第50話
「何か最近、お前冷たいよな」
「え、そんな事ないだろう? 最近は前よりお前らと一緒にいるじゃん」
相変わらずの校庭でのドッヂボールを終えた幸一・五十嵐・谷口・丸山、そして太一は、教室へと戻る為に階段を上っていた。
前を並んで歩く五十嵐・幸一・谷口。
その直ぐ後ろには丸山。
そして更に一段後ろを太一が歩いていた。
「俺たちの事じゃないよ。倉橋さん」
幸一の答えに再び口を開く五十嵐。
「あ、それ。俺も思ってた。さっきも教室の所で肩ぶつかったのに、お前直ぐ俺たちのとこに来ちゃて。倉橋さん寂しそうだったぞ」
幸一を挟む様に隣にいた谷口も口を挟む。
「別に…いいじゃん」
女の子の話題を出されるのが苦手な幸一は、足元を見ながらポツリと言った。
「いいって…だってお前ら付き合ってるんだろ? 女子が噂してたぜ。放課後図書室でこっそりデートしてたって」
「なっ!?」
五十嵐のその言葉に思わず声を出して五十嵐の方を見る幸一。
「あ、俺もそれ知ってる」
直ぐに谷口も口を開いた。
「俺も俺も!」
後ろにいた丸山も混ざって来た。
しかし、太一だけは何も言わず、黙って幸一の背中を眺めていた。
「実際、どうなんだよ?」
ニヤニヤした顔を幸一の方に向けながら尋ねる谷口。
「どうって?」
倉橋美紗子の名前に、もう殆ど頭が真っ白になっていた幸一は、直ぐに返答が浮かばず、そう言って誤魔化した。
「良いよな~倉橋さんだもんな~ 良いよ、絶対イイ!」
もう片方の隣では、五十嵐が宙を見ながら羨ましそうな顔で言うと、一人先の段へと早足で上り始めた。
「やっぱり付き合ってんのかよ」
なかなか答えない幸一に谷口は再度尋ねた。
「ちがうよ!」
やっと開いた幸一の口から出た言葉は、自分でも驚く程の大声だった。
「ちがうよ。付き合ってなんかいないよ。だって僕達まだ小学生だぜ? なんで皆んな直ぐそうやって騒ぐんだ。倉橋さんは本が好きだから、趣味の話が合うだけさ。本当に、ただの友達なのに、皆んながそうやって騒いだり、冷やかしたり、それに噂話まで。僕もそうだけど、倉橋さんも相当迷惑しているんだぞ」
最後の方は少しキツイ口調になってしまったと気付いたが、幸一はまあいいやと思った。
「冷やかすのは悪いと思うけどさー。半分羨ましさも入っているんだから。まーしょうがないと、我慢しろよ~」
「そうそう。しっかし、本当に付き合ってないのかよ~。倉橋さんだぞ、倉橋さん。それも彼女の方はお前の事満更じゃない様に見えるし」
「あ、それ俺もさっき思った。教室のとこでお前見ている目がこう、なんていうの? 凄い寂しそうな訴える様な目で」
谷口と五十嵐の話に後ろから丸山も口を挟む。
「なんか、お前ってイマイチ何考えてるか、分かんないよな~」
「ホントホント」
谷口の言葉に丸山が相槌を打つ。
そこで先に階段の踊り場に辿り着いた五十嵐が、急に立ち止まって後ろを振り向いた。
「お前はどう思う太一?」
上から見下ろす様に太一を見ながら、五十嵐が言った。
その瞬間全員の足が止まり、一番後ろを歩いていた太一以外が一斉に振り返った。
「お、俺?」
自分の鼻の所を指で指しながら言う。
「そう」
五十嵐は冷静な声で直ぐに答えた。
幸一も、この質問には興味があった。
(僕に美紗ちゃんと関るな。それが美紗ちゃんの為だ。と言った太一は、皆んなの前ではどう答えるのか? あいつは美紗ちゃんが好きだと言った。もしかしたらその為に邪魔な僕に関るなと言ったのかも知れない。確かに今の現状だと、それが正解だとも思えるのだけれど…)
皆んなの注目が集まる中、太一は軽くニヤリと笑った。
「それは、自分の勝手だと思うよ。好きなら好きだという行動をすれば良いし。友達なら友達として接すれば良い。周りの誰かがとやかく言う事ではないと思うよ」
太一の言葉に、一瞬全員が沈黙した。
幸一はこの言葉からでは、太一が太一自身の事を言っているのか、それとも自分の事を言っているのか、その本心を読み取る事は出来なかった。
「そうだよな」
不意に上から声がして、皆んなが今度は上を向いた。
踊り場の五十嵐の声だった。
「そうだよな。やっぱり」
繰り返し言う五十嵐の顔もまた、先程の太一の様にニヤリと微笑んでいた。
それを見て太一は少し、目付きを鋭くした。
(何だこいつ、俺と幸一の事を何か知っているのか…)
つづく
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