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金と鋼の傭兵稼業(旧)  作者: 賀田 希道
新東京東部防壁防衛戦
10/30

休憩時間は一時間。

 そこから先は力対力のぶつかり合いになった。

 迫りくる眼下のホムンクルスめがけて百ミリ砲が火を吹く。ただの迫撃砲ではない。破壊力のみを追求した距離無視の至近砲撃用迫撃砲だ。あえて言おう、マジで飛距離はゴミカスだ。


 それの援護射撃とばかりに銃を持ってるグループ──つまり俺とか傭兵さんね──が銃弾を浴びせる。ただし、こちらは効果が微弱だ。

 そもそも金属生物であるホムンクルスに銃弾は効きにくい。溶解させたりするのと違って、基本は相手を興奮させる痛みを与えるだけだからだ。


 だから銃を使って、ホムンクルスを殺す場合はちゃんと急所を狙わないといけない。しかし、それを正規兵の連中はまるで理解していない。傭兵団の方が腕はマシなぐらいだ。

 こんなに近くにいるのになんで脳天射てないの?たった三十メートルだよ?節穴なの、死ぬの?


 「ギャッ……!」


 断末魔も途中で誰かの頭が貫かれた。貫いたのは全長1メートルばかりの長い棒。先端が尖っており、投槍の槍に似ていた。

 下から射たれたのか。そう思って、眼下を目を凝らして見る。


 うごめくのは無数のホムンクルス。色も雑多でモザイクモザイク。目が疲れる。特定のホムンクルス探すのは無理だ。

 こうなったら、誰かまた狙撃されるのを待つか、と思って俺はルーチンワークに戻る。バン、バンと絶えず銃声が鳴り響く戦場にカムバックだ。



 一時間ほど引き金を引いていると、交代を知らせに来た傭兵と交代することになった。さすがにずっと引き金を引き続けろ、とは正規軍指揮官も言わない。適度に休みをとらせて別の部隊と交代をさせるのだ。

 なんて超ホワイト企業!指揮官はどこだろう。キスしてあげなきゃ。チュッチュッ。


 社員に休みを取らせてくれるなんて、うちのブラック社長とは大違い。オーケー、あの指揮官に誘われたらあの人の部下になっちゃおう。そして思う存分ホワイト企業を満喫してやる。


 休憩所は簡易的なもので、防壁の下の駐屯所に小さなテントが幾つか張られているだけだった。加えて中はひどく不衛生だ。いろんなところにガムは捨ててあるは、腐臭は酷いは、タバコ臭いは、散々な場所だ。

 だからすぐにそのテントから出て、外の空気を吸ったのは言うまでもない。外とて傭兵や正規兵はたむろしている。ただし、喫煙をしない部類の人間だ。


 「いやぁー、大変そうだねぇ」


 気の抜けた声で灯が話しかけてきた。こいつは壁上にホムンクルスが登ってきた時用の予備兵力だ。だから基本的には戦闘に参加しない。参加しないというより、参加すんのがめんどくさいとかの方が表現としては正しいかもしれない。


 「そう思うならお前も手伝え。どうせ暇だろ」

 「あたしは予備兵力だからねー」


 正論だけど、言い方がムカつく。こいつをロープで縛って、釣り餌よろしく釣りでもしてやろうか。そうすりゃこいつは消えて俺はハッピー、ついでにホムンクルスもハッピー。わー、一石二鳥!


 「それにしたって、対応悪くない?これいつまでもつの?」

 「あー、あと二、三時間くらいかなぁ。弾が無限にあっても兵士の体力は無限じゃないからね」

 「うわ、あんたが長く話すとかキモ」


 理不尽だろそれ。お前が聞いてきたんだろ。それとも何?時間だけ言えばよかったの?それくらいわかってるってことですか。舐めんなよ、この暇人。


 「グェ」

 「ピョ」


 唐突におかしな悲鳴が二つ聞こえた。うん、また誰か死んだか。ピェはねーだろ、ピェは。どんだけ油断してたんだよ。しかも、防壁の下まで届くなんてな。


 壁上は恐らく白熱しているだろう。なにせ東部では例にないホムンクルスの群れの襲撃だ。それが原因か、駐屯所の外にはマスコミ、野次馬色々と防壁を見上げている。

 普段なら近づきもしないくせに、こういうときだけは胆力のある連中だ。それと、一般人に混じって反政府主義者も何人かいる。こういうのって、連中にとっては格好の獲物なんだろうなぁ。


 ちょっと正規兵とか傭兵がミスったくらいで彼らに軍を任せるべきではない、とか怒鳴ってくるんだからこっちはたまったものではない。それに民間企業である傭兵に頼るのは都市の威信に関わる、とも言ってくるだろう。


 それで徴兵制を実施、とかいう方向に世論を誘導して、ハイ軍事都市の出来上がり。うん、冗談じゃない。連中の言ってることは半分理解できるが、スイスとかイスラエルじゃあるまいし、国民全員軍隊とか終わってんだろ。

