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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第一部 未成熟な想い~小学生編
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第102話 美紗子が泣いた日その㉝ 新しいゲーム

 匍匐前進ならぬ、四つん這いの格好で五年四組の前の廊下を後ろから教壇のある前へと進んで来たみっちゃんは、ついにその扉へと到達すると、そのままの格好で静かに、音の出ない様に慎重にその扉を横へと引いた。

 それはあまりにも小さな隙間では全体が見通せないという考えから、みっちゃんの顔のサイズ程の広さまで開かれた。

 当然中にいる生徒達の中には、そんな風に覗いている事に気付く生徒もいるかも知れないという危険は孕んでいたが、その点はみっちゃんは気にしていない。


(気付かれてもそれを根本に伝えて加担する奴はいないだろう。それに万が一根本自身に気付かれても、その時はその時だ。根本に向かって猪突猛進、飛びかかればいい)


 そんな相変わらず何処か無計画なみっちゃんの考えも、しかしこの場合は何も危惧する事はなかった。

 生徒達の表情の見える前から覗いたみっちゃんの目にした光景は、殆どの生徒が顔を俯かせて何も見ない様にしている姿だったからだ。

 それはまるで恐怖政治に怯えるかの様な生徒達。

 何も見ようとはせず、何も聞こえないふりをする姿。

 それ程までに美紗子を虐める根本の姿は周りの生徒達に既に恐怖を刷り込んでいたのだ。

 そんな異様な光景の中で、それでも果敢に根本へと挑もうとしたのであろう。奥の悠那の立ち上がっている姿や、やはり教室の中ほどで立ち尽くしている五十嵐の姿は、みっちゃんからは目立って見えて、すぐに確認する事が出来た。

 そして同じく立っていて、何かを引っ張る様な仕草の根本。


(いたっ!)


 その瞬間標的を捉えたみっちゃんは一瞬体を強張らせる。

 恐らくあの下に美紗子がいるのだろう事は容易に想像が付いた。それから先程まで声の聞こえた副委員長の水口も。


(さて、あとはどのタイミングで入るかだ)


 納得はしていても、それでも最初から殴ると決めて殴りに行くというのは、まだ何処かでみっちゃんを躊躇わせているのか、自分でも分からない所でみっちゃんはすぐさま根本へと突っ込んで行くという事はせずに様子を窺う。

 

(きっと紙夜里が見たなら自分の喧嘩の弱さも忘れて突っ込んで行くんだろうな。この光景は…)


 そんな事をつい冷静に考えては、ちょっと前の紙夜里の言葉も思い出す。


『美紗ちゃんと違うクラスになって一番に考えた事は、自分を守ってくれる人の確保。一人では生きて行けなそうな儚さで、小動物の様に、守ってあげたいと誰かに思わせる事。その人がクラスでそこそこ力を持っていれば、私も安心して生活して行ける。それがあなた』


(私は紙夜里が好きだ。でも紙夜里は、倉橋さんの事が大好きだ…)


 それがかせになっているのか。どうにもこうやって根本を前にした今、一度は決意を決めた筈なのにみっちゃんは何処か冷静で、暴力というものにやはり躊躇いを感じていた。


(口で言って通じる相手じゃない事は分かっているのに…)


 だから鋭い眼光で根本の姿を睨みながらも、まだ様子を窺う。



 その頃根本は、口を閉ざしたまま一向に言う事をきかない美紗子に苛立ちを感じていた。

 美紗子が泣き出したのは面白かったが、それだけでは長続きはしない。

 もっと泣き叫び、許しを請い続けなければ面白くない。

 周りを抑え付け、自分の力を見せつけ、怖い存在であるという事を植え付けるには成功したが、このままでは自分と入れ替わりに美紗子をどん底へと突き落とすという所まではまだ行っていないと根本は感じていた。

 みんなから蔑まれ、馬鹿にされ、虐められる対象。

 そんなストレスの発散の場を美紗子で作ってこそ、入れ替わり自分はクラスで大きな態度がとれるのだ。

 そう思えばこそ教壇の側へと美紗子の三つ網を引っ張り、彼女を連れて行こうと思ったのだが、これは意外と遅々として進まない作業だった。まだ教壇に辿り着く為には前に机が二つ程ある。


「あのさぁ美紗子、ちょっとはあなたも協力して歩いてくれないと困るんだけど。これはあなたの為にやっている事なんだから。みんなに謝らなければならない事があるあなたを、私は手助けしてるんだよ。それなのにこれじゃあ、私がまるで虐めてるみたいじゃない。ははははは」

 

 だからそう言いながら笑い出した根本は、当初予定していた事を前倒しして、美紗子の三つ網を掴む手を緩めると、彼女に近づき、もう片方の手でお尻の方の床についているスカートの裾をギュッと掴んだ。

 そしてその手を高く掲げる様に勢い良く上げる。


「きゃあー!」


「ちょっと何するの!」


 突然の事に悲鳴を上げた美紗子に、後ろから悠那の叫び声が重なる。

 持ち上げられたスカートの下からは、当然の事ながら恥ずかしさに僅かに震える美紗子のお尻を丸く包み込むパンツと、その先の白くて柔らかそうな太ももが現れた。


「何って、スカートめくり。本当は教壇の前で、みんなに見える様にやりたかったんだけどね。ほら、ちっとも協力的じゃないからなかなか前に進まないでしょ。だから待ち切れなくてやっちゃった。えへッ♪ だって男子はみんな美紗子のパンツ見たかったでしょ? クラスのアイドル憧れの女子。ほら、顔を上げて好きなだけ見なよ。それに女子だって、美紗子がどんなパンツ穿いているかは興味あったでしょ。見な見な、好きなだけ見な。てか、明日から毎日みんなで美紗子のパンツ鑑賞会するっていうのもアリだけどね~はははは」


 悠那の言葉に答えるかのように笑いながらそう話す根本の手にはまだ美紗子のスカートの裾は掴まれたままで、それは持ち上げられていた。



(くそー、なんて事するんだ!)


 その様子はみっちゃんの所からも椅子と椅子の足の間を通して良く見えていた。


(スカートめくりなんて酷いぞ! パンツを丸出しにするなんてずるいぞ!)


 だからみっちゃんは、心の中では怒りに打ち震えていても、直ぐに行動に移す事は出来ないでいた。

 椅子の足の間から白く見える美紗子のパンツ。

 悪い癖再び、みっちゃんは見入ってしまったのだ。






           つづく


いつも読んで下さる皆様、有難うございます。

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