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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第二部 未成熟なセカイ~中学生編
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第6話  かおりちゃんグラフィティ その⑥

 自宅を飛び出し駆け出したみっちゃんは、ついいつもの癖で遠回りの道を走っていた。

 それはここ二年くらい日課の様に帰り道に通っていた道。

 かつて橋本紙夜里が住んでいた家の前を通るルートだった。

 

(紙夜里…)


 家の前もスピードを緩めず走り抜けて行くみっちゃん。

 みっちゃんはもう一年以上前からこの家が売りに出されている事は既にその頃から知っていた。

 それでもなお昔を懐かしむ様にそこに足が向かうのは、大人がはるか昔を懐かしむのとなんら変わらない理由だった。思い出に年数は関係ないのだ。

 昨日の事でも十年前の事でも、人の中に積もる思い出の質量は変わらないのだ。


「はぁ はぁ」


 紙夜里の家の前を過ぎて暫く経ちもう少しで国道へと繋がる坂道へと辿り着く手前、高台の住宅地を走り抜けて来たみっちゃんは流石に息も上がり気味になっていた。

 しかしそれでも約束は約束だ。

 根本の事などちっとも好きではないが、それでも自分の知っている人が何か危ない事をしているのを見逃す事はみっちゃんには出来なかった。それに何故根本が木村彰人との話に自分の名前を出して来たのかも以前謎だ。

 だからみっちゃんは坂道への手前で走るスピードを少しずつ緩めると、徐々に歩きに変えた。

 そしてポケットからスマホを取り出すと、現在の根本の配信を確認して見る。


『じゃじゃあいくよ~』



 アプリを開き根本のチャンネルを見ると、既に野球拳は始まっていた。

 根本の声に合わせてコメント欄に『グー』という文字が上がる。

 じゃんけん相手は都度指名されているのかこの瞬間上がっている文字は『グー』だけだった。

 そしてモニターの根本の掌はチョキの形に開いている。


『ま、負けちゃった~』


 ちょっとぶりっ子した様な声色でそう言う根本に、次の瞬間上がる歓声。


『うお~!』


『やったー三連勝!』


『ぬーげ! ぬーげ!』



 何やら異常に盛り上がっている様子にここで初めてみっちゃんは現在のアクセス数に目を向けた。


(に、2000! なんでこんな見ている人がいるんだ! 一体何処で知った? つーかこれなら同じ学校の奴とかこの町の人とかだって中には見ている人いるんじゃないか?)


「まったくむっつりスケベ共が」


 だからみっちゃんは思わずそう呟いた。

 そしてその間にもモニターの中の根本はモゾモゾと着ていた緑色のトレーナーを脱いで行く。

 その様子を何やら見てはいけないものを見ている様な変な緊張感を感じながら眺めるみっちゃん。

 緑のトレーナーの下にはもう一枚、今度はピンクのトレーナーが姿を見せた。

 良く見るとなるほど、根本の首周りには幾重にもシャツの首が見える。多分トレーナーもまだ後一~二枚は着ているのだろう。そうすると下のスカートやその中にも…そこまで考えるとみっちゃんは少しだけ安心した。


(馬鹿は馬鹿なりにちゃんと考えてはいる訳か…しかし、それにしてもこいつ、服を脱ぐ時妙に色気があったな~。なんだこいつ。中はまたトレーナーだって途中で分かっても、それでも見入っちゃったもんな~。もしかしてこいつ、演技とかそういうのに才能とかあるのか?)


 思わず根本に感心してニヤリと唇の隅を上げたみっちゃんは、しかし直ぐに「ん?」とそれに違和感を感じると、


(なんで私があんな奴に感心してるんだ⁉ そもそも中学生でこんな配信をして、更に野球拳なんてしている奴だぞ! やっぱりあいつはおかしい!)


 と直ぐに思い直した。


 そしてとにかく配信は既に始まっている訳だから、さっさっと木村彰人と合流して根本の家に行き、この配信を止めさせなければと、下り坂へと辿り着いたみっちゃんは、そこから下りを利用してまた駆け出した。


 勢いに乗り下る坂は、思いの外速いスピードが出た。

 それは最早自分の足が勝手に前に出る様な、自力では止まれない様な足の回転だった。

 それがまたスカートの所為で大股では走れないので、細かく足を交互に前に出す感じで走っているみっちゃんにとっては、万が一ここで転んだら下までゴロゴロと転がって行くんじゃないかと不安すら与える恐怖の駆け足だった。

 しかしその恐怖を乗り越えた先には国道が待っている。

 車の通りの多い国道まで出ればその沿道には店舗も多く立ち並び、その中には待ち合わせのコンビニもあるのだ。

 だからみっちゃんは恐怖を克服する様に目を大きく見開いて疾風の如くその坂を駆け抜けた。

 そして遂に下り坂を過去最高の速さで攻略したのだ。

 そんな訳だからかなり高揚した気持ちで今度はコンビニへと向かうみっちゃん。

 しかし今度は走ったりはしない。

 国道沿い既にコンビニの看板は見えている。

 目に見えて安心したみっちゃんは、ここからは呼吸を整えながら普通の歩幅で歩いて行く事にしたのだ。


 コンビニの手前の店舗の壁が切れ始めると、先ずは駐車場が見えた。

 地方都市のコンビニは車での利用客が殆どなので、先ずは大きく駐車場を取り、奥まった所にコンビニ本体がある場合が多い。そしてここのコンビニもそんなタイプだった。


 コンビニの駐車場に入り、木村彰人の姿をキョロキョロと探しながら店の方へと向かうみっちゃん。

 しかし彼はまだ来てはいないのか、店の外にはそれらしい姿は見えなかった。

 見えるのはミニスカートでパンツを見せる様にコンビニの脇にしゃがんでいる若い女性ただ一人。


(気づいてないのかな~あんな風に座ったらこっちからパンツ丸見えなのに…)


 そんな事を思いながらもついぞいつもの癖で、みっちゃんはそのパンツをちょこちょこチラ見しながらコンビニの方へと向かって歩いた。

 だからちゃんと顔は見ていなかったのだ。その女性の高級そうな黒のパンツはちゃんと確認していたとしても。


「よお、みっちゃんじゃないか」


 パンツ丸見え女は、みっちゃんの知り合いだったのだ。






             

                つづく


いつも読んで下さる皆様、有難うございます。

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