どうか、死なないで。
前作「どうか、夢であって。」を読んでから今作を読む事をお勧めします。
よその子お借りしてます。
槐ちゃんのお兄さんからメールが来た。
槐が倒れた、熱中症かも知れない。水分と身体を冷やすものは用意したけど、ひどくうなされているんだ、もし時間があれば来てやってくれないか。
丁度、私はクーラーの効いた部屋で、机の上の一輪挿しの花瓶に挿した、紫色の薔薇の花弁を一枚一枚引き千切って、楽しんでいた所だったから、びっくりして棘で指を刺しちゃった。傷口からはうっすらと血が滲み出してくる。こんな傷、舐めておけば治るよね。とにかく、槐ちゃんの所に行かないと。
部屋に入ると、
頬を紅く染め、眉を寄せて、苦しげに呻いている彼女が居た。
槐ちゃんには申し訳ないけど、
あぁいう顔。好きだなぁ。
首や腋の下なんかに氷囊を挟んで、衣服は緩めてある。お兄さん、しっかりした人なんだねって、ちょっと感心した。
こんな事で死なれたら堪らない。
あの子が死ぬのは、私がこの手で、私の羨んだあの子の全てを、ぐしゃぐしゃにして、奪う時だけだから。
手を握ってやった。とても熱かった。
私は、不安になって、力を強めた。
少しだけ、ほんの少しだけれど、握り返してくれたような気がした。
このまま事切れてしまいそうな、とてもか弱い力で。
槐ちゃん、死んじゃうのかな。
震えていたのは、彼女のものではなくて、自分の手だったのかも知れない。
ふわふわと柔らかい、クリーム色の髪に、長い睫毛の美しい、閉じた瞼にそっと口付けた。
彼女は何も言わない。少し、怖い。
どうか、死なないで。
私が貴女を手にかける、その時迄は。