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北部方面隊奮戦記  作者: 松ちゃん
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8話 交渉決裂

「2-14より01。米戦車群接近、こちらからの距離3000。」

「01より2-14。こちらも視認した。砲撃体制を整え待機せよ。」

「2-14了解。」


 作業を終え数十分が立った頃、米軍の戦車部隊がやってきた。

 71連隊は扇状に陣をかまえ、連隊本部の10式は最も米軍の戦車部隊より距離が離れている。第2中隊の14番車と第1中隊の14番車が扇状の中で一番外側に位置している。

 90式の殆どは既にどの目標を砲撃するか視認した順に合わせていき、無線連絡でオーバーキルが無いように10式とデータリンクしながら修正を行う。


「こちらハトより01。捕虜の返還と交渉に向かう。」

「01よりハトへ。十分に警戒しろ、援護は任せろ。」

「ハトより、頼りにしています。」


 ハトと呼ばれる隊員が捕虜と一緒に戦車の前に出る。


『停車ーっ!』


 先頭車で指揮官らしい人物が合図を出す。同時に指揮車を守るように2両のM4が横に出る。完璧に訓練された動きだ。おそらくベテランだろう。


『お前は誰だ!?』

『独立混成第27師団だ!捕虜の返還と交渉を行いたい! 指揮官を出してくれ!』


 すると、戦車に乗っている男はいきなり笑い出した。


『わかった、捕虜の返還は礼を言おう。だが交渉は無理だな。我々はお前たちの敵だ。本土にまで乗り込まれている弱腰の奴と交渉して何になる?』


 ハトは捕虜を話さず怒鳴った。


『我々は日本軍とは違う!様々な事情があって浦和まで後退しないといけないんだ! それまで貴軍らには攻撃をしないでいただきたい!』

『ワッツ? 何を言っているんだお前は。我々は勝つために遥々こんなクソみたいな所まで来たんだ。そんな要求受け入れるわけがないだろう!』


 すると、捕虜の男がハトの助け舟を出す。


『頼む!こいつらは普通のジャップとは違う! どれもこれも俺達が知っている兵器を持っていない!話を聞くだけでも聞いてやれ!』


 男は怯えながら必死にうったえかけた。

 男……ロバート大佐は無線機を握りながら車内のメンバーに問いかける。


「あの怯えよう、どう思う?」

「きっと拷問かなんかにかけられて演技するように仕込まれてますね。」


 機関銃手のライヤーが答える。


「俺も思いますね。あのジャップ事殺っちまって、遅れた時間を取り返す必要があると判断します。恐らくあいつはジャップにとって使えると思われています。」

「だが仲間を撃つのはまずい。ライヤー、ジャップだけ撃てるか?」


 マケインと話していたロバートはライヤーへと判断を仰ぐ。


「ジャップが近すぎますね。離してくれれば必ずやれます。」

「わかった。」


 ロバートは無線機から手を話すとハトに話しかけた。


『取り敢えず捕虜を解放しろ!そうでなければ交渉には応じない。貴様一人の要求など飲めるか!』


 確かにそのとおりだと思ったハトは捕虜を戦車の方へ走らせた。その瞬間だった。

 ロバートの乗る戦車の車載機関銃が火を吹き、ハトの身体に何発もの弾丸を縫い付ける。身体に食い込んでくる弾丸はケプラーファイバー製の防弾チョッキをやすやすと貫通して後ろへと突き抜けていく。

 ハトは吐血しながらその場に崩れ落ち、頭が地面に衝突する頃には絶命していた。


「214より射撃許可求む!!」

「01より全車、射撃許可す! 交渉は決裂だ!!」


 瞬間、合計32発の砲弾が前から放たれると32両の戦車が吹き飛ばされた。

 M26もM4もたった一撃で鉄くずと変わり、ロバートを驚愕させた。


「敵車両だ!反撃しろ!」


 クソっ!ジャップが強力な対戦車兵器を持っているなんて聞いてないぞ!!


「マケイン!車両を発見し次第撃て!任せる!」

「アイサーっ!」


 ロバートのM26は前に全速で出ると右に旋回する。マケインは車両を発見したのか車体が大きく揺れた。だが命中弾は無かった。


「隊長!弾かれた! 奴ら、物凄いでかいぞ!!」

「なんだと!? そいつは戦車か!?」

「あぁ、例のモンスタータンクだ!!」


 そんなバカな。奴ら、どこにいやがる!?

