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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第一部 未成熟な想い~小学生編
42/139

第40.5話 それぞれの土曜日①

今回も都合上短いです。1700字くらい。

 次の日の土曜日、午後二時。


 美紗子の土曜日(一)。


 美紗子の家では午後から、家族で買い物に出かける予定だった。

 しかし美紗子は友達が遊びに来るという事で残る事になり、父親と母親、そして妹の三人だけが、一時間程前に出かけて行った。


「凄い美紗ちゃん! こんなの作れるんだ♪」


 美紗子が大きなお皿に載せて持って来て、悠那の目の前のテーブルに置いたアップルパイを見た瞬間、悠那は目を輝かせてそう言った。


「違うよ~。殆どママ。私は少し手伝っただけ」


 喜ぶ悠那に微笑みながら美紗子は言うと、直ぐにリビングのテーブルの前から離れ、食器棚の方へと小皿を取る為に足を向けた。


「へー」


 早くも食べたそうにアップルパイを凝視する悠那。


「悠那ちゃん家ちでは作らないの?」


 悠那の隣に並んで座っていた美智子がそんな悠那を見て、思わず尋ねた。


「ウチ? ウチは作らないよ。ママ料理苦手なんだ。ハハ。逆に手が荒れるとか言うし。いっつも何でも買って来ちゃう」


「えー、意外。悠那ちゃんモデルみたいに可愛いし、服装とかもお洒落で、髪の毛だってそれ、美容院に行ってるんでしょ? お母さんも前に見た時凄い綺麗な人だったから、料理とかも凄い上手なんだと思ってた」


「まさか。見た目で料理する訳じゃないから。ウチのママは、優しいんだけど、我が儘な所があって、やりたくない事は絶対やらないの。料理も苦手な分嫌いだから、出来ている物を買ってくる方が多いの。だからこーゆーの憧れちゃう。ママと一緒にアップルパイ作るとか」


「そうなんだ…でも、我が儘って。ハハ」


 小皿を取り振り返り、テーブルへと戻りながら美紗子は、二人が仲良く話している姿に微笑ましくなって、頬を緩ませた。


(良かったね。中嶋さん)


 


 紙夜里の土曜日。

 

 自宅。普段はリビングから隣の部屋まで、三枚引き戸を開けて十八畳のリビングとして使っている部屋が、今日は引き戸を閉めて、二つの部屋に間仕切っていた。

 リビングの方には母親が。

 そして間仕切られた奥の六畳の部屋には紙夜里と、妹の瑞穂がいた。

 ソファーにテーブル、テレビにエアコンはリビング側にある。六畳の部屋の方は、クローゼットがあるだけの何もない部屋だった。

 フロアに寝そべりながら、白紙のコピー用紙に一所懸命絵を描いている瑞穂は、まだ幼稚園児で、来年小学校一年生になる。

 紙夜里もその隣に寝そべり、妹の描く絵を眺めていた。


「ねー、まだ出かけないの~?」


 瑞穂が絵を描きながら、退屈しきった声で尋ねた。


「もう少し。もう少し待ってね。お母さんの電話が終るから」


 諭す様に優しく答える紙夜里。

 

 母親はリビングの方で父親(夫)と電話をしていた。

 夫はもう数ヶ月、週末も家には帰って来てはいなかった。


「帰って来なくちゃ話にならないでしょ! いいから一度帰って来て!」


「そんな一方的に書類送られても絶対受け取らないから!」


「私とちゃんと会って話をしてよ! 逃げないでよ!」


「何で風俗なの? 私を馬鹿にしてるの? なんで風俗なのよ!」


 薄い引き戸の間仕切りを越えて、紙夜里達の元へまで届く、受話器の向こうに投げつける母親の声。


「絶対に許さない。貴方にも絶対子供の面倒を見させるんだから。風俗の女なんかと、絶対二人きりの幸せなんかにはさせない。私達の子供も、貴方は見なければいけない。そんな、私ばかりが不幸なんて、絶対させないから!」


 響き渡る声を、紙夜里は耳を澄まして聞いていた。

 

「瑞穂」


「ん?」


 紙夜里の呼ぶ声に、瑞穂は絵を描く為に下を向いていた顔を上げると、紙夜里の方を見た。


「もし、お姉ちゃんがいなくなったら。その時は、来年小学生になったら、倉橋美紗子さんってお姉ちゃんを頼りなね。来年は六年生になっている筈だから。お姉ちゃんの一番仲の良い友達なんだ。だから瑞穂の事伝えておくから。ね」


 紙夜里の言葉に瑞穂は何やら困った様な顔をした。


「んー、お姉ちゃんいなくなるの?」


 瑞穂はまだ、理解していなかったのだ。

 紙夜里は思わずハッとして、その言葉に答えが出せなくて、少し悩んでから口を開いた。


「そんな事…ないよ」






                    つづく



  重要・今回のお話は決して風俗を馬鹿にする話ではありません。僕個人としては、十分に尊敬出来る職業だと思っています。仕事に上下はありません。あくまで小説・物語の台詞という事です。勘違いされませんように。

   



いつも読んで頂いて、有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 明暗が別れると言うよりこれは物語のひとつのフィラメントの明滅ですね。家庭での諍いに関しては紙夜里が既に無痛覚な風情が心に残ります。なおのこと紙夜里は誘蛾灯に引き寄せらる蝶なのか。そこに水も…
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