初恋話
「初恋って、幾つだった?」
唐突に訪ねてくる親友の舞羅。
それと同時に周りに居る女の子も寄ってきた。
「初恋…ねぇ…」
私は、遠くを見つめて今までの事を思い返すが、それらしい事は何も浮かばない。って言うか、何がどうなれば"恋"になるのかもサッパリなんだけど…。
「あたしは、小一の時だったかな。席替えした時の隣の席の子が、凄く優しくてさぁ、その時に"キュン"ってなって、でも告白すること無く、卒業しちゃったんだよね。彼、中学受験してたから、それっきり会ってないかな」
ゆりが、懐かしそうに言う。
ふーん、好きになると"キュン"っとなるのか…なるほど。
「私は、中学に入って直ぐだった。同じ部活の先輩に優しくアドバイスされて、尚且つ、プレイがさカッコ良くてさ。告白したけどダメだった」
牡丹もその時を思い出したのか、ほんの少し頬が赤く染まってる気がする。
カッコいいね…。
「私は、小五の時かな…。隣のクラスだったんだけど、委員会が同じだったんだ。で、話してるうちに意気投合しちゃって、気付いたら、この人と居ると楽しくて安心するって思えて、つい告白紛いな事をして、逃げちゃった。それから、ギクシャクしだして、そのまま」
紅葉が、苦虫を噛むような顔をして言う。
うーん、楽しくて、安心ねぇ…。
って言うか、男と居て、安心できるか?
私には、無理な話だ。
「あたしはね、幼稚園の時に葵に恋したんだよ」
と、とんでもない爆弾を落としてくれる舞羅。
葵とは、私の事だ。
まぁ、その頃から男の子ぽい格好ばっかりしてたから、仕方ないと思うけど…、私は、歴とした女であって断じて男ではない。
私、坂本葵は十七才の高校二年生。
未だに初恋の経験ありません。
基から容姿が男っぽいので、女の子からの告白が耐えないのですが…。
女の子にしちゃ、背の高い172センチのスレンダーって言えば聞こえがいいかもしれないけど、まな板なのだ。
「葵は?」
周りが、期待を込めてこっちを見てくるが、私は何て言ったらいいのかわからず、黙り込んだ。
「ねぇ、もしかして、未だってことはないよね?」
舞羅が、図星を指してきた。
「その、もしかしてだけど…」
私が答えれば、驚いた顔をする。
「えっ…。何で。葵の周りには、一杯居たじゃんか」
う~ん、そんなに居たか?
「まぁ、男友達は居たが、好きになった奴は居なかったかな」
だって、気がね無しに話せるのって、男子ばっかだったし…。
女子って、有ること無いことを噂にしてるから、それが面倒でつい男子と居たんだよね。
この格好のせい(お陰)で、誰もやっかんでこなかったんだけどね(ごくたまに、取り持ってくれって頼まれたけど、面倒だし断ってたが)。
「えーー。勿体ないよ。葵、損してるよ」
ゆりに牡丹、紅葉までもが、首を縦に振る。
勿体無いって…。
「だけど、居なかったんだから仕方ないじゃん」
"キュン"ってなったり安心できる相手なんて、早々居るもんじゃないと思う。
私の言葉に、哀れみの視線を送ってくる四人。
「じゃあさ。今、好きな人居る?」
ゆりが周りを見渡してそう告げれば。
「今は、野球部の草間先輩」
誰?それ。
私の頭の中には、?が…。
「あぁ、セカンドの人だよね。確かにカッコいいよね」
「私は、水泳部の水森くん」
水森?誰だよ。
訳が、わからん。
「えー。どこが?」
あー、もう。全然わかんないや。
四人の話し、適当に聞き流しておこう。
そうして、四人が恋話に夢中になっていく。
う~ん、やっぱりわからん…。
悩んでいれば。
ガラッ。
と入り口が開いた。
「お前ら、まだ残ってたのか?下校時間とっくに過ぎてるぞ。さっさと帰れ」
担任の永瀬が、呆れた顔をして言う。
時計に目をやれば、十八時三十分を回っていた。
だから、部活動のやってる声が聞こえなかったのか。
「ヤバイ、お兄に怒られる」
紅葉が呟いた。
「紅葉、ガンバ」
何を頑張るのだろうか…。
私たちは、それぞれ鞄を手に教室を出ようとした。
「坂本。少しだけ残ってくれるか?」
永瀬が引き留めてきた。
「いいですよ」
まぁ、家に帰っても誰も居ないし(やることはあるが)少しなら、大丈夫だろう。
「じゃあ、葵。また、明日」
四人が、それぞれ言って帰ってく背中を見送った。