第9話 かおりちゃんグラフィティ その⑨
太陽が真上にあり日差しがジリジリと暑く感じる様になる中、木村彰人の買って来た棒状のアイスを手に持ち食べながら三人はコンビニ入り口の脇に立っていた。
「いやー本当に今日は暑くなって来たな~アイス様様だ」
「いいえ、イイもの見せて貰ったから」
隣のお姉さんの言葉に対して、照れながら即答する彰人。
それをお姉さんを挟んで反対側に立っているみっちゃんが面白くなさそうに言い返す。
「何言ってんのアンタ。ちょっとお姉ちゃんが綺麗に化けてるからって、調子のいい事ばかり言って。そもそも何しに此処まで来たのか忘れたの」
「忘れてないよ。根本さんの事だろ。でも来る途中アプリ覗いたら、彼女結構沢山服着て来たみたいだから、そう直ぐにどうこうはならないだろ。大丈夫大丈夫」
「化けてるって…あは、あは。で、それってさっき言ってた野球拳か?」
「そう」
みっちゃんはお姉さんの言葉にそう答えながら、彰人がちゃんと根本の状況を確認していた事に少し安心した。
そして先程経緯を聞いていたお姉さんが彰人の話に更に話し出す。
「野球拳か~なかなかその子もやるなー。確かに若い女の子の野球拳なら実際ヤバい所が見えなくてもアクセス数は相当上がりそうだもんな。下にもう一枚着ていても、きっと脱ぐ仕草とかが堪らないんだろうな男共、特に親父は。アハハハハ」
そう言うとお姉さんは快活に笑いだして、それからまた続けて話し出した。
「でもなんで未成年者に手を出したら犯罪なのに。中高生大好きを公言する中年親父共はこの日本では公認されてるんだろうな? アニメだって漫画だって当たり前に小中高生の可愛い女の子がパンツ丸出しで出て来て、そんで大抵人気者になるだろ。するとその子のグッズとかフィギュアとか出て、実際買うのはお金持ってる二十歳以上の男の人の方が多いんじゃないのか? 他にも昔はブルセラ、今はJK売りって言って自分の下着とか売ったり、ちょっと前にあったJK散歩っていうのは今のパパ活だろ、結局。だからさー名前を変えてるだけで犯罪ギリギリの所を結構暗黙の了解でずっと日本の中年社会は続けてるんだよねー。然も公然と『女子中学生大好き~!』とか『女子高生大好き~!』って叫べる風潮があるじゃん。日本って。でも実際は未成年者に手を出したら犯罪だろ。児童ポルノ禁止法って法律もあるし。でも中年親父の女子中高生好きはOK。それってなんか変じゃない?」
「変って言うか…それよりお姉ちゃん情報量が凄くない! ブルセラって何? 聞いた事もないよ」
お姉さんの話の情報量に驚いたみっちゃんは思わずそう口を開いた。
「あはははは、ウチの親父が言っていたのさ。私も詳しくは知らないけれど、ブルマやセーラー服の使用済みを売るお店が昔はあったみたいで、そこから『ブルセラショップ』なんて言葉があったみたいだよ。当然その頃から使用済みのパンツなんかも売られていて、結局今のJK売り何かはそれの名前を変えただけでまんまみたい。親父に言わせると昔はネットがなかったから店舗が必要だったんだって。今はネットが普及しているからそういうの個人で証拠の写真とか付けて売買出来るからお店は必要なくなったんだね。ほら、風俗店なんかも今じゃ無店舗経営ののデリヘルのが主流だろ。ま、全部親父の受け売りだけど。ははは」
「親父さん凄い…」
お姉さんの話に今度は思わず彰人が感嘆して声を漏らす。
だからお姉さんは彰人の方を一瞬振り向くと、「なに? ウチの親父?」っと言いながら直ぐに正面を向直してまた話し始めた。