 ロバートは胸の中で悪態をつきながら前方に広がる森を目を凝らして見回す。だが全く見つからない。いるとしたら恐ろしい隠蔽力だ。


「第3中隊、隊長車がやられた!」

「横からも砲撃を受けている!このままじゃやられるぞ!」


 指揮下の車両からも悲惨な無線が入る。


「各車体制を立てなおしてよく狙って撃て!奴らの隠蔽力は凄まじいぞ!!」


 ロバートが無線のスイッチを切った時だった。

 目の前に見たことも無い巨大な姿が現れる。M26とは違い、横に平べったく重装甲を思わせる車体と砲塔。そして倍はあるだろうかと思わせる主砲。


 なんなんだこいつは……


 ロバートを補足した90式はHEATFS弾を叩き込む。ロバートの車両は瞬時に大爆発を起こし鉄くずへと変貌させる。


「2-14。敵隊長車両を撃破。遊撃に移る。」

「01了解。全車遊撃に移れ。」


 松本は静かに命令する。

 隠蔽されていた戦車は森から姿を表す。米軍戦車はその圧倒的機動力と巨大な車体に度肝を抜かれた。米軍戦車は砲撃をするが動きながらだったのでなかなか命中しない。だが松本らのはスラローム射撃すら完璧にやる現代科学が誇る戦車。圧倒的な差を見せつける。

 90式も分厚い装甲(と言っても米軍戦車と比べて)によって次々に命中する砲弾をすべて跳ね返す。ガギン!という音が心臓に悪いが、圧倒的な防御力によってそれもすぐに慣れた。


「01より、側面には気を付けろ!」


 しかし、いくらリアクティブアーマーを装備した戦車でも側面や後方には弱い。何発も食らえば大破してしまう。松本はそれだけは避けさせた。


「永嶋! あのアンテナが多いパーシングをやれ!」

「了解!」


 永嶋は隊長車と思しきM26にロックすると砲弾を送り込む。勿論外れる訳がなく命中。砲塔を空高く舞い上がらせた。


 野郎……ふざけやがって……!


 松本は目の前で殺された味方隊員の事を考えていた。彼は死ぬ事をわかっていながら交渉役を買って出たのだ。そんな彼の勇気を彼らはぐしゃぐしゃに潰したのだ!!


「01より全車、砲弾が20発を切るまでは自由に射撃を行え!! 奴らを逃がすな!!」


 27師団の戦車2個中隊は米戦車1個大隊を壊滅へと追いやり始める。撃っても当たらない、当たったとしても弾かれるモンスタータンクを前にして米軍戦車は後退を始める。

 そんな時、彼らの前に新たな米軍戦車群が現れる。救助に差し向けられた2個大隊のうちの後続の1個大隊だった。


    ――――――――――――――――


「前方で戦闘が始まりました。」


 報告を受けたのはジャクソン大佐。ヨーロッパ戦線から戦い続けてきたベテランで、指揮下はM26パーシング32両、M4シャーマン114両だった。


「どうやら苦戦しているようだな。我々も前線に向かおう。」


 ジャクソンは無線のスイッチを入れる。


「前方で味方が苦戦している、全車突撃し、彼らの援護を行え!!」


 ジャクソンはスイッチを切ると自身の乗るM26は前線へと突撃する。最大速力40キロ。整地されているが残骸などが多いため30キロしか出ない。


「それにしてもたかがジャップ相手に苦戦するとはロバートは何をやらかしたんだ?」


 ジャクソンがせせら笑っているとその元凶がいきなり現れた。

 凡そ70キロは出ているだろう。考えられない速度で横を通過していく巨大なシルエット。味方が命中させている砲弾を全て弾き返し、奴が発砲すると味方は大きく吹っ飛んだ。


「な…! あいつは何なんだ!?何故あんなに早く動ける!?」


 これが見た10式は松本の乗車していて、スラローム射撃を繰り返していた。


 何故動いたまま命中させられる……!?


 ジャクソンは急ぎ10式に照準を合わせるように指示する。しかし速度が早すぎて砲塔の旋回が間に合わない。

 その間に何両もの戦車が破壊されていく。140両近くいた戦車大隊はいつの間にか90両近くまで減らされていた。

 

「あれがジャップのモンスタータンクなのか……?なんてこった……」


 ジャクソンが呟くと同時に意識が砲塔ごと吹き飛ばされる。前から突出してきた90式によって砲撃され破壊されたのだ。





「1-13より01!米軍戦車部隊の増援、凡そ100以上!!」


 新手の報告に松本は即決する。


「全車突っ込め!奴らを撹乱しろ!! 30分後煙幕を展開し後退する!」


 松本の10式は70キロまで加速する。道を外れている為無舗装だがそんなものは関係ない。草木を砕きながら前へ前へへと突き進んでいく。それにならい90式も着いて行く。

 全速での走行にもかかわらず砲弾は命中する。これが日本が世界に誇る命中率だ。

 米軍戦車は勿論撹乱する。見た事も無い機動力。絶対の命中力、そして90ミリ砲弾さえ弾き返す分厚い装甲。米軍戦車部隊は大パニックに陥る。


「だめだ!後退しろ!!」

「右だ、右にいるぞ!」

「左にもいる!!」


 無線は悲鳴に近い連絡が交わされる。しかし彼らを指揮するジャクソンの車両は既に破壊されており、返事は何も来なかった。

 30分後。いきなり頭上から真っ白い煙幕が垂れ下がってくる。濃密で、しかも展開速度が早い。あっという間に視界が塞がれる。右も左もわからないほどの煙幕でも米軍戦車は被害を出し続けた。何故ならその殆どは同士討ちによるものだった。

 松本らは全速で戦線から離脱。隊員の遺体を回収するとその場を後にした。


fin

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