第103話 美紗子が泣いた日その㉞ 止まらない遊び
「やめて。やめてよ!」
そう言いながらスカートを戻そうと教室の床の上に座り込む様になっている美紗子は、両の手で懸命にこちらもスカートの裾を引っ張るが、俄然上から引き上げる根本の方が有利なのか、スカートの後ろは三角形に口を開けてそのパンツを曝け出していた。
「やめろよ! そんな事誰も喜ばない! 嬉しくなんかない!」
「やめて! もうやめて!」
そしてその光景に口々に叫ぶ五十嵐と悠那。
「やめなさい! それはもうれっきとした虐めよ! 今すぐやめなさい!」
水口も続く様に叫ぶ。
しかし根本を非難する声はそれだけだった。
静かな教室には三人の叫び声だけが響くと、その後には追従する者もなく、ヒソヒソと話す声すらも聞こえる事もなく、また直ぐに静寂が戻って来た。
それはまるで、教室全体が恐怖の中、今行われている出来事を好奇の目で眺めている様な状況で、根本に加勢する者もいなければ、非難する者もいないという、クラス全員が傍観者に徹しているかの様な光景だった。
「フン、水口さんは所詮は副委員長でしょ。委員長は何も文句を言ってないじゃない」
だから根本はそんな沈黙の中にあるクラスを良い事に、そう言うと前方教壇の側の席に居る学級委員長の方に目をやった。
「委員長だって、美紗子のパンツ見たいよね。チョロチョロ後ろ振り返って、本当はさっきまで覗いてたんじゃないの?」
「いや、僕は…」
根本の言葉に慌てて言いながら振り返った委員長は、しかしやはり恐ろしくて尻込みしては言葉を濁し、更にはちょろっと美紗子のお尻の方をチラ見しては前を向き直した。
「はははは、やっぱり委員長だってパンツが見たいんじゃない。男子ってみんなエロイよね~♪ だからこんな淫乱女が人気が出るんだ。はは、ほら美紗子、それじゃあ御要望に応えてもっとパンツ良く見せてあげなよ~純白のパンツ。白パンだよ~」
そう言うと根本は、美紗子の三つ網の片方と、スカートの裾を更に強く勢い良く上へと引き上げる。
「痛い!」
それに対して美紗子は叫ぶと、それまでなるべく見えない様にと、床にお尻を付けていたのを、思わず腰を浮かせてしまう。
「ほーらこれで良く見える様になった♪ でも美紗子ならもっと凄いの穿いてるかと思ったから、意外だね~。こんなの私達と同じ子供向けのパンツじゃん。あ、パンツのゴムで腿の部分に跡が付いてる。あはははは」
根本は楽しかった。楽しくて笑いが止まらなかった。
「いや、これは虐めだけれど虐めじゃない」
その頃扉の隙間からこの様子をずっと見ていたみっちゃんは、水口の言葉が引っ掛かり、そう呟いていた。
「今回のは集団じゃなく一対一だ。しかも継続的とは取られずに、今回のみの単発とカウントされるだろう。その場合学校はきっと「悪ふざけが過ぎた」とか、「喧嘩の延長線」等と言った言葉で誤魔化すだろう。「虐めはなかった」と…あの時と同じだ…」
それは三年の頃の出来事だった。
その頃もみっちゃんはクラスでそれなりの力を持っていた。
そしてそんなみっちゃんの側にいつも寄って来る女子の一人を、当時みっちゃんはウザいと感じては無視をしていたのだ。
力のあるみっちゃんが無視する事で起こる迎合の集団無視。更には頼んでもいないのに始まる虐め。
最終的にみっちゃんは、自分の所為でクラスの女子が一人虐められていると、先生に告白したのだが、しかし先生は告白したみっちゃんを褒めるだけで、虐めとして認定はしなかったのだ。
『あなたが自分からそう言って来たのなら、もうそういう事もないのでしょ。それなら良かったじゃない。良く勇気を出して先生に教えてくれたね。有難う』
思い出すだけで吐きそうになる言葉。
悪いはずの自分が責められるどころか褒められ、虐められている当人へは聞き取りも相談もなかった。
(これが現実だ…そしてあの時、『ごめんね』の一言も言えなかった私も現実なんだ。あの子は何も悪い事はしていなかったのに、私に『ごめんなさい、悪い所があれば直します』とまで紙に書いて寄越して来たんだ。あの子をそこまで追い込んで、そんな風に考えさせる様な事をしたのは私なのに…あの子の頭をおかしくしたのは私なのに…だからもう、誰にもそんな事はさせない。誰もそんな風に理不尽な理由で謝らせない!)
みっちゃんは、美紗子のパンツを睨む様な目で見ながら、拳を強く握ると、再度そう強く決意したのだった。
つづく
いつも読んで頂いて有難うございます。





