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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第一部 未成熟な想い~小学生編
107/139

第104話 美紗子が泣いた日その㉟ そのころ

 

 授業開始のチャイムが鳴ってから、どれ程の時間が経っただろうか?

 

 お腹を押さえ、片足を引き摺る様にしながら階段を上る紙夜里は、俯き加減でそんな事を考えていた。

 みっちゃんの事を保健室から出させてから十分程経った頃、先生は緊急の会議があるとかで、「ちゃんと寝ていなさいよ」と紙夜里に声を掛けると出て行った。

 それはまさに根本かおりが言っていた通りで、紙夜里の計算通りの展開だ。

 だから紙夜里は先生が出て行って、その足音も聞こえなくなると、急いで布団を剥いではベッドから下りたのだ。そして保健室の扉を開けると、左右を確認して抜け出す。

 ただし、体中痛く、特にお腹は相当痛かった上に、くじいた足もまだ痛かったので、その動きは決して俊敏とはいえない。

 ゆっくりと、ただひたすら、みっちゃんが待ち、美紗子がいる五年四組に向かう事だけを念頭に置いて歩いた。

 そして二階へと上る階段の踊り場まで来た時、紙夜里は幸一に出会ったのだ。


「あ、橋本さん」


 階段上から突然降って来た声に、それまで俯いて歩いていた紙夜里は突然の事に驚いて顔を上げる。


「あなた…」


 そこで言葉を詰まらせた。

 何故こんな所に幸一がいるのか理解出来なかったからだ。


「先生たちを探しているんだ。一度は一階まで下りて職員室にも行ったんだけれど見つからない。橋本さん分かるかい」


 しかし幸一のこの言葉で、紙夜里は直ぐに全てが理解出来た。


(つまり自分達では手に負えない様な出来事が、五年四組では既に起きているという事か。みっちゃんは間に合わなかったのか? 美紗ちゃんは今頃…だとしたら何でこの人はこんな所にいるの?)


「ねえ、橋本さん」


 幸一の話に思わず考え事をしてしまった紙夜里に、急いでいる様子の幸一は再度尋ねた。


「あ、ああ、それなら隣の棟の会議室かも知れない。PTAとかで良く使ってる。保健の先生が会議だって言っていたから」


「そうなのか。じゃあ急いで行かなくちゃ。橋本さん有難う」


 幸一は紙夜里の話に礼を言うと、直ぐに背を向け、階段の下りて来た道を、今度は逆に上り始めた。

 二階に隣の棟と繋がる通路があるからだ。

 だから慌てて紙夜里は、その遠ざかって行く幸一の背中に声をかけた。


「ねえ、あなたは何でこんな所にいるの? こんな事は誰かに任せて、あなたは美紗ちゃんの側にいるべきではなかったの?」


 紙夜里はいつもよりは大きな声でそう言ったつもりだった。だから聞こえていないという事はない筈だ。

 しかし幸一は駆け足で階段を上り続け、決して立ち止まり振り返る等という事はなかった。

 そして、最後の階段も上り終え、二階の廊下へと幸一の姿が消えてなくなる頃、踊り場でその様子を見ていた紙夜里は叫んだ。


「弱虫! 臆病者! 卑怯者!」


 きっと幸一は逃げ出して来たのだと、紙夜里は思ったからだ。



 その頃異様な雰囲気に包まれた五年四組の教室では、タイミングを見計らい動き出そうかと考えていた太一が、そのタイミングを見失い、頭を左右に揺すりながら、美紗子のパンツに見入っていた。

 太一の席からでは斜め横の角度になり、美紗子の下半身の方が良く見えなかったからだ。

 首を伸ばし、ようやく横から見えるくらい。特等席の後ろからのアングルは、太一の席からでは絶対に無理だった。


(くそ~! もっとちゃんと見たいのに~! 美紗子の後ろの席の奴らはきっと丸見えなんだな。いいな~ちくしょう! それにしても美紗子、綺麗な肌だな。丸いお尻も太股も、柔らかそうで、優しい甘い感じがする。当たり前だけど、俺のゴツゴツしたお尻なんかとは全然違うや。やっぱりいいな~美紗子は。美紗子のパンツならいくらでも見ていられるぞ~♪)


 良く見える場所を探して、席に座りながら頭を上下左右に動かす太一は、そんな事を考えながらもこの時はクラス全員の男子が見ているという事をあまり深くは考えていなくて、だから嫉妬心も湧かずに、美紗子のパンツ丸出し姿をとにかく記憶に留めようと必死になっていた。


 そしてそんなクラス中の視線は、美紗子自身も感じていた。

 はっきりとした視線ではないが、男子も女子も好奇に満ちた目で、チラチラと本人的には周りに気付かれていないつもりで覗き見るように見ている目。それは美紗子の下半身、曝け出されたお尻へと集中しているのは状況から判断しても間違いはなかった。

 だからもうこの時の美紗子は、体だけの震えだけではなく、心まで怯えてガクガクと震えていた。


(こんな事までされたら、もう恥ずかしくて学校に来れないよ。来れない…しかもこれから毎日こんな事が続いたら…ああ、もうなんでもいいから開放されたい。楽になりたい…)


 目をギュッと閉じ、誰の顔をも見ず、床にうつ伏した様にしてその表情も隠しながら美紗子は、この状況から逃がれる様に全く違う楽しい事を想像してみたり、もういっそ、根本かおりの言う通りに全て従って、楽になろうかと考えてみたり、心がポロポロと、虚ろになって来ていた。





            つづく

いつも読んで頂いて有難うございます。

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