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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第一部 未成熟な想い~小学生編
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第83話 美紗子が泣いた日その⑮ 根本かおりをぶっ潰せ!

 根本は隠れている壁から顔を半分程出して、保健室の方を見ていた。


「大丈夫? 顔を出して」


 後ろから取り巻きの一人の声がする。


「別に。もう気付かれてるかも知れないし、あの紙夜里って子の状態が悪いなら、それを置いてまでみっちゃんって子もこっちまで追いかけては来ないでしょ」


 目は保健室の方をじっと見たまま、明らかにそちらに意識を集中しているかの様な気持ちの入っていない声で、根本はそう答えると、更にじわりと顔を壁から廊下の方に大きく出した。

 そして呟く。


「保健室に入っちゃえ」


 と。





 保健室の前まで着くと、紙夜里はみっちゃんが回していた腕を振り払い、冷たい目で口を開いた。


「もういいでしょ。教室に戻って」


「……」


 それに対して言葉なく項垂れるみっちゃん。


「なんなの?」


 だから紙夜里は、保健室の引き戸に手を掛けながら、少し迷惑そうな声で直ぐ隣に立つみっちゃんに尋ねた。

 みっちゃんはゆっくりと口を小さく開く。


「次はまだ二時限目だから、あいつもまだ倉橋さんには手を出さないだろ。特に授業中は一番安全だよ。狙うんならやっぱりお昼休みとか、放課後とか…だから」


「まさかみっちゃん、授業を休む気?」


「ひぇ!」


 紙夜里に図星を突かれて、思わず驚いた風に腕を中途半端に上げながら変な声を出すみっちゃん。

 紙夜里はそんなみっちゃんを見て、戸に掛けていた手を離すと、今度はちゃんと隣のみっちゃんと向き合う様に立ち、改めて口を開いた。


「駄目だよみっちゃん。何処も具合が悪くないのにズル休みは」


 真剣な顔でそう言う紙夜里に、みっちゃんは先程の言い当てられて驚いた表情から徐々に真顔に戻ると、視線を合わせているのが辛くなり、視線を斜め下の方にずらして、そして先程から気になっていた事を口にし始めた。


「でも…その怪我、私の所為なんだろ? あの時階段で、私が紙夜里の方に突然寄ったから、それで紙夜里はふらついて落ちて…だから私は…」


 紙夜里の顔も見れず、下の方を見て言葉を詰まらせながら話すみっちゃんに、『なんだそんな事か』と言わんばかりに紙夜里は一瞬微笑むと、また真顔に戻ってポツリと一言呟いた。


「みっちゃんって、馬鹿?」


「へ?」


 その言葉に思わず声を漏らしながら、顔を上げ紙夜里の方を見るみっちゃん。


「私が転んだのはアイツが私の足を蹴ったからだよ。そうでもなければ転ぶ事もなかった」


「へ?」


 その紙夜里の言葉は直ぐにはみっちゃんにとって理解出来る言葉ではなかった。

 何故ならばそれは、知らない情報だったからだ。

 みっちゃんは根本があの時そんな事をしていたなんて、全然気付いていなかった。

 それどころかあの瞬間頭にあったのは、ひらりっと捲れ上った紙夜里のスカートの奥から見えた水色のパンツの事だけだった。


「まさかアイツがそんな事をしていた事も気付かなかったの?」


 その様子に呆れた様な声を出す紙夜里。


「気付かなかった」


 みっちゃんはそれにそう答えながら、少しずつ自分の所為ではなかった事に気持ちが楽になって来て、表情が綻んだ。

 そしてそんなみっちゃんの様子を見逃すような紙夜里ではない。


「なんで嬉しそうな顔をしているの。私が転んで怪我をした事がそんなに楽しい?」


「あっ、いや、そんな事は。私はただ自分が思っていた事が誤解だったと分かり…」


 紙夜里の言葉にみっちゃんは直ぐにまた綻んでいた顔を、固い表情に戻して、しどろもどろになりながらも自分の心情を説明しようとしたのだが、上手く言葉が浮かばず、一瞬口ごもった。


「これでもう分かったでしょ。あなたのやる事が」


 そんなみっちゃんを見ては紙夜里はまた保健室の戸に手を掛けて、体も保健室の方を向いてそう言う。


「私のやる事?」


 だからみっちゃんは隣の紙夜里の横顔を覗きながらその言葉を繰り返した。


「根本かおりを完膚なきまでにぶっ潰すの」


「!!」


 つまりはそれは紙夜里からのOKが出たという事だった。


「だからみっちゃんはちゃんと授業に出て。美紗ちゃんを守るにはアイツを立ち直れない所まで追い込むしかない。ぶん殴ってもいいけど、多分それだけでは終らない。美紗ちゃんと私の為に、完全にぶっ潰して」


 言いながら紙夜里はそのまま保健室の引き戸を引いて開けると、体をその中へと前に出す。

 みっちゃんは紙夜里の言葉にその場から微動だにも出来ず、ただ保健室前の廊下に立ち尽くしていた。

 そしてそのまま、みっちゃんを残したまま入り口の引き戸を閉める紙夜里。

 閉まる瞬間、微かに中から聞こえて来たのは「お願い」という紙夜里の声だった。

 だからまだ呆然と立ち尽くしたままでいたみっちゃんは、無意識のままただそれに対して、


「はい」


 と、答えた。





 紙夜里が保健室に入るのを見届けた瞬間、それを廊下の隅で覗いていた根本はガッツポーズをとりながら叫んだ。


「よし!」


 それは根本にとって最も警戒していた知能犯の邪魔者が一人消えた瞬間だったからだ。

 そしてこの瞬間根本は、四時限目の自習時間、先生が居なくなった時を決行の時と決めたのだった。






           つづく



 


いつも読んで頂きありがとうございます!

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