第59話
今回は短いです。1500字くらいです。
それぞれが教室へと戻り、六時限目の授業は始まった。
教室に授業開始擦れ擦れに入って来た幸一と五十嵐の事を、太一は自分の席に座りながら渋い顔で眺めていたが、声を掛けに行く様な時間はなかった。
太一にとっては全てが裏目に出た様な休み時間だった。
キョロキョロと不安そうな顔で周りを気にする様な美紗子は、いつもの爽やかな感じとは違く見えて、本当は太一は、声を掛けに行きたかった。
しかしそれも、躊躇いと美紗子を後ろから抱きしめ続けている悠那の姿に、結局行けず仕舞いだった。
「ちっ」
そんな休み時間の事を考えると、太一は思わず授業中だという事も忘れて、つい舌打ちをした。
(残された課題は、俺が居ない間に、美紗子に何があったかだ。これは授業中でも根本に手紙を渡して聞き出す事が出来る。美紗子を脅かす何かがあったのだとしたら、アイツはきっと自慢気に教えてくれるだろう。馬鹿な奴だから)
そう思うと、太一の顔は思わずニヤついた。
そしてノートに定規を当てて、綺麗に1枚破くと、太一は小さな字で書き始めた。
『この前の休み時間、倉橋さんなんか不安そうな顔してたけど。お前なんかした?(笑)』
相手に幾分同調している様に見せかける為に、太一は文章の最後に(笑)と入れた。
(これで根本は心を許して自慢気にあった事を書いて来るだろう)
そう思うとまたも太一は自分のアイデアに満足してニヤついた顔をしながら、その紙を細かく折り始めた。
階段を降りて五年の廊下に着いてからも根本は小走りで走っていた。
四組の教室の中に入るまでは、無我夢中だった。
ついさっき橋本紙夜里に綺麗に蹴りが決まった事が、まるで夢でも見ていた様に、この時には漠然としたものになっていた。
激しく鼓動を打つ心臓は脳に断片的な映像を映すだけで、順序立てて思い出す事はまだ出来なかった。
だから教室に入った根本は、美紗子に目が行く事はなかったし、先程まで美紗子を一緒に囲んでいた連中が側に近付いて来ても、焦点の定まらぬ目は、それを捉える事はなかった。
ただ、遠くの方から連中の何やら話し掛けて来る声が聞こえて来るだけだった。
だから根本はそれらを無視して机の間を歩くと、真っ直ぐ自分の席に着いた。
そしてただ呆然と、正面を見ていた。
此処最近の取り巻き連中達は、そんな変な状態の根本に、話にならないと思ったのか、散り散りに離れて行った。
悠那は戻って来た根本に気付くと、美紗子に抱き付いたまま、そちらをじっと睨み付け、美紗子の顔は、決してそちらを見えない様に、隣に並ぶ自分の顔で遮断した。
その隣に立ち並ぶ美智子は、そんな悠那と、根本の間を交互に心配そうな顔で眺めていた。
根本の虐めの対象が、悠那や自分にまで及ぶのではないかと、やはり心配だったのだ。
先生が来て授業が始まると、根本は自分の中で少しずつ意識が戻って来るのを感じた。
それまで定まらなかった目の焦点も少しずつ定まり始め、それと共に先程の屋上扉の前の光景が鮮明に蘇って来た。
紙夜里に掴まれそうになり、後ろに一度避けた時の反動を利用して前に蹴り出した回し蹴り。
(あ~♪)
我ながら悦に入るとはこう言う事なのか。
根本は先程紙夜里を倒した直後に感じた爽快感・気持ちよさを、再び今取り戻しつつあった。
自分の足が紙夜里の鳩尾みぞおちに綺麗に当たり、紙夜里という塊を足の裏にズッシリと感じながら、それを突き抜けるかの様な感覚。
それはまるで自分の中に鬱積してあった不平不満を吐き出した様な。
だから根本は授業中にその事を何度となく思い出しては、満足感に浸っていた。
つづく
オマケらくがき♪
今回は以前、井川林檎さんから頂いた美紗ちゃんです♪
気品がありますね。お嬢様してる~♪
有難うございます!
いつも読んで頂いて、有難うございます。
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