「ウチの親父はねーあれは駄目だよ。善人で家族にも他人にも普通に優しいけれど、多分何処か狂ってる。大人ってみんなそうなのかも知れないけれど、仕事でおかしな事、納得のいかない事があっても我慢して誤魔化すんだ。世の中って、特に大人の世界って、不条理な納得のいかない事って多いだろ。例えば上司からの命令でも会社の意向でも道徳的におかしな要求なら異議を唱えたり文句を言えばいいのに、そんな事はしないで受け入れちゃう。本人としては会社を首にされたりせず、家族を養って行く為とか思ってるんだろうけど…たまにそういうのを家族に漏らす時があるんだよなぁ。本当はずるい事だけど、こんな事をしたとか。そんな自分の中で納得のいかない事を仕事上している事があるなんて話、家族は聞きたくないよなー。それでそういうののストレスの発散なのか、最近はリュックを背負った小学生の女の子のフィギュアなんかどっからか買って来て飾って眺めてるんだぜ~! あれもアニメのキャラなのかな~たまに下から覗いてパンツ見てるし。キモイっての!」
「あ、あははははは」
途中までしんみりと聞いていたみっちゃんは、最後では笑うしかなかった。
しかし彰人は笑ってはいなかった。
笑わずに真剣な顔でお姉さんの話に返答したのだ。
「でも、ストレスで家族に暴力を振るったり、お姉さんのパンツとか見たりはしないんだよね。だったらそれぐらい…」
だからお姉さんはそれに答える。
「私のパンツなんてこっそり見てたらただじゃおかねー! 家から追い出してやる! しかしまーそういう分別はあるんだよ。中年親父の大抵はそういう分別はある。だから他所の若い娘にはニヤニヤして近づいても自分の娘はそういう厭らしい目では見ない。大抵の場合その境界線ははっきりしてるんじゃねーのかな。で、だからって中年親父のロリコン・女子小中高生好きは大目に見ろよって事?」
「えっ?」
話の終わりに凄みの効いた表情でちょっと睨み付ける様に彰人の方を見たお姉さんに、彰人は思わず恐怖を感じた。
だからみっちゃんが助け舟を出す。
「大人は直ぐ嘘を付くから信じちゃいけないって、小学生の頃友達に言われた事あるよ」
橋本紙夜里の事だ。
そしてみっちゃんは更に続けて話す。
「きっとそれは、そういう土壌があるんだね。大人になって社会に出ると、多分嘘を付いたり、納得のいかない事に目を瞑ったりする事が多くて、そういう事に慣れちゃうんだ。お姉ちゃんの話でそう思った。で、例えばそのストレスで二次元の小中高生に吐け口を求めるのはまーそれもグレーだと思うけどしょうがないとして。やっぱり現実にそれを求めるのは良くないよね。事によっては法律で決められた犯罪だし。だから中学生を煽て奉って、結局は自分の欲望に利用しようなんていうのはとんでもない話だし、それに乗せられる子も馬鹿だと思うし、何よりもやはり自分の都合で簡単に大人を信じ過ぎているんだと思う」
「ほーやはりみっちゃんは正義感が強いねー。で、だからこれからその根本って子をぶん殴りに行く訳か。目を覚ませーって!」
「いやいや殴らないから」
みっちゃんの話に口を挟んだお姉さんに、みっちゃんは引き攣った笑いでそう答えた。
それに対してお姉さんはにやりと笑うと食べ終わったアイスの棒を直ぐ脇にあるコンビニのゴミ箱へと投げ入れながら、しか少し気になる事でもあるのか、独り言の様に軽く再度口を開く。
「でも正義ってなんだろうね。大多数の意向に沿ったもの? 民主主義の意向? でも現実にはマイノリティの主権人権が叫ばれる昨今、本当の正義や本当の正解なんてあるのだろうか? 必ずプラスに動く力の先にはマイナスも生じるだろ。そもそも人はなるべく誰の事も傷付けたくなければ、いっそ誰とも関りを持たず干渉しない方が良いのではないのだろうか」
その言葉に今度は彰人が少し大きな声で言い返した。
「あの、えっと、難しい事は分からないけど、今回のはみっちゃんは僕の相談に乗っただけで…結局は僕が彼女に関わりたいんです。根本さんが心配なんです!」
「「 お~!」」
次の瞬間みっちゃんとお姉さんは、二人揃ってそう声を上げた。
つづく
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