっき駐屯所の外で集会を開いていた人と言っていることが似ている、という余談は置いておいて、それはどうなんでしょうね。傭兵制度に対して反対、という人は多いです。

 ですが、それは些細な問題だと俺は考えています」

 「何故ですか?」


 幽霊ジャーナリストの瞳が少しだけ揺れた気がした。まさか些細な問題と軍人が言うなんて思わなかったんだろう。お生憎様、俺は正規の軍人じゃないからねー。


 「まず傭兵制度の復習から初めます。傭兵制度第二十三項に「正規軍より救援要請を受諾した場合、傭兵資格保持者は指定地区に急行する義務が生じる」という文があります。また、第二十七項には「傭兵資格保持者が民間人に害意、または心理的ストレスなどを与えた場合、資格の剥奪、最低十年の懲役を命ずる」という文もあります。


 これは傭兵を縛る制度であり、これを遵守している傭兵は多い。せっかく手に入れた銃なり剣なりを取られちゃたまったもんじゃない、という意識があるからですね。


 ですから実質として傭兵は正規軍の枠組みにある、と言っていいと思います。逆にこれ以上の過度な規制は傭兵たちの反感を買う恐れがあるのでしません」


 なんか超絶悔しそうに幽霊ジャーナリストが歯ぎしりをしていた。よもや下位士官である山東陸尉風情が傭兵制度について熟知しているとは思わなかったらしい。

 そもそも傭兵資格を取るに当たって、これくらいは知っていないと実技試験で落ちちまう。俺は実技がからっきしだからねー。


 「以上で取材を終了させていただきます。くれぐれも俺の名前は出さないようにお願いしますよ」


 最後に半ば強制的に締めくくって、ジャーナリスト三人組を柵の外に放り出した。無論強制的に。よっしゃこれで寝れる。


 バンザイ睡眠、バンザイ俺。そう心の中で俺自身を賞賛して俺はベッドに潜った。

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