第82話 美紗子が泣いた日その⑭ 約9ヶ月半ぶりの本編更新です。
保健室へと向かう紙夜里をみっちゃんは暫くは眺めていたが、いつの間にか前を向いたまま一歩、また一歩と足を前に踏み出していた。
ふらふらと、片方の足を少し引き摺るようにして先を歩く紙夜里に向かって更に一歩と。
やはりみっちゃんには、紙夜里を一人で保健室に行かせて、自分だけ教室に戻るといった事は出来なかったのだ。
だからみちゃんは、少しずつ歩くスピードを上げてはいつの間にか早足になりながら、紙夜里の直ぐ後ろまで追いつく。
すると紙夜里は、そんなみっちゃんの行動なんてさもお見通しの様に振り返る事もなく、前を向いたままで口を開いた。
「言ったのに」
それは本当に体調が悪いかのような声だった。
そしてみっちゃんも、自分が追いかけてくる事を紙夜里が予測するくらいの事は当然の事の様に答え返す。
「分かってる。でも、やっぱり心配なんだ」
そう言いながらみっちゃんは、紙夜里の引き摺っている足の方に体を寄せると、腕を紙夜里の腕の間を通す様にして、体を支えた。
しかし紙夜里はそんなみっちゃんの行動も、前を向いたまま隣を見る事もなく、ただ諦めた様に、
「馬鹿みたい…」
と、呟くだけだった。
その頃今日の成果に満足気な顔をした根本は女子トイレから出て来ていた。
トイレから出て来て、遠く職員室の方を眺める。
そこにはたどたどしい歩で、二人並んで歩く紙夜里達の姿が見えた。
それは方向的にはこちらへと向かって来る格好で、きっとあちらもこちらに気付いているであろう事は、根本にも容易に想像が出来た。
だから根本はまだその事に気付いていない様な取り巻きのグループの側まで駆け寄ると、彼女達に声をかけた。
「何をしてたの? あいつらこっちに向かって来てるよ」
「えっ?」
「マジ?」
「やべ」
それぞれに紙夜里達の方を向いては声を上げる取り巻きに根本は「こっち」と、先程ゲームをして遊んだ階段とは逆の、校舎隅の階段を指差した。
五メートル程離れた先のその階段へと曲がる壁に隠れて様子を見ようという魂胆だ。
取り巻き連中はチラチラと後ろを振り返っては、紙夜里とみっちゃんの様子を窺いながら、先を歩く根本の後ろに付いて行く。
「あいつらだ」
その様子に気付いたみっちゃんは怒りが込み上げて来るも、紙夜里を置いて追いかけて行く訳にも行かず、吐き捨てるように呟く。
紙夜里はまだお腹の具合が悪いままなのだろう。若干下を向いて歩いていたのでその事には気付いていなかった様で、みっちゃんの言葉に「あいつら?」と小さく尋ねると、弱々しく顔を前に上げた。
「根本達だ」
そこでみっちゃんは再び語気を強めて言う。
「ああ」
それには紙夜里も、果たして確認出来たのかどうかは分からないが、みっちゃんの言葉を理解はしたらしく返事をした。
「どうする? 紙夜里を保健室に置いたらぶん殴って来る?」
前方遥か先の廊下の角に消えて行く一団を睨みながら尋ねるみっちゃん。
「いいよ、もう授業も始まっちゃうし。多勢に無勢、流石のみっちゃんでもあいつら全員を相手には出来ないでしょう」
「いや、根本だけだよ。他の奴らはきっと見ているだけで手も出して来ない」
「そうなの?」
やけに自信たっぷりにそう言うみっちゃんに、紙夜里は体を支えられながら、覗き込む様にその表情を見た。
視線に気付いたみっちゃんも紙夜里の方を向く。
そして先程までの険しい表情を崩すと、今度は自信に満ちた表情で紙夜里に向かって口を開いた。
「わかるんだ」
「フーン」
それから一分も経たないうちに二人は保健室の前へと辿り着いた。
つづく
久し振りすぎて短くてすいません!
いつも読んで下さる皆様、有難うございます。





