第十八話 新人研修
数か月前、八寺馬電機の本社ビル9階にある産業貿易課では新入社員の研修が行われていた
研修は3人1組のチームで助けあって1つの問題を解決するタイプのものだ
この中で、いかにもガタイのいい男ばかり3名で構成される、ちょっとむさ苦しいチームが、成績が伸びずに困っているようだ
筋肉マンタイプの男、相撲力士型の男、ガタイは良くないが身長が2m近くある男
確かにこの3名ではお客も腰がひけてしまいそうだ
「なあ、お前英語得意?」「全然だめだ」「俺もだ」
「なんで俺達、貿易課なんてとこになっちゃったのかな。」
「体格がいいから海外負けしなそうだったんじゃないか。」
「でもなんだか合ってない感じだな。」
研修も3日目に入ったが少し異変が起きてきた。
「なあ、今日エレベータが、8階と10階は止まらないようになってなかったか。」
「うん、8階は階段からフロアにも入れなかった。何かあるのかな。」
そんな中、筋肉マンタイプの男が話し出した。
「あのう、急に決まったんだけど俺さあ、明日から地方の工場へ転勤になったらしいんだ。君らとはお別れになりそうだ。
話してなかったけど、俺の父親がこの会社の役員なんで、あまり反対する訳にも行かなくてな。」
「じゃあ、いい話なんじゃないか。まあがんばってこいよ。」
役員がらみということで、送り出すほうも送り出されるほうも明るい雰囲気だ。
「これといって引き継ぎ事項も無いし、次の職場が決まったらメールするよ。」
しばらくして、筋肉マンタイプの男は役員室に呼び出された。
役員室は黒服の男に取り囲まれていて重苦しい雰囲気だ。
入室しようとすると、すれ違いに1人の男が怒りながらとび出してきた。(あれ?兄貴??)
「あんな事、非人道的だ。俺には納得いかない、断固反対だ!
あっ、鮫二郎、お前が父さんに協力するのは勝手だが、俺は絶対反対だからな。」
「父さん兄貴は何をあんなに怒ってるんです。」
「ああ、鮫二郎か。
新人をどんどん地方へ派遣して修行させる私のやり方が、鯱のやつは気に入らないようでな。
しかし、鮫二郎が協力してくれて助かった。お前には、先行してもらって、幹部になって欲しいんだ。」
「転勤は急な話なので、支度もまだこれからです。」
「まず、健康診断を受けてきてくれ。その時うちの新型MRIを試用して欲しいんだ。
MRIの設置場所は社外にあるんだが、秘書に案内するように言ってある。五日市君たのむ。」
部屋の奥から黒スーツのモデル風の女性が現れる。いかにも重役秘書らしい美人OLだ。
「勝浦鮫二郎様ですね。こちらです。どうぞ。」
何だか急な話で訳が分からず、ボーッと美人OLのお尻についていくだけだ。
10分位つれられて着いたのは、何かの団体の集合場所のような所だ。
「MRIは、こちらの地下にございます。」
こんな全然会社と離れたところでMRIの研究を行っているのだろうか。
実は、新型MRIといって待ち受けているものは、ゲポゲポ団のアジトに置いてあるゲポゲポビームだ。
ゲポゲポ団の団長は、自分の息子までもゲポゲポ団にしようとしているのだ。
父の話に違和感を感じた長男の鯱は怒って出て行ってしまったが、
お人好しの次男 鮫二郎は全くの転勤のつもりでゲポゲポビームを浴びてしまった。
このあと何人もの新入社員が同じ手順でゲポゲポ化されてしまうのである。
鮫次郎らのガタイのいい新入社員トリオは、ゲポゲポの有力候補ということだ。
最近ゲポゲポ団が増えてきた原因はこんなところにあったのだ。