表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

詩集 ―Migratory Bird―

鉄の夢

この詩は間を大事にしています。

そのため行間がかなり開いています。

あらかじめご了承下さい。

広い広い青く澄んだ世界

とても静かな世界


生まれた私は空の上にいた

空はとても冷たくて暗かった


いくつもの光の矢が飛び交い

それは落ちて儚く咲いた


鉄の身体を紅く染めながら

私は空を駆け回った


幾億もの叫びが木霊して

私は耳を塞ぎたかった


雨に打たれながらも

必死になって冷たい空を駆けた


何度も光の矢に貫かれ

何度も灰色の鳥に身体をもぎ取られ



そうしてある日

私は飛べなくなった


空から落ちた時

最初は凄く冷たかった

暗くて怖くて悲しくて


必死にもがいてもあの空には近づけなくて

私の身体はどんどん沈んでいくばかり


だんだんもがく力も無くなってきて

ついには空を目指すことを諦めた


もう何もできなかった



でも今は案外気分がいい

この青い世界の生活も悪くないと思っている


小さな生き物たちの子守歌や

静かな風の吹く音


身体を優しく撫でていく流れに

私は身を預けている


とても心地よいのだ

このままずっとここにいてもいいと思えるくらい


あの惨劇を忘れたかった

でも忘れられないくらいにこびりついている


ここに居れば気がいくらか安らぐのだ

脳裏に焼き付く記憶が少しばかり薄れるのだ




ある日のこと

小さな仲間が私を呼んだ


仲間が大変なんだ

すぐに来てほしいと


私は断った

ここに居たいと


小さな仲間は尋ねた

なぜここにいるの?


私は答えた

嫌なことを忘れられるから


小さな仲間はこう言った

ぼくの仲間を助けてくれないの?


悪いけど他をあたってくれないか

私はずっとここで暮らしてたいんだ


君の力が必要なんだ

もう一度空を駆けてくれないか?


いまさら何を言っているんだ

私はもう飛べない


飛べるさ

その気があれば


私の身体はもう飛べないんだ

飛んだって嫌なことばかりだ


そうでもないさ

君の身体はもうとっくに治ってるんだよ


沢山の光の矢を見た

沢山の紅い唄を聞いた

沢山の灰色の鳥を受けた

沢山の散っていく仲間を見た

それでもまだ私に飛べというのか?


小さな仲間は黙ってしまった

そして悲しそうな目で私を見るとそこから去っていってしまった




その日の夜

私は夢を見た


沢山の仲間たちが川の向こうにいる

みんな笑顔で手を振ってくれている


でもそこに行きたいのに行けない

対岸に行こうとすればするほど遠のいていくのだ


待ってくれ

なんで私を置いていくんだ


私を一人にしないでくれ

私は君たちともう一度飛びたいんだ


しかし仲間たちは何も言わずどんどんと離れていく

私に飛べる力があれば

きっとあそこまでいくことができるのに


"君はもう飛べるよ"

誰かが囁いた


誰だ

私に囁くのは


"君の体はもう治ってる"

誰なんだ一体


"もう一度空を駆けてくれないか"

その言葉は聞いたことがあった

昼間に来た小さな仲間だ


私が飛べる?

そんなはずはない

私の身体はもう飛ぶ事が出来ないのだから


そう思ってふと身体を動かしてみる

あれっ? 動くぞ


壊れていた場所が嘘みたいに軽く動く

飛ぶための羽が元通りになっている


なんで?

どうして?


"君の身体は僕が直した"

またあの声が聞こえた


君が直したのか?

"そうだよ"


なんでそんなことを

"君の力を借りたい"


またそれか

私はずっとここに居たいんだ


"仲間へ手の届かない場所にかい?"


私は返答に困ってしまった

ここに居れば確かに安心だ

でも仲間には手が届かない


いくらもがいても届かない

またあの思いをしなくてはならないのか


そんな思いはしたくない

もう二度と悲しい思いはしたくないからここにいるのに


"なんで君は泣いてるの?"


私は泣いていた


私は独りぼっちだ

"そうじゃない"


私には仲間がいない

"僕がいるよ"


私には飛べる力が無い

"飛べるよ"


何故そんなことが分かるんだい

"分かるよ"


"だって、僕らは仲間じゃないか"


仲間……

"そう 仲間"


仲間……

"僕らは仲間"


私には――仲間がいる?



その瞬間夢は覚め

私はいつもの場所に立っていた


足元には小さい仲間がいて

悲しい顔をして立っていた


これは……


小さい仲間は尋ねる

本当に助けてくれないの?


私は答える

君が私を直してくれたのか?


そうだよ

みんなで一緒に


仲間と一緒に?

そうだよ


その仲間が大変なのかい?

そうだよ


私は君たちの仲間かい?

小さい仲間は笑顔になって答えた


そうだよっ!




広い広い青く澄んだ世界

とても静かな世界


私はここでいくつもの夢を見た

暖かな夢

悲しい夢

楽しい夢

辛い夢


でもその度に仲間たちが来てくれた

全てを分かち合った仲間がいた


その仲間が大変な時に

私は何をしているんだ


飛べないだって?

違う

飛びたくなかったんだ


あの夢が襲ってくるから

あの悲しみが溢れてくるから


でも違う

私には仲間がいる


悲しみも辛いことも

分かち合える小さな仲間たちがいる


だから行こう

たとえ飛べる力が無くても

私には仲間の元に行かなくてはいけない理由がある


暖かなこの場所も好きだったけど

今はそれを惜しんで仲間の元に向かおう


さあ

重い体を起こして


上手く飛べるかな

どこまで行けるかな


そんなこと今はどうだっていい

早く待っている仲間の元へ

大切な仲間たちの元へ






抜錨(ウェイン・アンカー)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おはようございます! つぶらやこーらです! 修正版を拝読しました! 正に「絞った」という表現が、しっくりきます! 広大さの表し方。 私が使うとしたら、名詞一語で済ませる、というのも手です…
[良い点] 仲間の大切さを取り戻す。 王道の哀しさと熱い血潮を感じました! 間は空や海、主人公たちの隔絶など、多くのものを想像してしまいました。 [気になる点] 間の置き方としての改行。しかし、あえ…
[気になる点] くそ読みづら……ギッチギチよりマジだけど。 改行多すぎませんかねぇ、二千文字もないのにこんなにスクロールするのか(困惑) [一言] 内容は好き
2017/04/22 00:13 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