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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第一部 未成熟な想い~小学生編
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第80話 美紗子が泣いた日その⑫ 人と同じという安心感はパンツから

「パ、パンツ?」

 明らかに話が食い違っている。

 みっちゃんはそう訊き返すと少し躊躇ってから、なるべく紙夜里の目を直視しない様にして口を開いた。

「あのさ、パンツじゃなくて…紙夜里、気付いているんだろ? 階段から落ちたのが私の所為だって事。本当にごめんよ。本当は直ぐに謝るつもりだったんだけど、タイミングを逃しちゃって。ほら、下級生達が来たりして。プリント拾って貰たのは助かったけどさ。だからあの…そんな遠まわしな言い方しなくても、私、気付いてたから…私の所為で怪我させて、ゴメンナサイ…」

 最後の方は項垂れて、紙夜里に頭を下げる様にみっちゃんは話した。

「そんな事」

 みっちゃんの告白を聞いた紙夜里は詰まらなさそうにそう言うと、軽く自分で自分のスカートのお尻の辺りを数度叩いて埃を落すと、全くその話には興味がないと言わんばかりに踊り場からみっちゃんを無視して階段を下り始めた。

「そんな事って、でも怪我しただろ?」

 下を向いていたみっちゃんは、歩き出した紙夜里の足元に気付いては顔を上げて、紙夜里の隣へと言いながら歩き出した。

「あなたがそう思っているならそれでもいいわ。私はそちらには興味がないから。私が今興味があるのは、みっちゃん、あなたが何故そんなに女子のパンツを覗き見ているかって事なのよ。もしかして変態?」

「変態!?」

 紙夜里の隣にならんだみっちゃんは、あまりの言われように思わず声を上げる。

「違うの? でもみっちゃんってどちらかと言うとイケメンタイプで、さっきの下級生もそうだけれど、女子に人気があるじゃない。だから本人も実は満更じゃなくて、男子より女子が恋愛対象の人なのかなと。そういう人も世の中には結構いるのはネットで見て知っていたし」

「ちょっと! ちょっと!」

 そう言うとみっちゃんは、階段を一段紙夜里より先に下りて前を塞ぐと、その足を止めさせた。

「違うよ! 私そういうのじゃないよ!」

「じゃあ、何で?」

 みっちゃんの言葉に紙夜里は唇の角を軽く上げると、とても興味深そうな表情で直ぐにそう尋ねた。

「それは…」

「それは?」

 誰だって人に言いたくはない悩みは持っている。

 みっちゃんもまた、自分で調べて解決しようとしていた、ささやかな、人によってはどうでも良い様な、しかしみっちゃんにとってはここ一年くらい気になっていた悩み事があった。

 だからみっちゃんはグッと唇を噛み締めて、ジッと紙夜里の目の、更にその奥の真意を探る様に鋭く睨みつけた。

 紙夜里はそんなみっちゃんから決して目を逸らす事なく、今は無表情で眺めている。

「ああ、もういいや…」

 根負けしたのはみっちゃんの方だった。

「あのさ、私の下着とか、ウチのお母さんが買って来るんだよね。紙夜里ん家ちはどうなの? 紙夜里が自分で買ってるの? それともやっぱりお母さん?」

「何でそんな事訊くの?」

 紙夜里はみっちゃんの言いたい事が分かっているのかいないのか、相も変わらず無表情のまま更に尋ねる。

 その質問にみっちゃんは『だから言いたくなかったんだ』とばかりに頬を赤らめ、そして膨らませてから、仕方がないとばかりに口を開いた。

「ウチのお母さんが買ってくるパンツは、いつも真っ白なんだ。皆んなそんなパンツ履いていないよね。模様や可愛い柄が入っていたり、色も色々な色で鮮やかだ。私はそういうファッション? 流行とか疎いから、皆んなどういうの履いているんだろうって、興味があった。そしてそれは、自分で選んで買っているのか? それともお母さんがそういうのを買って来てくれるお母さんなのか? そういう事も気になっていた。でも、そんな話誰にも訊けないだろ? だから思わずパンツに目が行っちゃってた。気分を悪くしたんなら、それもゴメンよ。皆んなと同じになりたかっただけなんだ…だから…変態じゃないよ」

 みっちゃんの声は、最後には恥ずかしさに消え入りそうな程小さな声になっていた。

「どけて」

 話を聞き終えた紙夜里は、相変わらずの無表情で、それだけ言った。

「ああ」

 慌てて横へどけるみっちゃんに、即座にその横に下り立つ紙夜里。

「私も、白いパンツは持ってるし。逆に無地の真っ白なのは、ワ〇ールとかの高いパンツを買ってくれてるんじゃないの? 根本の奴の事は分からないけれど、私はいつもお母さんと一緒に買い物に行った時に自分で選んでいた。まー、これからはどうなるか分からないけれど。どっちにしてもそんな事で悩むなんて、みっちゃん、あなた馬鹿なんじゃないの? そんな馬鹿な事、私以外には相談しない方が良いわね」

 そう言うと、突っ立っているみっちゃんをよそに、紙夜里はまた手摺に掴まりながら、しかしスタスタと階段を下り始めた。


 『私以外には相談しない方が良いわね』


 その言葉が嬉しかったのか、何度も頭の中で反復しては徐々にみっちゃんの顔は綻び始める。

「うん、私馬鹿だから!」

 言いながらみっちゃんはドンドンと階段を下りて行く紙夜里の元へと、駆け下りた。



                 つづく

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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