プロローグ
マンションの一室。
夜七時を回ってもまだ電気は点けられず、暗いままの部屋。
共働きの両親はまだ帰って来ない。
隅の方で机の上のPCのモニターの明かりだけが煌々と部屋を照らし出す。
「美紗子・・・」
モニターに映し出された若い女性を見て僕は思わず呟いた。
それはチャットを利用した有料配信の映像。
美紗子に似ていた。
今となっては片時も忘れた事が無い。
寧ろ今の自分の状態の所為かも知れないが、年々想いが強くなる。
どんなに好きでも二度と会えない女性。
「ねー、ふざけないでちゃんと持ってよ」
笑いながら美紗子が僕に言う。
「この前貸した本どう? 面白かった? じゃあ明日続き持って来るね」
隣同士の席だった僕と美紗子は休憩時間も動かず、その場で二人で話していた。
小学五年の春。
僕らは良く、クラスメイトにからかわれていた。
今思うと、それでもあの頃はまだ良かったんだ。
僕が美紗子の想いを、あんな風にするまでは。
モニターの中の女性を見ながら想う。
会いたくても会えない女性。
僕の中のジレンマ。
どうしてこうなったんだろう。
これは僕の思い出?
それとも、誰かの思い出?