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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第一部 未成熟な想い~小学生編
48/139

第45話

構成の都合上今回は短いです。1500字程。

 月曜日の朝。

 根本かおりは登校班に混ざらずに、一人早く家を出た。

 目的はクラスの誰よりも早く学校に着き、倉橋美紗子の上履きをどうにかする為だ。

 これは自分の中の賭けだった。

 月曜日だから、金曜の放課後に洗う為に持ち帰っている可能性もある。そうなれば下駄箱を見ても、上履きはない。

 もしなければ、それは運命がそこまではしない方が良いと警告しているという事。

 もしあれば、それは運命が自分に味方をしているという事。

 根本は自分の中でそう解釈していた。


 小走りに校門を潜り、一度立ち止まって校庭の方を見やる。何処にも生徒の姿は見えなかった。

 根本はそこで生唾を飲み込むと、また走り出した。

 校庭の脇の通路を楕円形に沿いながら走る。

 ガチャガチャ ガチャガチャ

 ランドセルの中の筆箱の音だろうか、ドキドキしている自分の心臓の音と重なって、背中の方から音がする。

 昇降口の側まで来ると、根本は立ち止まって、両手を膝に付けた。

 背中を丸め、「ハァ ハァ」と、息切れした呼吸を整える。

 これから悪い事をするという緊張感が、根本の心を落ち着きなくさせる。

 幾ら呼吸を整えても、心臓のドキドキは止まらなかった。

 目の前に見える昇降口の中に、人影は見えない。

 ついでに周りを見渡すと、校門から少しずつ、生徒達が登校して来るのが見えた。


(急がなくちゃ)


 根本は急いで昇降口に入り、自分のクラスの下駄箱へと向かった。

 自分の下駄箱より先に倉橋美紗子の下駄箱に目を向ける。

 数秒間、しかし根本には二~三分に感じる時間、その下駄箱に書かれた美紗子の名前を、根本はじっと眺めていた。

 友達がいて、いつも学校で楽しそうに笑顔を振りまいている美紗子。

 隣の山崎君ともいつも楽しそうに話していて、まったく、小学生なのに、もう彼氏がいるの?

 彼女を嫌いだって、表立って言う人はいない。

 なんで?

 なんで?

 あなたは私より弱いのに。

 何であなたの周りには、人がいるの?

 弱いのに。

 私より弱いのに。

 弱いという事は、私より下という事なのに。

  

 ガチャ!


 根本は美紗子の下駄箱を開けた。

 そしてそこには、美紗子が置いて行った、上履きがあった。


(あなたにはもう、男好きの汚らしい女子というレッテルが張られてるの。だから上履きも、汚らしく薄汚れていた方が、お似合いでしょ)


 根本は心の中でそう呟きながら、美紗子の上履きに手を伸ばした。




 それから十五分程した五年四組の教室には、一番乗りで来ていた根本の周りに、既に数人の女子が集まっていた。教室全体でも半数くらいの生徒は来ている。

 あちこちで友達と話す声や、椅子を引く音、ランドセルを机に置く音が聞こえ、幾つもの雑音が折り重なる教室。

 そんな中、根本の周りでは周囲に聞こえない様に、ヒソヒソ話が行われていた。


「本当に倉橋さん、靴下のままで来るの?」


「靴下じゃなければスリッパ」


 周りに集まる女子の声に平静な顔でキッパリと答える根本。


「マジー」


「ウケルー。それって超目立つよ」


「でもなんで、かおりちゃんはそんな事知ってるの?」


「新しい情報でね。今日倉橋さんが上履きを忘れたらしいってのが入って来たの。きっと朝から、山崎君とか男子の事ばかり考えてて、忘れたんでしょ。倉橋さん超エロいから」


 群がる女子の中から、かおりと名前で呼ばれた事で、嬉しさのあまり調子に乗って話す根本。


「すごーい、かおり。情報網なんか持ってるんだ」


「楽しみだねー倉橋さんどんな顔して来るのか」


「根本さんの話聞いてると、本当に美紗子さん超エロく思えて来た♪ 男漁りしてそー」


 周りの女子達の言葉に根本は頬を綻ばせ、教室の出入り口の方を眺めた。


(そろそろ来る頃かな? 本当に、どんな顔をして現れる事か)


 根本かおりは楽しかった。





                つづく


いつも読んで頂いて、有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ランドセルの中の筆箱の音とか息遣い。臨場感がありますね。虐めの対象となった美沙子が可愛そうで。救いがない。そういう展開でも描きがちですが。前前話から。美沙子はどう転んでもそうならない。被っ…
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