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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第二部 未成熟なセカイ~中学生編
135/139

第5話  かおりちゃんグラフィティ その⑤

お待たせしました?

本編1年半ぶりの更新です。

 そして話は最初に戻りゴールデンウィークの初日である。

 時間は午後の二時半。

 みっちゃんは自宅玄関前にスマホを片手に立っていた。

 木村彰人と近くのコンビニで待ち合わせをする事になったからだ。

 今朝見た根本かおりの配信チャンネルのアーカイブで、大きな動きがあったのだ。


(あーもう、面倒臭い!)


 だからみっちゃんは今回も心の中でそう叫ぶと、玄関前のタイルを強く叩くように踏み出して、家の前の道路を勢い良く走り出した。


 事の顛末はこうだった。

 今朝方みっちゃんが昨夜配信分の根本の動画を見ていると、何やら話が脱衣じゃんけんをしようという方向に流れて行ったのだ。

 首謀者は普段からコメントを良く寄せている視聴者の『寅』と『健』と『裕次郎』。

 ハンドルネームからして間違いなく中年オヤジだとみっちゃんが確信していた三人だ。


(それにしても寅さんなら兎も角、健さんと裕次郎で脱衣じゃんけんはないだろう~! ウチのお父さん世代が起こるぞ!)


 そんな事を思いながらも懸命に走るみっちゃんは、しかしいつもの様に颯爽と走る事が出来ないでいた。

 何故ならばスカートだからだ。

 どうにも股の辺りがスースーするし、歩幅も大きく踏み出せない。

 昨日のうちから今日は彰人と会う事は決まっていたので、ついスカートなんて履いてしまったのだ。


(全くもー、私も馬鹿だ。なんで根本かおりの事を好きな男子に会う為にスカートなんか履いてこんなおしゃれまでして来ちゃったんだー! そんなに男に飢えてるのか私? 何考えてるんだ私~!)


 マラソンならいざ知らず、現在それでも全力疾走しているみっちゃんだ。

 色々な事が頭の中に浮かんで来ても何一つ纏まる筈もない。

 だからみっちゃんはただひたすらストレスだけを溜め続けながら、もはや自分が何の為に走っているのかも良く分からなくなりながら、ただ勢いよく飛び出した鉄砲の玉の如く走り続けた。



 

 さて、それから今度は少し時間を戻し昨夜の根本かおりの場面。

 夜も十一時に差し掛かろうという頃、彼女は自分の机の上にスマホをスタンドで斜めに立て掛けながら、その画面に向かって小声で話しかけていた。


「うん、す好きだよ。こ、これでいい?」


寅 『ひゃー! 可愛い~♪ そんな事言われたら本気で好きになっちゃうよ~!』


健 『俺も! 俺ももうかをりちゃんなしでは生きていけない~!」


 根本のスマホ画面に流れるコメント。

 そして彼女は自分のハンドルネームを”かをり”としていた。

 自分の名前を殆どそのまんま使ったのは、自分を見られたいという自意識の顕れだ。


「ほ本当? ほ本当にそそんな言葉だけでそそんなにう嬉しいの?」


裕次郎 『嬉しいさ。こんな可愛い子にそんなこと言われて嬉しくない奴なんていない』


健 『それな!』


寅 『ホント、かをりちゃんは俺達のアイドルだから♪』


「ア、アイドル!」


 その言葉に目を輝かせ頬を少し赤らめさせながら根本は、スマホの方へと少し身を乗り出した。


「わ私がアアイドル…」



寅 『そうそうアイドル!』


裕次郎 『かをりちゃんのチャンネルは俺らのアイドルチャンネル♪』


「おー!」


 この時煽てられている根本かおりの脳内では、既に自分が華やかな衣装を着てスポットライトのあたるステージに立っている姿が再生されていた。


「で、でもわ私ど吃ってるし、う歌なんてう歌えないよ」


健 『そお? でも最近は前ほどは吃ってないんじゃない』


裕次郎 『そうそう、緊張して吃ってるんだと思ってたww だから最近は緊張も解けて吃りも減って来たのかな~と』


「へ減ってき来てる?」


 それは事実だった。

 確かに根本はあれ程治らないでいた吃りが配信を始めて数か月、最近では少しずつ変化が現れていたのだ。

 しかしそれは熱中してやっている配信の時だけで、学校ではまだ吃りが強く残っていたので、当の根本はその変化に気付かずにいたのだ。


寅 『アイドル活動は何も歌だけじゃないよ。グラビアだってアイドルだし、要は可愛けりゃあ良いんだよ。そうだ、イベント配信なんてどお? アイドルと言えばイベントだから』


「いイベント?」


裕次郎 『お、そりゃあ良い♪ ただおしゃべりするだけじゃなくて視聴者参加型の配信にすればアクセス数もきっとグンと上がるぞ』


「し視聴さ参加型?」


健 『じゃあさー視聴者の何人かと野球拳やるってのどお? かをりちゃんの声に合わせてコメントでグーとかチョキとか言って、負けたらかをりちゃんが脱ぐのw』


「ぬ脱ぐ!?」

健 『大丈夫だよ~際どいところまで負けたら止めれば良いんだからw』


 脱ぐという言葉に根本が大きく反応するのを見ると、健は即座にそんなコメントを打った。


寅 『おーそりゃ良いよ! それならかをりちゃんの可愛さもきっと際立つし、絶対視聴数上がるしファンも増えるよ』


「ふファン?」


寅 『そうファン。俺達みたいなかをりちゃんファンw』


裕次郎 『それに例え負けて下着くらいまで行っても、下着なんて要は水着と変わらないもんなw アイドルならそれくらいグラビア撮影で当たり前だしw セパレート水着♪ セパレート水着♪』


健 『おー水着だって良いよな♪ かをりちゃんの水着姿見てみたい♪』


寅 『俺も俺も! かをりちゃんなら下着でも水着でも悶絶状態だよ~! てかこの企画絶対良いよ♪ それに明日からG.Wじゃん。俺も含めて仕事休みの人多いだろうから早速明日の午後あたりからやったらG.W中ずっと配信記録的視聴者数になるんじゃない♪』


「き記録的、あアイドル、みみんながわ私だけを見てくくれる…」


 配信すると必ずコメントを寄こすこの三人の言葉は、彼女に大いなる夢と希望を与えた。

 根本は中学生特有のまだか細い腕や足をわなわなと震わせながら椅子に座り、大勢の自分のファンに囲まれ歌い踊るアイドル配信者となった自分を想像していた。

 それにこの業界で大きく視聴者数を増やす為には下ネタやちょっとのエロはある程度当たり前な事は彼女も知っている。人間は殆どみんな何処かでHなのだ。

 だから根本にとってこの提案は考えるまでもなかったのである。


「わ、分かった。ややるよ。あ、明日。みみんながの望むなら」


 こうして根本かおりは野球拳(脱衣じゃんけん)配信をする事になったのだ。




 

                つづく

いつも読んで下さる皆様、有難うございます。


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