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未成熟なセカイ   作者: 孤独堂
第一部 未成熟な想い~小学生編
104/139

第101話 美紗子が泣いた日その㉜ 気分は匍匐前進

(どうやらここからでは見えないな)


 首を伸ばして、悠那のミニスカート越しに上下左右色々な角度から美紗子の姿を探していたみっちゃんは、きっと廊下を通りかかる人でもいれば、スカートの中を覗こうとしているちょっと変態がかった小学生女子に見えた事だろう。

 しかし当の本人はそんな風に見える事など露程も知らず、確かにちょこちょことスカートの中に目が行きそうな事はあったけれども、今回はそれも自重して、教室の中の様子と、美紗子の所在探しに注視していた。

 そしてその結果出た答えがこれである。


(声から察すると、事態は教室の真ん中よりも前の方で起こっているみたいだ)


 しゃがんだままの格好でみっちゃんはそう考えると、教室に突っ込んでいた顔を引っ込めた。

 それからそのまま四つん這いの格好で廊下を教室の前の方の出入り口へ向かって歩き出す。

 きっと此処に紙夜里がいれば、多分そんなみっちゃんを嘲笑い「別に立って歩けばいいじゃないの」等と言うのだろう。

 しかしもうこの時のみっちゃんの心境は、戦場に駆り出された兵士の様な気分なのだ。

 相手に気付かれぬまま敵陣に進入し、そして人質を無事救出する。

 その為には細心の注意を払い、敵兵士達に見つからない様にしなければならない。

 だから気分的には廊下を匍匐前進ほふくぜんしんで進む事も厭わぬ覚悟だった。

 ただし、折角のスカートをその為に汚すのはとてもイヤだったけれど。

 兎に角、そんな理由でみっちゃんは四つん這いで廊下を進んだ。

 そしてその間にも中から聞こえて来る話し声には耳を傾ける。最新の状況を知る為だ。


「なに、手を出すの? 女子の私に手を出すの?」


 そして漏れ聞こえて来る声。


「なっ、そんな事を言うのはずるいぞ! 根本さんが倉橋さんの髪を離さないからじゃないか!」


「触ったら言うから! 変な所触られたって、先生とか大人に言いふらすから!」


「駄目だよ五十嵐君。暴力は絶対駄目だからね」


(倉橋さんは髪を根本に掴まれているのか…何処だ…あの横に垂れ下げてある三つ網か。それから最初の声はあれは根本だな。最後の声も聞き覚えがある…あれはあの副委員長の声か…男子の事は五十嵐と呼んでいたな。誰だ? あの山崎君とかいう倉橋さんの彼氏の友達か? はははは、根本に手を上げようとでもしたのか? アイツの事だ。触れようものならそれこそ胸を揉まれたとかお尻を触られたとか、下手したらパンツに手を入れられた位は軽く嘘を付くだろうな。フン、副委員長の言う通り、男子は下手に手を出さない方がいいかも知れない。しかしそうなると、女子で倉橋さんを救える程の奴はこのクラスにいるかという問題になって来る。詰まる所そうなると多少まだ面倒臭い気持ちはあるけれど、ここはやっぱり私がやるしかないのか)


 四つん這いで歩きながら、聞こえて来る声にそんな事を考えてはみっちゃんは、相変わらず教室に聞き耳を立てつつも作戦を考え始めた。


「ははははっ、暴力は絶対駄目だって? その暴力をさっき私に振るおうとしたくせに」


 中からは勝ち誇ったかの様な根本の笑い声。

 どうやらそれは副委員長に向かって言っている様だ。


(つまりは副委員長も既に根本にやられたという事か…全く、意外なダークホースだ。喧嘩に強い奴は大抵小五までには名が広まっているものなんだけど、根本かおりに至ってはその存在すら知っていた人は殆どいないだろう。何故これ程喧嘩が強いのに今まで目立なかったのか…つまりはその事自体自分でも気付かなかった。此処に来て緊急事態で暴力を振るったら強かったという訳か? やったら強かった? それならば自分の力に酔っているかの様なここ数日の行動も頷ける。自分が喧嘩に強い事に気付いて、人を殴ったり蹴ったりする事を楽しんでいる。そしてその強さから来る自信で更には人を怖がらせたり脅したりして楽しむ。人を跪かせて喜ぶ。きっと全ては最初の内の今が一番面白くて楽しいのだろう。まだ自分より強い者を知らない今が)


「フン、美紗子もさぁ、いい加減素直に謝ったら」


 考え事をしながら四つん這いに歩を進めるみっちゃんに、壁を挟んだ反対側ではまだ根本の話は続いていた。


 「ほら、みんなもこんなに困っちゃってるじゃん。男にはフラれて泣いて、こんな目にもあって、もううんざりでしょ。ちょっと土下座してみんなの前で謝って。自分は淫乱女でしたって認めちゃえば開放されて楽になるんだよ。ねぇ」


 飴と鞭といった所だろうか、口を閉ざしたまま何も語らない美紗子に、今度は優しげに、しかしとんでもない要求は変わらずにし続ける根本。


(話はここまで進んでいたのか…)


 その中に状況の全体像を理解したみっちゃんは、今はただ美紗子が根本の虐めに屈服しないでいてくれるのを祈るばかりだった。


(絶対に自分が納得していない理由で謝っちゃ駄目だ。それもみんなの前で見せしめの様な土下座なんて。そんな事をしたらもう自分も周りの人も、前みたいではいられなくなるんだ。全てが変わってしまう。その後の人生さえも。だから、そんな事は人が人にしてはいけないんだ!)





             つづく


いつも読んで下さる皆様、有難うございます。

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