 まあ、その二つの国ももうないけどね。


 「援軍とか来てんのかな」

 ポツリと灯がつぶやいた。

 「うん?あー、来ないだろ」

 俺はそっけなく応える。俺の応えに灯は一瞬目を白黒させたが、


 「は?」

 と真顔で反応した。


 「何それありえないでしょ。ほんと何それ」

 「それそれ、ほんとそれ。でも事実なんだよ」

 「なんでわかんの?」

 「基本的にここにある兵器で迎撃はできるからな。練度は考えられてないの」


 実際に事実だからな、これ。それにホムンクルスがいくら来たって、なんとかできるだろう、とか思われてんだよな。


 「それで門を破壊されたらどうすんの?」

 「都市の防衛線を縮めるだけ」

 「あー、そ」


 都市の防衛線を縮める。言うは易し、行うは難しだ。それは容易な作業ではない。

 まず、最低でも十メートルの壁を防衛線建設予定地まで作る必要がある。錬金術という過度な力があるとはいえ、資源は有限だ。一個の防壁を作るのに神社の鐘が三十個は必要になる。


 それを数十と建設作業のために作る。資源と同じように錬金術が使える技術者も少ない。小防壁建設完了でも三日はかかるはずだ。

 その間に攻めてくるホムンクルスを正規軍、傭兵団が食い止める必要がある。壁という拠点がない以上、逃げることができないし、有利な戦闘もできない。白兵戦になるから、防衛戦とは全く別の戦闘になる。

 ただ上から引き金を引いていればいい、という観念が崩れるのだ。


 そして骨組みなどなどの経緯を経て、おおよそ十五日もあれば新しい防壁が完成する。高さ三十メートルもの防壁は一人の錬金術の技術者が作れる代物ではない。三十メートルの鋼の壁を作るのに、最低でも五人は技術者が必要だ。


 それを大体三十キロに渡って建設する。他の防壁とも繋げないといけないので、更に時間がかかる。防壁完成にかかる時間と繋げるのにかかる時間を加味すれば、大体二十日くらいだろうか。それくらいあれば満を持して防壁の完成と言える。

 その間に死ぬ正規兵、傭兵団の穴埋めがあれば文句はないのだが。


 「防衛線をちじめてもねー」

 「人間は住む場所が減るねー」

 「それそれ」


 珍しく灯が俺の意見に同意を示した。新鮮だなー。

 「兎にも角にもここで食い止めなやそうなるだけだ」

 「気をつけてね~」


 灯はまるで他人事のような感じだった。そりゃこいつくらい強くなればそう言えるのかもしれないけどさ。

 そうではない人間は可愛そうだな。ああ、本当に可愛そうだ。アイ・リアリー・スィンク・ライク・ザッツ。

 オー・アイ・リアリー・ドゥ。

 などと適当なことを口にして、俺は防壁の上から聞こえてくる悲鳴に耳を傾けた。


 さっきよりも悲鳴が聞こえなくなった。上の連中が踏ん張っているからか、それともホムンクルスの攻撃が弱くなったのか。

 ホムンクルスが群れていると、そこに人間がいると思って他のホムンクルスが群がってくる。結果として増える。援軍、というほどきらびやかなものではないが、そう言っても差し支えない。


 言うて来るのはレベル2とかレベル3とかいう中位、下位のホムンクルスだから、そんなに戦力になるかどうかは不明だ。あー、戦力になるな、なるな。俺がだるく感じる。


 「おい、お前!」

 はい、と応えて声のした方に視線を送る。誰?

 正規兵だった。見た分だと下級兵。だから若いんだー。それなのに第三陸尉の俺をお前呼ばわりとはなってないなー。


 「なんですか?」

 それでもちゃんと丁寧な言葉で返してあげる俺偉い!まさに天使。天使チカゲエルだよ。


 「そろそろお前の所属する部隊が交代する時間だ、壁上に上がれ」

 言うだけ言って若い正規兵のお兄さんは踵を返してどっかに行ってしまった。せめて道案内くらいするのが礼儀ってもんなんじゃないの?いや、別に道知ってるからいいけどさ。


 とりあえず現在時刻を確認する。二時をすぎたあたりか。

 夜になればとりあえずホムンクルスだって退くはずだ。いくらホムンクルスが動物をベースにしているからといいて、すべてが夜目が効くわけではない。夜目が効くのはほんの少しだ。


 動物は元来目が悪いので、夜間行動はしない。だから一旦退いてくれる。

 退くと言っても、どうせ明日の朝になればまた攻めてくるのだからたちが悪い。そのまま退いてよ、どこまでも。俺はハッピーになるから。向こうはハッピーにならないけど。


 てか、早く援軍来いよ。もうホムンクルス攻めてきてから二時間以上経過してんだぞ。なんでこねーんだよ。そろそろまずいぞ、この防壁。

 灯に言った防壁が保つ時間が大体二、三時間。どんなに頑張ったって、せいぜい保って四時間が限界だ。じゃあどうする?


 答えはチョーゼツ簡単。

 一緒に滅ぼうぜ?

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