表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第二部 未成熟なセカイ~中学生編
138/139

第8話  かおりちゃんグラフィティ その⑧

(黄色の縞々?)


 脳内でその言葉を反芻したみっちゃんは、突然我に返った様に顔を上げると立ち上がった。

 その顔はパンツを見られた事で火照っている。


「おっ」

 

 そして隣にいたお姉さんはそんなみっちゃんの方を見上げながら何やらワクワクしたのか声をあげた。


「ちょっと!」


 立ち上がったみっちゃんはパンツを見られた事に怒り心頭男の子に文句を言おうとして、初めてその顔を見ると一瞬その先の言葉を見失う。

 そこに立っていたのが、木村彰人だったからだ。

 彼の服装はカーキ色の短パンにボタンを留めず胸元を開けた薄い青のシャツ。その中には黒のTシャツが覗いている。


「やあ」

 

 まだ頭の中に二種類のパンツの残像でも残っているのか、彰人は何処か二ヤけた恥ずかしそうな顔でみっちゃんと目が合うとそう言った。

 だからみっちゃんも急に怒りよりも恥ずかしさが先行して来て、少し早口で話し出す。


「見えなかったって言うなら何で色まで言うの! それって見えてたって事じゃない!」


「だって見てない見えてないで通しても、きっとこの前みたいに色々聞いて来てやっぱり見たって言われるんだろ。だったら半分は正直に言おうと思ったのさ」


 みっちゃんの言葉に何故か前回から学習したと言わんばかりに自信あり気に答える彰人。


「今のは見えなかったで通せば私はそれで良かったの! 色や模様なんて言われたら間違いなく見られたって事じゃない!」


「うん、まぁ…間違いなく見た。こっちのお姉さんのが高そうな艶のある黒のパンツで、みっちゃんのがたまに見かける女子が良く履いてる様な綿? ちょっと柔らかみがあるパンツで黄色の横縞模様が入ってた」


「あー! アンタ開き直ってなんて事細かく言ってんのよー!」


 彰人の言葉にみっちゃんは更に顔を真っ赤にして、今は見えていないパンツを更に隠そうとでもする様にスカートの裾を下へと引っ張りながらそう叫んだ。


「で、素材は綿で当たってた?」


しかし開き直った彰人は最早そんなみっちゃんの言葉等気にもせず、自分が気になっている点を尋ねる。


「知るかー馬鹿野郎~!」


 だから彰人の言葉にみっちゃんがそう叫んだ時だった。

 それまで二人の様子を黙ってしゃがみながら見ていたお姉さんが立ち上がったのは。

 そして二人の間に割り込む。


「アハハハハ。で、この男子みっちゃんの知り合いなの? じゃあアイスは奢って貰えないか~パンツ見せ損だ…」


「そ、そんな事ないですよ。奢って貰いましょう! ねぇ見たんだからアイス奢ってよ!」


 彰人の態度に面白くなかったみっちゃんはお姉さんの言葉にそれまで馬鹿々々しいと思っていた事でも、アイスくらい奢って貰わなければ割に合わないという心境になっていたのだ。

 

「自分の下着の素材ぐらい分かってろよな…えっ? ああはい。奢ります。アイスくらいなら俺お金持って来てるからそれくらい奢ります」


 まだぶつくさ前の話の事を呟いていた彰人はみっちゃんの言葉にちょっと驚くと慌ててお姉さんの方を向いてそう言った。

 だからみっちゃんはまた少し機嫌を悪くする。




 それから直ぐ彰人がアイスを買いにコンビニの入口へと向かうと、それを目で追っていたお姉さんは隣のみっちゃんへと耳打ちした。


「なに、彼氏? ここで待ち合わせてこれからデートだった」


 それに対してみっちゃんは慌てて否定する。


「違いますよ~! なんであんなエロい奴。…それにアイツにはもう好きな人がいるから」


 後ろの方はちょっと詰まらなそうに話すみっちゃん。


「そうか。結構相性良さそうだったのにな。で、わざわざ待ち合わせするのは何かあったのか?」


 そんなみっちゃんの様子にお姉さんは気を遣う様に、しかし好奇心は旺盛にそう尋ねた。

 お姉さんは昔からみっちゃんの師匠だ。

 心配している様な口調で顔は興味津々にニヤニヤしているお姉さんでも、尋ねられればみっちゃんは答えない訳にはいかない。


「実は…」


 だからみっちゃんはG.Wの少し前、彰人から根本のネット配信の話を聞かされた所から経緯を説明した。

 ただし小学校時代の因縁とかは言わなかったので、根本と自分の関係は小学校同学年の知り合いという形で止めた。その辺りを詳しく話すには紙夜里や美紗子、水口についても話さなければならなくなるからだ。


「フーン、なるほどね。で、これからその根本って奴の家に殴り込みに行くのか」


「殴り込みって⁉」


 話を聞き終えたお姉さんの言葉に慌てて否定する様な声を上げるみっちゃん。

 それに対してお姉さんはもう一度口を開く。


「違うのか? それからその根本って言うの、お姉ちゃんがいないか? のぞみって言うの」


「のぞみ? 聞いたことないな~。大体知り合いってだけでそんなに親しい訳じゃないし。ただ私は同級生が何か危ない事してるから、大変な事にならないうちに何とかしようて思っただけで」


「本当にそれだけか? 何たる正義感」


 お姉さんは何処かみっちゃんの行動原理を疑った言葉を発した。

 そしてそれは当たりだった。

 かつて小五の時、美紗子を虐めから守る為と紙夜里を傷つける発言をした事への怒りから根本を殴った事が今でも引っ掛かっているのだ。

 それは正義の鉄拳だった。正しい事をした筈だった。

 しかしその後それが原因かどうかは分からないが、根本かおりは激しく吃る様になったのだ。


「本当にそれだけだよ」


 だからみっちゃんはお姉さんにそう答えた。

 

「そうか。それで私がお姉ちゃんって言ったのは、一つ上の先輩に根本のぞみって言うのがいてな。今はもう卒業して高一だけど。その先輩が良く自分の妹を『頭がおかしい』とか『馬鹿だ』とか罵って虐めてるのを自慢気に話していてさ。なんかそれが凄いムカつくから卒業式の日に虐めてやったんだよ。だからもしかしてその根本がその時の根本先輩の妹かもって思ってな」


「へーそれは分からないな。私ホントに根本の事詳しくないから。兄弟の事とかも」


 そんな話をしていると、両手にアイスを持った彰人が戻って来た。


「お待たせ~」


 それはまるで根本の事など忘れている様で、みっちゃんはこれもまたちょっとムッとした。


(全く男子は、ちょっと綺麗なお姉さんなんか見ると直ぐにこれだ。こいつ、今日何の為に待ち合わせたのか分かってるのか?)





            


                つづく


いつも読んで下さる皆様、有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