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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第一部 未成熟な想い~小学生編
97/139

第94話 美紗子が泣いた日その㉖ とある怪獣映画のテーマ曲でも似合いそうな根本の進行 

今回少し短いです。

 自習中とはいえ、席を立ち教室内を横断するように歩く根本かおりは、やはりそれに気付いたクラスの連中からは異様に見えた。

 そしてそれは当の根本も直ぐに感じ気付く事で、クラスの連中が根本の姿を追う様に視線を動かす数が増えるにしたがい、根本はゾクゾクッと体の中で何かが蠢くの感じてはその視線に満足感を覚えたのだった。

 だから続いて席を立ち、自分と共に美紗子の席へと向かうはずだった仲間達が、一人として席を立たず、今出歩いているのが自分一人だという事も、たいして気になる問題ではなかった。

 寧ろ最初からそれ程期待はしていなかったのかも知れない。

 この時の根本には、そんな事に対する怒り以上に周囲の自分を見る目の方が重要だったのだ。


(みんなが見ている。私を見ている)


 そう思うと根本は歩き方もゆったりと、何処か品のある上品な感じに自然と変化して行った。

 いつもならば早足で少し猫背気味に歩く所が今日は、堂々と胸を張り、まるで女王様然とした感じで美紗子の元へと向かう。


 教室はその様子にざわつく事はなく、ただその微笑みながら歩く根本の姿表情に異様さを感じては、気付いた生徒達は声も出さずただその根本が何処へ向かうのかを眺めていた。


 だから机の上に持って来ていた小説の文庫本を出しては、それを読み耽っていた美紗子は、その事には気付かないでいた。同様に隣の幸一も。


 気付いていたのは後ろから教室全体を見渡せる悠那と、周りをいつも気にしている美智子、それから幸一と美紗子の席の方を眺めていた五十嵐だった。

 太一に関しては根本が席を立ってから、その動向はずっと目で追っている。


 悠那は根本が真っ直ぐに美紗子の方に向かっている事に気付くと直ぐに、椅子から腰を上げ、両手を机につくと、立ち上がりかかった中腰の状態でそちらを凝視した。前に二組のみっちゃんに言われた事が応えていたからだ。

 だから今日は何かがあればいつでも飛び出せる様に、悠那は悠那なりに臨戦態勢に入ったのだ。

 それに秘策もあった。

 根本がぐうの音も出なくなる、言い返せる秘策が。


 美智子は中腰で立ち上がりかけた状態で止まっている悠那を、自分の席から斜めに眺めると、また根本の方に視線を戻した。更に根本の進行方向の先にいる美紗子へも。

 読書に夢中なのか、ちっとも根本に気付かず下を向いたままの美紗子は、美智子にとって心臓に悪い存在だった。


(早く気付いて!)


 刻一刻と近付いて行く根本とそれに気付かない美紗子は、美智子をハラハラさせ、心配させた。と同時に何かあれば飛び出しそうな悠那の姿も、どうすれば良いのか分からなくなっている美智子の気持ちを更に掻き乱せる。

  

(悠那ちゃんや美紗ちゃんとは今のままでいたいけれど、根本さんとは関りたくない…)


 そんな美智子の本心は、クラスの女子の大半の意見でもあったのかも知れない。

 美智子はなるべくならば見て見ぬ振りをして、その後も何事もなかったかの様に学校生活を過ごしたいと願っていた。

 

(場合によっては美紗ちゃんを切り捨てて悠那ちゃんだけでも…)




 まさに十人十色、ただ自習中に根本が席を立ち上がり美紗子の元へと歩き出しただけでも、教室の中では幾つもの思惑が交差していた。

 しかしいつまでも考えてはいられない。

 根本が美紗子の席に辿り着いたのだ。

 美紗子の机の前に立つ根本の影は、美紗子が机の上で開いて読んでいた小説の活字に影を落し、暗くさせた。

 だから美紗子は顔を上げる。


「ねえ、今の時間、みんなの前で謝るには丁度良い時間だと思わない?」


 そんな美紗子の耳に入ったのは、親し気に微笑みながらそう話しかける根本かおりの声だった。




      

              つづく


いつも読んで下さる皆様、有難うございます。

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